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しおりを挟む華奢な身体を逃げないように抱き締めると、腕の中の仔猫がもがく。
怖くないよ……と背中を擦りながら、閉じた合わせを舌で辿れば、美花の口唇が薄く開いた。
すかさず浩峨は、角度を変えて口付けを深くする。
「ん……っ 」
口唇の端から、漏れる吐息。
さっさと観念すればいいのに抗って弱い力で胸を叩くから、浩峨は美花を壁際に追い詰めた。
脚の間に曲げた膝を入れて、動けないよう腕の中に閉じ込める。
絡める舌が、あまくてあまくて弱った。
何も考えさせないようにしたいのに、こちらが先に溺れてしまいそうだった。
夢中になりそうなのを堪えて、美花の官能だけを引き出してゆくと、その内、美花の身体から力が抜けてきた。
淡く抵抗するほっそりとした手は、いつの間にか浩峨の胸元を握って自身の身体を支えている。
そっと柔らかな弾力に触れれば、あっ……とか細い声が聞こえた。
背後で息を飲む気配がしたが、今度は市之宮は何もしてこない。
蕩けた身体を抱いたまま、浩峨はクスリと微笑む。
「美花ちゃん、手はこっち 」
首に回させた両手は、しがみついて浩峨を引き寄せる。
鎖骨に触れる鼻先、甘えるような仕種が可愛い。 耳許にちゅっ、ちゅっと音が出るように口付けると、美花が擽ったそうに肩を竦めた。
直接に体温を感じたくて、清楚な白いブラウスを裾から引き抜いてももう抵抗はない。
きゅっ……と、縋る力がつよくなるだけだ。
指先でしっとりとした肌を感じながら、そこで初めて気付いたように、浩峨はチラリと市之宮に視線を向けた。
「……この先も見てく? 」
聞かれて、有り得ないものを見るようにこちらを凝視していた市之宮の体がビクッ……と動く。
「勿体無いけど、君なら見てってもいいよ。とろとろになった美花ちゃんは凄く可愛いから 」
焦らしてやると俺のことが欲しいって、直ぐに泣いちゃうんだよ……と笑ってやると、目に見えるように市之宮が肩を落とした。
圧倒的敗北に打ち拉がれるその姿は、ある意味気の毒だった。
きっと、この我が儘坊っちゃんは、今までこんな目にあったことは無いのだろう。
だが、美花にしたことを許す訳にはいかない。
茫然自失のまま背中を向けた市之宮に、浩峨は最後に言い忘れたことを言わなくてはと気付いた。
透けるような白い首筋に口唇を寄せながら、「診断書、ちゃんと取ってあるから 」と呼び止めると、訝しげに市之宮が振り向いた。
「診断……書? 」
「分かってっだろ? 君が美花ちゃんにしたDVの診断書 」
隠しようのない位置にわざときつく吸いついて跡を付けると、美花が切ない声を零し、それを聞いた市之宮がぐぅとも聞こえない声で呻く。
「ごめん、痛かった? 」
「こ……が、さ…… 」
甘ったるくねだる声に、浩峨は美花の頭をヨシヨシと撫でた。
「……もういいや、行っていいよ 」
普段美花は遠慮しているのか、決して自分のことを名前では呼ばない。
しかし、いつも心の中では呼んでいるのだろう。 本人は気付いているのか分からないが、無意識下ではそれが出る。
何かに夢中になっている時、例えばこういう場合だ。
こんなに欲しがられて、気持ちが持っていかれない訳がない。 ましてや、それが自分だけに対してと知ってしまえば余計に……。
片手でシッシッ……と市之宮を払うと、よいしょと美花を抱き上げた。
離されまいとする身体を抱き締めて、浩峨は市之宮に最後の引導を渡す。
「もう二度と美花ちゃんの前に姿を見せないでね。分かってると思うけど、君のお父さんの会社と自分のことが大事なら。
……でも、どうしてもって言うなら、こちらも相手する準備は出来てるよ? 」
市之宮には、何も出来ない。
何か、事を起こせばそれ以上になって自分に返ってくると理解したであろうから。
後ろ暗いことの多い人間は、これだから助かる。
見越して、浩峨は寝室の扉を開けた。もう、振り向きはしなかった。
既に終わったことよりも、腕の中の無性に可愛い存在をどうしてやろうかと楽しい算段を始めていた……。
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