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3 誕生日
しおりを挟むある休日の夕方。
家のインターホンが鳴り、戸を開けると笑顔のイチカが立っていた。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう!入って入ってー」
今日は私の一六歳の誕生日。毎年イチカも我が家に呼んで誕生日祝いをしているのだ。
リビングのテーブルにはご馳走が並んでいて、イチカが私の両親に挨拶しながら座る。
みんなでご馳走を食べて、プレゼントを貰っていると家のインターホンがまた鳴った。
母がモニターで確認すると慌てた様子で玄関に向かう。
「誰だろ?」
「お父さん、アラタ!カナト君来たよ!」
廊下から母の嬉しそうな声が響いてきた。
「え!?先生!?」
早く入ってもらえ――と父に言われ、母が招き入れるとリビングにカナトが顔を出した。
「お祝い中にお邪魔してすみません。これ、つまらない物ですが⋯」
「いやいや、何言ってんだ。こんな気を遣わないでいい!いつもアラタがお世話になってるんだから。ほら、こっち座って」
菓子折りを受け取った父に促されて座ったカナトが正面に座る私に微笑んだ。
「誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
「そちらはお友達?」
「ハイ。小学校からの友人のイチカです」
カナトとイチカが挨拶を交わすと持っていた大きな袋からガサガサと何かを出そうとしていた。
「実は今日はこれを持ってきたんだ。ハルキから届いたんだよ」
「なんでこっちに直接送らないんだ?」
「俺はずっと家にいるので確実に受け取れるからだと言われました」
納得する父。
綺麗に包装された大きく平たい箱のプレゼントを渡されて、遠慮なく開封していく。
中には某メーカーのメイク道具一式が綺麗な装飾と共に可愛らしく並べられていた。
一緒に入っていたメッセージカードには” 同僚のチョイス 感謝して使え ”と書かれている。
「これは⋯なかなか良い。名前も知らない同僚の方、ありがとうございます」
「でも人に頼まなくてもハルキ兄ちゃんってプレゼントセンス良いよね?」
「まぁね。大学の時も毎年良いの送ってくれてた」
「ハハッ」
カナトがいきなり声を出して笑った。
「ゴメン⋯ハハッ、大学の時は毎年俺に選ばせてたんだよ?お母さんとアカネちゃんのも」
家族全員が言葉を失った。
「確かにあいつはそういう奴だな。同性は兎も角、異性への贈り物は例え相手が母親でも昔から自分で選ばなかった」
「私、カナト君が選んでくれてて良かった。去年のプレゼントのパーカー、可愛いし大きめだったからまだ着てるもん」
「そうでしょ?あのパーカー着心地も良いって人気だったんだよ」
うんうん――と嬉しそうに頷くアカネを見て、微笑ましく思う。
「アラタは去年、本だったよね?」
「うん。当時ハマってた北山カイトのファンタジー小説ね。本物か判断できない直筆サイン入り⋯⋯」
まさか⋯――と思いながらゆっくりとカナトに視線を向けていく。
「本物だよ」
「やっぱり⋯じゃあ、北山先生と知り合いなんですか?」
「俺が北山カイトなの。たまーにそのペンネームでファンタジー物出してるんだよ」
脳内の情報処理が追いつかず、固まる。
私の好きなファンタジー小説の作家と恋愛小説の作家が同一人物で目の前にいる⋯
信じられない状況に目眩を感じた。
「ゴメンね、驚いた?そうだ!これ、俺からね」
小さな紙袋を前に出してきた。
「そんな⋯いつもお世話になってるのに⋯」
「ん?お世話されてるのは俺だけどね。折角知り合えたんだから受け取ってよ」
カナトが困ったように笑うので素直に受け取り、中身を確認するとクリアバックに入った涙型のチャームがぶら下がったシンプルなピアスが出てきた。
ピアスが好きで穴は空いているが普段ピアスをする機会は全く無い。
「ピアスホール空いてるってことはピアス好きなんでしょ?」
「ハイ。でも普段付けるタイミングがなくて」
「バイト中に付けてても構わないよ?仕事に支障がなければ服装やアクセサリーは好きにしてくれていいから」
イチカに付けてみな?と言われて、久々にピアスを付けると耳に感じるアクセサリーの感覚に心が踊った。
「いいじゃん!似合ってるよ!」
「ほんと?先生、ありがとうございます!凄く嬉しいです」
「喜んでもらえて良かったよ」
喜ぶ娘を見て、ご機嫌な父がビールの缶を片手に笑顔になる。
「ハルキは良い友達を持ったな」
「いえ、俺がハルキという良い友人を持てたんですよ」
「そうか⋯⋯カナト君、呑んでいきなさい!母さん、ビール持ってきて!」
感動を隠しきれない父を見て、母がニヤけながらカナトにビールを渡す。
「先生、仕事は大丈夫なんですか?」
「まだ大丈夫。折角だから頂いていくよ」
そうしてカナトは私の両親に挟まれて、楽しく話しながらお酒を呑んでいた。
帰る時間になったイチカが両親やカナト、アカネに挨拶すると私は見送りをする為に一緒に外に出た。
「⋯⋯倉田先輩がムキになってる理由がよくわかったよ。でも良い人みたいだね。安心した」
「でしょ?」
「アラタは大事にされてるみたいだね」
今日はありがとう!――と手を振って、タクシーに乗り込んで帰るイチカを見送り、家に入ってキッチンに向かう。
洗い物をしていると隣にカナトがやって来た。
「手伝ってもいい?」
「いやいや、お客さんは座ってて下さい!」
「ご馳走になったし、帰る前に少しでも手伝っていきたいんだ。⋯⋯邪魔?」
「邪魔なんて⋯⋯そしたら食器拭いてもらっていいですか?」
「うん。ありがとう」
ありがとうはこっちの台詞だよ――と思いながら食器を洗い続ける。
リビングからは「カナトに自分達を何と呼ばせるか」で両親が言い合いをしている声が聞こえてくる。
なんちゅー下らない争いだ⋯――と思いながらカナトに視線を向けると食器を拭きながらとても嬉しそうに両親を眺めている。
「(先生が嬉しいなら⋯いいか)」
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