溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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6.

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 言うなり、浩峨は「10、9 」と、いきなりカウントダウンを始める。


 「え? 」

 「時間が無いから、10秒以内に決めて。 7、 6…… 」

 「え? え? 」


 時間って何の時間? 考えて、美花は思い出した。

 浩峨さん、仕事途中で抜け出して来てくれたって言っていた……。


 「5、4 」

 「橘さん、もういいですから。 私は大丈夫ですから、仕事に戻って下さい 」

 「3、2 」

 「橘さん! 」


 けれど、浩峨はカウントダウンを止めようとはしない、それどころか……。


 「あっ、言い忘れたけど、“0”までいったら問答無用だから。1 」

 「問答無用って、何が?! 」

 「何がって、決まってんでしょ? ゼ…… 」


 ニヤリと不敵に笑われて、ゾクリとした。
 その蠱惑的な微笑みに一つのことしか想像出来なくて、美花は、慌てて叫ぶ。


 「たっ、橘さんは優しいから……っ! 」

 迫ってくる浩峨の胸元を押し返すと、不思議そうにその手を取られた。


 「優しい? 」

 聞かれてコクコクと頷く美花に、浩峨が首を傾げる。


 「うーん、優しいかなぁ 」


 浩峨さんの顔が近過ぎて、どこを見たらいいのか分からない。
 背けた頬に吐息がかかって、心臓がどくん……と跳ねた。


 「優しいじゃないですか…… 」

 「いや、そうじゃなくて、優しいのは当たり前なんだよ。でも、美花ちゃんの言ってるのは違うよね? 」

 浩峨の言葉はいつも難しい。
 自分で優しいと認めながら違うと言われたって、意味が理解出来ない。

 矛盾したことを言っていると、自分では気付かないのだろうか?


 「初めから、お医者様ならお医者様だって言ってくれれば良かったのに。 橘さんが優しいから、優し過ぎるから、私みたいなのが誤解するのよ 」

 話している内、馬鹿な自分が惨めで情けなくなって、口許に嫌な笑みが貼り付く。

 もしかしたら、好きでいて貰えてると思った。愛してくれると期待した。
 気持ちは、もう元の所に戻れなくなるくらいに。


 「だから出ていくんです。 橘さんも、その方がいいでしょう? 家に帰ってからも仕事だなんて気の休まる時がないもの 」

 本当はここから出て行きたくなんかない、この人の側に居たい。
 だけど、これ以上この人の優しさに甘えてはいけない。


 「これ以上、橘さんに迷惑は掛けないから安心して下さい。それに、もう誰かのところに転がり込むなんて言わない。 兄が一緒に住もうと言ってくれたので 」

 用意していた訳でもないのに、表面だけの言葉が次々に口から滑り落ちる。
 こんな時ばっかり饒舌になる自分に、笑いたくなった。


 「もし橘さんの許可が出るなら、今すぐにでも兄の元へ行こうと思っています。 住む所が決まるまで一緒に暮らせるように家主さんに頼んでくれるそうだから…… 」


 「……で? 」


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