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しおりを挟む駄目なのに、彼に向かって駆け出す心が止まらない。
「……峨、さ……っ 」
背後で市之宮が、名前を呼ぶ声が聞こえた気がする。
けれどそれはもう、美花を止める手段にはならなかった。
「つーかまえたっ 」
飛び込んだ胸の中で、浩峨が笑う。ふわりと香る、消毒薬の香り。
「もう、知らないんだから……っ! どうなったって、知らない 」
「いいよ、美花ちゃんはなんにも心配することない 」
しゃくりあげながら泣く美花を抱き締めながら、眦にキスをする。
「……ここからは、全部俺に任せて 」
そう言うと浩峨は、ギッとこちらを睨む市之宮の瞳を、美花の頭越しに受け止めた。
◆◆◆◆◆◆
「……ということなんだけど、どうする? 」
出来ればこのまま引き下がって欲しいんだけどと浩峨が告げれば、市之宮が憎々しげに言葉を吐いた。
「ふざけんなっ! そんなこと出来るかっ! 俺のことを馬鹿にしやがって……」
「まぁ、そうだろうね 」
無駄だと分かっていて言ってみたというあからさまな態度に、市之宮は怒りでぶるぶると震える。
気に入らない。 この男の余裕は一体なんなんだ?
自分のことを調べたと言っていたが、それならもっと恐れてもいい筈だろうに。
「分かってんだろうなぁ、美花。 俺が本気の力を出せば、こんな奴、世の中から抹殺してやることなんて雑作もない。お前には教えてやった筈だけどなぁ 」
「違うだろ? 君のパパの力だろう 」
しかし、凄んだつもりの市之宮の言葉はあっさりと浩峨に訂正され、呆れたように肩を竦められた。
「君さぁ、成人してるよね? 聞きたかったんだけど、いい歳して親の力ばかり使うって、それって男として恥ずかしくないの? 」
「……何が言いたい 」
「いや、ね。 俺だったら絶対無理だと思って 」
「はぁ? 何を言ってやがる 」
その言い方は嫌みを含んでおらず、掴み所がない。本当に分からないことを興味で聞いているようだ。
人間なんて、産まれた時に既に身分は決まっている。
持っているものを使うことが恥ずかしいと思う考え自体が、理解不能だ。
そんなことを言うなんて、コイツは本物の馬鹿なのではないかと市之宮は思う。
「相手にしてられっか! 覚悟しろ、訴えてやるからな。 俺にこんな暴力振るって、ただで済むと思うなよ。 お前はそんなことを聞くよりも、これからの自分の身の心配をしろ! 一介の医者如きが、俺様にしたことを考えて、なっ!! 」
それを聞いた浩峨の瞳に、ふっ……と冷たい光が差す。
仕方ないな……、嘆息とともに呟くとその瞳で市之宮を見定めた。
無意識のうちに、市之宮が後退る。
「そうか、君がそういう考えなら俺も同じ土俵に立つしかないね。それが君の価値観なんだから 」
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