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しおりを挟む咆哮のような叫び声と、続けてバシン……と何かを受け止める音。
浩峨の腕の中でも衝撃を受けて、白衣の胸元にしがみつく。
「……なんだよ、いきなりなんて酷いなぁ 」
「てンめぇ……。俺はお前なんかが触っていい人間じゃねぇんだよ、手を離しやがれ 」
何事かと恐る恐る顔を上げれば、美花を守りながら浩峨が片手で、市之宮の振り上げた拳を受け止めていた。
「それは無理かな。 君さ、今、俺じゃなくて美花ちゃんのこと狙ったでしょう? それで離すと思う? 」
「うるさい、美花は俺のだ! 俺の物をどうしようが、お前に関係あるかっ! 」
「そう、それじゃあ余計に離してあげられないよ? 」
ギリギリと自分の拳が握り潰されそうな力に、市之宮が顔をしかめる。
けれど、市之宮のその表情とは対照的に、浩峨は口元に笑みさえ浮かべていた。
「この、野郎……っ! 」
敵わないと悟った市之宮は、反対の拳も繰り出す。
しかし浩峨は、美花を守ったまま、今度は自分に向かってきたそれを避けると掴んでいた方の手を引いてよろめかせてから市之宮の足を払った。
市之宮はまたもや、派手な音を立てて床に倒れる。
「……っ?!」
「あーあ、フローリングに傷が付いたらどうしよう 」
悪びれなくそう言った男を見上げれば、殴りかかる前と何ら変わりなく涼しげに笑っていて市之宮は歯噛みした。
「貴様ぁ…… 」
「君もね、一応お坊っちゃま気取ってるなら、自分の身を守る術くらい覚えておいた方がいいよ 」
「うるさいっ! 俺は他人に守らせるからいいんだよ! それだけが自慢の、金で動くバカな奴らなんていっぱいいる!! 」
それを聞いた美花は、浩峨の腕の中で息を飲んだ。
美花に優しくしてくれたのに、市之宮の卑劣な手に落ちた人達。 ある者は暴力で屈服させられ、ある者は圧力をかけられ仕事を追われた……。
浩峨さんをそんな目に合わせる訳にはいかない。
「そんなこと言ったって、実際に今、君は一人じゃない? 誰が守ってくれてるっていうの? 」
「うるさいっ! うるさい、うるさいっ!! 今日ここには、美花を連れに来ただけだったんだ! お前がいる筈じゃあ無かったんだよ! 」
「何を言ってんだか。 そういう不測の事態に対処するのが大事なん…… 」
「橘さん 」
話している二人に割り込んで、『離して下さい 』と続けようとして見上げれば、浩峨がリビングのある一点を見つめていた。
話を中断したのは、美花から名前を呼ばれたからでは無い。
何を見ているのかと視線を追い掛けると、そこにあったのはリビング奥にあるローテーブル。
「あ…… 」
思わず漏れた声に美花を一瞥したが、浩峨は黙ったまま美花をそこに置くとつかつかと目的の場所へ向かった。
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