溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 「ねぇ、壱葉兄さん聞いていい? 」

 「ん? 」

 「あれから、朔耶さんと璃桜ちゃんは…… 」


 言い掛けて、声が詰まる。朔耶さんの命に大事が無かったことは聞いていた。
 だけど、それ以上のことは何も知らない。知ることが怖くて、聞くことも出来なかった。

 美花が言葉を止めたのを見て、壱葉も湯呑みを下へ置く。


 「やっぱりいい…… 」

 壱葉から真っ直ぐな視線を向けられて、美花は思わず目を逸らす。


 今も、怖い。とても……。


 「……。」

 「何だよ、やめるなよ。 美花の一番知りたいの、ソレだろ? 」


 壱葉が先を促すけれど、美花はそこから動けない。


 いつも心のどこかにある。 きっと、一生消えることはない。
 だけど、実際に自分の罪と向き合うことが、こんなに恐ろしいことだとは分からなかった。


 「美花…… 」

 名前を呼ばれて、自分でも分かる程に肩が揺れた。ローテーブルに置いた美花の手に、壱葉の手が重ねられる。


 「大丈夫だよ。 斎賀も、璃桜も。 ……お腹の赤ん坊も 」

 ハッ……として顔を上げると、壱葉が美花を安心させるように微笑っていた。


 「ほん……とう? 」

 「あったり前だろ? そうでなかったら、俺もお前も、今、ここに居れないぞ? 斎賀がどんな奴か、美花だって嫌だっていうくらい分かってるだろう? 」

 アイツに睨まれたら骨さえ残んねぇよ……と、わざとらしく身震いする。


 「もう、しょうがねぇよ。 アイツがしたことも、お前がしたことも。 しょうがねぇじゃ済まない問題かもしれないけど、俺はもう、そう思うことにした 」

 「壱葉兄さん…… 」

 差し伸べられた手が、気持ちが、優しくて泣きそうになる。


 「兄さんの手、温かいわね 」


 そうか?……と、壱葉が美花の手を両手で包んだ。

 「……手の温もりってさ、言葉では伝えきれないことも、相手にちゃんと伝わる気がするだろ? それだけで分かって貰えるなんて、おこがましいかもしれないけどさ。 少なくとも安心はしないか? 」


 ああ、だからさっきも……。

 思うことも、言いたいことも沢山ある筈なのに、壱葉兄さんは言わないでいてくれている。 ただ、一つの気持ちを除いて。
 でもこうしていると重ねた手から、言わない壱葉兄さんの気持ちが伝わってくる気がするから。


 「分かる気がするわ」

 頷く美花に、しかし、ペロッと壱葉が舌を出す。


 「……なんてね、全部受け売りだけど 」


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