溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 ◆◆◆◆◆◆




 直ぐに、戻るからねーーー。



 柔らかなベッドに降ろされて、ひとしきり背骨が溶けてしまいそうなキスを与えられた後、そう囁いて浩峨さんは部屋を出ていった。
 少しでも離れるのが寂しくて、イヤイヤと駄々を捏ねる美花を何度も何度も優しく宥めて。

 しかし、パタン……と、やけに大きく聞こえたドアの閉まる音が、いきなりふわふわとした気持ちを現実に引き戻した。

 催眠術が解けたみたいに、サーッと甘い空気はあっという間に霧散し、今起きた出来事が頭の中に流れ込んでぐちゃぐちゃにする。


 どうなっているのか、美花には自分で考える以上の信じられないことが起こり過ぎて整理がつかない。


 特に問題なのは、浩峨にキスされた辺りからここまでの記憶が、曖昧になってしまっていることだ。

 いつの間にか外された釦。 乱れた胸元に気付き、慌てて両手で掻き合わせる。



 『こ……が、さぁん…… 』

 続いて、甘えて欲しがった自分の声が耳に蘇って、かぁ……と頬が熱くなった。


 なんてことしちゃったんだろう……っ!!

 あの時、市之宮はまだ部屋に居た? 居なかった?


 でも少なくとも、キスされた時には部屋に居た気がする。


 恥ずかしさで死にそうになり、美花はダウンケットの中にくるまってゴロゴロとのたうち回りたくなった。

 どうして何時もこうなってしまうのか。

 浩峨さんに抱き締められて、匂いに包まれてしまうと、ドキドキして直ぐに何も考えられなくなってしまう。

 口付けられると、じん……と身体の芯が痺れて、抗うことも忘れて彼のされるままになってしまう。こんな時でさえ。


 初めからそうだった、初めからあの人は誰とも違っていた。



 ズキッ……と、胸の奥が疼く。


 東菱商事の創始者の孫で現総帥の子息。 浩峨さんが、そんなに遠い人だったなんて知らなかった。
 それは思ってもみないことだったから。

 市之宮の言葉を借りる訳ではないけれど、それこそ自分とでは釣り合わな過ぎる。


 私の中では今朝まで、のんびりとした優しい探偵さんだったのに……。


 「でも、嬉しかった…… 」


 つん……と痛む鼻の奥。

 絶対に逃れられないと思っていたあの男の手から、救い出してくれた。

 浩峨さんは、ずっと一生、私のヒーローだ。


 でもだからって勘違いしてはいけない。

 分かってる、浩峨さんは市之宮に私と結婚するって言ってくれたけれど、あれは守ってくれる為の方便だ。 
 本気にしてはいけないことなんか、ちゃんと分かってる。


 浩峨さんは優しいから、きっとこんな私を可哀想だと思って愛情を分けてくれたのだろう。

 少しだけ域を越えた、お医者様と患者の関係。
 それだけで充分、それ以上望んだらバチが当たるでしょう?



 ぎゅっ……と瞑った目から、ポロっと涙が落ちてシーツを濡らした。



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