溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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6.

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 ダウンケットから覗く左手を取ると、王子様のように薬指にキスをする。
 伏せる瞳にサラリと艶のある黒髪がかかって、ドキドキした。


 「だからね、結婚指環 」

 「でも橘さん、それを言っちゃったらサプライズにならない…… 」

 すごく格好良いのに肝心なところで抜けていて、美花は唖然としてしまう。
 浩峨は浩峨で、美花の突っ込みに目を円くした。


 「あっ、そうか…… 」

 その表情が何だかとても可愛くて思わず吹き出すと、それを見た浩峨も一緒に笑う。
 しかし、二人でひとしきり笑い合った後、「じゃあ美花ちゃん、一緒に見に行ってくれる? 」と聞かれて、美花は躊躇ってしまった。


 ……本気なんだろうか?


 可愛いって言ってくれた、好きとも言ってくれた。しかし結婚は、それだけで出来るものではない。
 ましてや、自分は橘家の本家の屋敷で許されないことを仕出かした張本人だ。


 すぐに返事をしない美花に、浩峨が茶化すように言う。


 「あらら。まさか美花ちゃん、怖じ気付いた?」

 自分の為に肩身の狭い思いをさせる訳にはいかないから。

 「あのね、私このままでいい。 結婚なんかしなくても…… 」

 「そうだよなぁ、あんな家に入るかもって思ったらビビるよなぁ 」


 ところが浩峨は美花に最後まで言わせずに、しかも思ってもいないことを口にした。
 美花は慌てて、それを否定する。

 
 「そういう意味じゃ…… 」

 「期待させて悪いけど、俺は橘の家を離れてるし、これからも東菱に入る気もない。俺自身は金無し暇無しの雇われ医者よ? ……でも、美花ちゃんを守れる位の力はあると思う 」
 
 「橘さん…… 」

 「何も美花ちゃんが心配することなんかないんだよ 」

 包みこんでくれるような優しい微笑みに、美花の心はじんわりと暖かくなる。
 本心からの言葉だと感じられるから。

 だけど、全部分かって、引っくるめて受け止めると言ってくれていても、どうしても素直には頷けない。


 「もう、何んにもないただの探偵さんだったら良かったのに…… 」

 そうしたら、色んなことを考えなくて良かったのに。


 途方に暮れて、ポツンと落とした呟き。

 けれどその呟きに、浩峨がキョトンと分かる程に瞳孔を開いて、じっ……と美花を見てきた。


 「美花ちゃん 」

 「え…… 」

 そして次の瞬間、ぎゅうぎゅうと息が出来ないくらいに抱き締められたと思ったら、浩峨が声を立てて笑い出す。


 「全く君ってコは…… 」



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