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しおりを挟むガチャと開けたドアの先、「ただいまぁ 」と浩峨がいつもの人好きのする笑顔で笑っていた。
「お……かえり、なさい 」
だけど、いつもなら安心のできるその笑顔が、今は何故か怖い。
「ごめんね、すぐって言ったのに遅くなった。……話があるってのに、この坊っちゃんが抵抗するからさ 」
グイッと首根っこを捕まれて、美花の前に差し出されたのは美花を苦しめている元凶の男。
ハッ……と息を止める美花を目にして、市之宮が少し我を取り戻す。
「み、美花! お前、コイツに説明しろよ! 俺が一体誰なのか…… 」
「美花ちゃんに聞かなくても知ってるよ 」
けれど、その言葉に返事をしたのは、更に微笑みを深くした浩峨だった。
背後で、バタン! と、大きな音を立ててドアが閉まる。
「《市之宮 信吾》くん……、だろ? 」
「何で、知ってる…… 」
「自分だけが知ってるとでも思ってるの? 君が僕のことを調べたように、僕も君のことをちょっと調べただけだよ 」
子どもに教えてあげるような穏やかな物言いは、相手を馬鹿にしているに他ならない。
市之宮の顔が、どす黒い赤色へと変わっていく。
浩峨さん……っ、これ以上は駄目っ!
止めたいのに、市之宮に付けられた傷がパブロフの犬のようにズキズキと痛みだし、美花は刻まれた恐怖に身体を強張らせ、動けなくなった。
「知っててやったって言うのか! 俺の大事な、大事な車をっ! お前も車と同じ目に合わせてやる!! 俺を侮辱して後から後悔しても…… 」
しかし、浩峨は市之宮の恫喝に動じもせず、後ろから市之宮を蹴飛ばす。
フローリングの床に、市之宮が顔を打ち付ける鈍い音がした。
「……ぐっ!!! 」
「うるせぇなぁ。 車、車って、そんなに大事か? あんな車、後で一台でも二台でも買ってやるから、ぎゃーぎゃー喚いてないで早く部屋ん中入りな 」
「あ、あんな車って、お前みたいな奴の…… 」
「俺が言ったこと、聞こえなかったか? 」
怒鳴っている訳でも無いのに、空気が震える。
それは美花も聞いたことの無いような、逆らうことを許さない、相手を威嚇する低い声。
いや、聞いたことはあったかも知れない。
あれは、この家に来て二日目の夜。
あれ以来、浩峨はこんな姿を二度と美花には見せなかったから忘れかけていた。
しかし、この圧倒的な威圧感はあの時とは比較にならない……。
「別にね、君を特別どうこうしようってつもりはないよ。……今のところは、ね?」
これで、《どうこうしている》つもりはないのか?
市之宮は赤くした顔を今度は青くして、ぶつぶつと何かを呟きながら言われるままにリビングへと向かう。
茫然と立ち尽くす美花の横を通り過ぎ様、浩峨は大きな手で美花の頭を撫でると、市之宮を後ろから追いたてた。
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