溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 ーーーえっ?


 身体の上から重みが消え美花が視線を上げると、上半身を起こし、ベッドの上に立て膝で座る浩峨の姿が目に映った。
 こちらに背中を向けた後ろ姿は、ガリガリと頭を掻いている。


 「……ガックリだよ。 今まで君は、俺の何を見てたの? 人を何だと思ってんだ? 」

 吐き捨てるような物言いに、美花は肩を揺らす。


 「じゃ、何か? 俺が美花ちゃんを抱いてんのは、仕事の一環だって言いたいの? 治療と称して患者に手ぇ出すなんて、どんな最低な医者だよ 」

 「そ、それは……っ 」

 「『それは 』何? また、優しいからだとか言う気? 悪いけど、俺は誰にもは優しくないよ。 優しいだなんて、そんなの大切に思ってるからに決まってる 」

 「大……切? 」


 嘘よ、そんな都合のいいことある筈ない。

 言葉が続かない美花に、後ろに手を付いた浩峨が肩越しに振り返る。


 「美花ちゃんが俺のことを優しいって感じるってことは、そういうことなんじゃねーの? 」


 ベッドの下に、力なく落とした片足。

 そのまま何処かへ行ってしまいそうで、美花も急いで身体を起こす。


 「あーぁ……、なぁんも伝わってなかったなんて泣けるわ 」

 「待って、橘さん……っ 」


 それだけじゃ 分からない。 ちゃんと教えて欲しい、私の思い違いでないなら。


 「……きっ、好きです! 」

 衝動的に抱き付いた広い背中が、驚いたように動きを止めた。

 暫くの静止の後、浩峨が小さく嘆息する。


 「でも、諦めようとしたんだろ? 」

 ぶんぶんと首を振りながら、しがみつく手に想いを込める。

 好きだと言って、私だけだって言って。


 「橘さんが傷付くことをするくらいなら、死んだ方がまし 」

 震える声に奥歯を噛む。


 罪が消えないことも、釣り合わないことも分かってる。

 だけど少しでも想いがあると言うのなら、……お願い、この気持ちから早く救って欲しい。
 

 だって本当は、あなたの側じゃなきゃ、もう私は息も出来ない。


 「ごめん、拗ねて意地悪言った 」

 震える手に、温かい手が重ねられた。


 「美花ちゃん 」

 ぽんぽんとその手を宥めるように叩かれるが、美花は離されないようにぎゅっと力をつよくする。


 「美花ちゃんは俺のこと凄くいいヤツに思ってるみたいだけど、俺ね、本当は嫌なヤツなんだよ? 」

 首を振った美花の耳に、浩峨の困ったような苦笑が聞こえた。


 「美花ちゃんが知らないだけ。 おっさんだし、仕事の虫だし、嫉妬深いし?  」

 「そんなの……っ、歳上なのも、仕事に一生懸命なのも知ってます! 嫉妬深いのは……、えっ嫉妬? 」


 「美花ちゃん、手離して 」
 
 さりげなく解こうとしても離さない自分に、曖昧にしていた拒絶をハッキリと言われた気がした。

 胸の奥がズキ……と痛む。


 「ごめん、なさい…… 」

 「違うよ 」

 狼狽えて引こうとした手は直ぐに捕らえられた。 そして、こちらに向き直った浩峨は美花の両手首を掴み直すと、綺麗な目で瞳を覗き込んでくる。


 「正面から美花ちゃんを見たいだけ 」

 端整な顔に乗せられる、柔らかい微笑み。


 ーーー俺の好きなコの顔をちゃんと見たいだけ。


 引き寄せられて、耳元に囁かれる言葉に全身の体温が上がる。


 「たちば……っ?! 」

 「本当に気付いてなかったの? 」


 呆れた声など、気にならない。美花は目の前の大好きな人に飛び付いた。



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