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2−1 バイトが始まる
しおりを挟む夏休み数日前からバイトが始まった。
放課後、自宅で着替えてからカナトの家に行き、インターホンを鳴らす。
「いらっしゃい。待ってたよ」
笑顔で出迎えてくれたカナトに深々と頭を下げた。
「今日からよろしくお願いします」
「そんな固くならなくてもいいよ。とりあえず今日は仕事の話と家の案内をするだけだから。とりあえず上がって?」
広いリビングに通されて、言われるがままソファーに座ると冷たいお茶を出された。
「お菓子もあるから食べながら聞いてね」
色んなチョコレートのお菓子が入った籠が目の前に置かれる。
驚いたことにそこには私の好きなチョコ菓子しか入っていなかった。
「⋯⋯兄から私の好み聞いたんですか?」
お菓子の籠を指差しながらカナトを見つめて聞く。
「たまたまだよ⋯⋯好みに合ってるなら良かった」
優しく微笑むカナトに笑顔を返すと早速お菓子を一つ頂き、仕事の話が始まった。
仕事の話といってもやることはただの家事だ。
洗濯と掃除と夕飯の支度。夏休みに入っても同じだが週二で午後二時から来て、買い出しやおかずの作り置きを用意してほしいとのことだった。
「家事に関して苦手なことはある?俺の下着とかあるけど抵抗はない?」
「小六から家で一通りやってるので大丈夫だと思います。下着も特に気にしません」
「頼もしいね。じゃあ家の中を案内しながら物の位置とか教えるよ」
全ての部屋を一通り確認し、家事に使う道具の把握をすると大量の本が置かれた一室に案内された。
「もしかしたらここの本を取ってきてってお願いするかもしれないから」
リビングに戻ると何か質問はあるか確認される。
「食事に関してなんですが、アレルギーとかはありませんか?あと好みも」
「アレルギーは一切ないよ。苦手な食材もないけど⋯甘い物は全般ダメかな」
「わかりました」
「そしたら今日はこれくらいにして明日の放課後からお願いね。分からないことはいつでも聞いてくれていいから」
そしてカナトはアラタに鍵を差し出した。
「アラタちゃんの職場の鍵。インターホン要らないからこれで勝手に入ってきてね」
「え!?それはいくらなんでも⋯先生の自宅ですよ!?」
「そうだけど⋯俺はここの地域の人と違って毎回しっかり施錠しちゃうし、仕事中は極力インターホンも鳴ってほしくないんだ。だから⋯これでお願い」
確かにこの町は家に人がいるなら施錠しない家庭が多く、就寝時以外は開きっぱなしの状態だ。
それが理由ならば仕方がないと思い、鍵を受け取って目線を上げるとカナトがとても嬉しそうに笑った。
この人、笑っただけでほとんどの女落とせるんだろうなーーと思いながらその笑顔に微笑み返す。
また明日。と玄関から手を振るカナトにお辞儀して帰っていった。
アカネと昼食を取り、後片付けを済ますとショルダーバッグを肩に掛けて玄関に立つ。
「いってらっしゃーい」
部活が休みだったアカネに見送られて、バイトに向かう。
片道一〇分の道を照りつける太陽と戦いながら歩いていき、職場の鍵を開けて中に入ると快適な涼しさでやっと呼吸が出来たような気分になった。
「ちょっと⋯また帽子被ってないの?」
ダイニングテーブルで仕事をしていたカナトが眉間に皺を寄せて言ってきた。
片道一〇分でも熱中症を舐めたらいけないと小言を聞いてからキッチンに入り、洗い物を確認する。
「今日は水回りの掃除お願い。そのあと軽食お願いしていい?集中してたら昼食べるの忘れてた⋯」
手早く掃除を済ませて、サンドイッチを作るとアイスコーヒーと一緒にカナトの目の前に置く。
「随分凝ったサンドイッチだね」
タマゴサンドとハムとレタスのサンド、そして照り焼きチキンのサンドの三種類を用意した。
少し作る工程は多いかもしれないが凝っているわけではないと思っている。
「コンビニのサンドイッチみたいだね。でもこっちのほうが断然美味い!」
パソコンで作業しながら良い顔でサンドイッチを食べてくれるので素直に嬉しく思った。
作り置きを用意する為に冷蔵庫から食材を出していく。
何を作るか考えて、調理を開始していくが正面のダイニングテーブルで仕事をするカナトが気に掛かる。
「部屋で仕事しなくていいんですか?調理の音、うるさくなると思いますよ?」
確認をしたが「大丈夫」と言うので雇い主がそう言うならいいか――と調理を再開し、完成していった物をタッパーに詰めて冷蔵庫に仕舞っていく。
朝食や昼食に良さそうな物も用意して冷凍庫に仕舞っていると背後の気配に気付いて、勢い良く振り向いた。
「これ全部温めるだけ?」
私の上から冷凍庫を覗き込むカナトに驚いて体が跳ねた。
驚きで心臓が高鳴っている状態のまま、ざっくりと温めやトーストの時間を伝えていくと冷凍庫を閉めて、冷蔵庫の作り置きも確認するカナト。
その姿は仕事を確認しているように見えるが他にも何か感じさせられるほど表情がとても穏やかだった。
「⋯何か嬉しそうですね。好きなメニューありましたか?」
「美味しそうだとも思ってるけど、それ以上に冷蔵庫に手作りの作り置きがあることが嬉しくてね」
純粋に手作りに喜んでいる言葉に聞こえるが⋯何故か意味深に聞こえてしまい、それ以上言葉を返すことが出来なかった。
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