結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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4−1  嫌がらせ

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 いつもの学校の昼休み。
 イチカと弁当を食べていると教室の戸が勢い良く開いた。 

「渡仲アラタっていますかぁ?」

 見たことはあるが名前は知らない三年の先輩からのご指名だ。

 ヤベー、とうとう来た⋯

 散々逃げ回って来たが、まさかの食事中の呼び出し⋯逃げられないと諦め、手を上げて返事をする。
 こっちに来いと手招きされて廊下に出ると倉田が腕を組んで立っていた。

「あんたさぁ、夏休みに凄いイケメンと一緒に買い物してたしょ?あれ誰?」

 第一声からそれかよ――と悪い意味で期待を裏切らない倉田に対して笑いが込み上げてきた。
 だが、ここで笑ってしまったら面倒臭さが増すだけなのは火を見るよりもハッキリしている。
 私は想定していた質問や要求に対して、用意しておいた答えを返した。

「あの人は兄の友人で作家の先生なんです。最近引っ越してきたので兄に買い物先の案内をするように言われていたんです」

「へぇー⋯名前は?」

「先生の許可を得てからでないと教えられません」

 たかが名前でしょ!?――と苛ついて怒鳴られる。
 だがそのたかが名前を教えてもらえず苛ついているのはどこの誰だ――と言い返したい気持ちを抑えて、冷静に対応するように努めた。

「先生に言われているので⋯名前も言えませんし、紹介も出来ません」

「それ、あんたが勝手に言ってるだけじゃないの?」

 全て、バイトを始めてすぐにカナト本人から言われたことなので首を横に振った。
 「使えねぇ」と小さく言葉を溢しながら倉田は連れと一緒に去っていった。

「あれは暫く面倒かもね」

 気が重くなるが本当にタチが悪かったら大人に出てきてもらえばいいと思い、余裕を持って構えていた。
 そのうち飽きるだろう――とタカを括っていると呼び出されるのではなく、至る所で顔を合わせるようになり、その度に「ウゼェ」「ブス」等と暴言を吐かれるようになった。
 それに対し、落ち込むことはなかったが⋯連日続くとさすがに腹が立ってくるものだ。

 ほんとガキ臭い!聞き流せばいいって分かってるけど毎日毎日~~!





「デブ。邪魔」

 最近のお気に入りは体型イジりのようで、廊下ですれ違うと必ず「デブ」と言い放たれる。

「私そんなデブかな?」

 机に突っ伏してイチカに聞く。

「太ってないでしょ。乳以外は標準なんだから」

「細いイチカが横にいると二割り増しになる⋯」

「人のせいにすんなって。乳のせいで着太りしてるだけだって」

 平均より大きな胸はコンプレックスだ。
 控えめな見た目でありたいのに、平均以上のこの胸は邪魔でしかない。



 そして帰り道、イチカと途中まで自転車を押しながら帰り、別れてから自転車に乗って自宅に帰る。
 いつものように着替えて洗濯と洗い物を済ませてから自宅を出て、バイトに行くがカナトの家の鍵を開けて、中に入ろうとすると誰かに見られているような気配がした。
 戸を開けたまま周囲を見渡すが⋯⋯特に何もいない。
 気の所為だったかな?――と考えながら後退りして家に入ろうとすると何かにぶつかった。

「どうしたの?」

「あっ、すみません。何か見られてる気がして⋯」

 外に出たカナトが家の周りを見渡す。

「気の所為かもしれないんで」

「一応気を付けようね。帰りも送るから」

 近所だから必要ない――と断ると肩に手を置いたカナトが眉尻を下げて軽く背中を丸めた。

「アラタちゃんに何かあったら俺がハルキに絞められちゃうよ」

 背中を押されて家の中に入ると戸を閉めてしっかり施錠した。
 帰りは宣言通り、カナトが家まで送ってくれてしまい、申し訳なさでいっぱいになった。





 その後も下校中とバイトまでの道で人の視線を感じた。
 でも感じるだけで振り返っても人はいない。
 隠れているだけかもしれないがほぼ毎日続くとなると気味が悪くなってきた。

「倉田先輩じゃない?先生かアラタを狙ってるってことでしょ?」

「分かんない。視線を感じるだけだし」

 弁当を食べ終えて、昼休みをイチカと話しながらダラダラ過ごしていると教室の戸が開いた。
 そこにいるのは前に倉田の代わりに自分を呼びに来た三年の先輩だ。
 その先輩は私を見つけると手招きして呼んできた。

「とうとう二回目だね」

「あ゙~~、いってくるわ~」

 教室から出ると廊下で待つ倉田と目が合った。

「あんたとあのイケメンってどういう関係なの?」

「兄の友人で、その妹ってだけですけど」

「それだけ?」

 黙って頷くと思った答えが得られなかったのだろうか⋯倉田は眉間に皺を寄せて去っていった。
 こんな事の為にわざわざ呼ぶんじゃなーよ――と溜め息を吐きながら教室に戻り、席に座る。

「やっぱ後尾けてる人って倉田先輩じゃない?」

 頬杖を付いたイチカが顔をしかめた。

「職場着いたらたまに先生が出迎えてくれるんでしょ?それ見て、色々勘違いしてるんだと思うよ?」

 カナトはたまに家に着くのと同時に戸を開けて出迎えてくれる。
 でも何かスキンシップがあるわけでもなく、お互いに笑顔で挨拶して中に招き入れられてるだけだ。
 見られているとしたらそういう光景だと思うが⋯どうやったら逆恨みされるような勘違いを生むのかが全く分からない。

「何にしても⋯先生の家まで付いてきてるし、そろそろ証拠でも掴もうかな?」

 一人でやるのは危険だとイチカに諭され、頼もしいことに手を貸してくれると申し出てくれた。
 決行はイチカのバイトが休みの明後日だ。

「くれぐれも一人で何かしようとしたらダメだよ!」



 イチカに散々心配されて、また今日も人の視線を感じながらカナトの家に向かう。
 家に入ると階段から下りてきたカナトが心配そうに駆け寄ってきた。

「今日も⋯見られてた?」

 大丈夫です――とカナトを見上げながら笑顔で答えるがカナトは不安そうに眉をひそめた。

「先生ってほんと背高いですよね。何センチですか?」

「え、⋯一八五⋯⋯」

「デカっ!その身長でスタイルも良いから羨ましいですよ」

 欲をいえば私はあと五センチは身長がほしかったーーと明るく話しながらリビングのソファーにショルダーバックを置くと頭にカナトの大きな手が乗った。

「大丈夫。アラタちゃんは今のままで十分魅力的だから」

 顔を覗き込んでくるカナトの顔が思ったより近くて、不覚にも顔を赤くしてしまった。
 恥ずかしくて鼻と口を両手で覆い、俯いてしまう。

「先生⋯⋯場合によってはセクハラになりますよ?」

「えっ!ウソ!?」

 手を離して慌てるカナトを見て笑ってしまった。
 笑いながら「冗談ですよ」と言うとカナトが悔しそうに頭をワシャワシャと撫でまわしてきた。





 付き纏いの犯人が誰か証拠を押さえる為に休み時間の度に作戦を練る二人。

「やっぱ振り返っても見当たらないなら私が更に遠くからアラタの後を付けていくしかないね」

 そうなるとイチカも危ないんじゃないかと心配したが「動画撮りながら走って撒く」と言い放つ。
 心配なのは変わらないが学年の女子で一番足の速いイチカを信じることにした。

「昨日の下校中は何もなかったんでしょ?」

「うん。バイトない日は絶対にない」

 一日置きにバイトに言っているとはいえ、こうもあからさまにバイトの日にだけ後を尾けてくるとなると狙いがカナトなのは一目瞭然だ。
 カナトの仕事の邪魔になるようなことが起きる前に解決してしまいたい。
 雇って貰っているからというよりは、自分自身が新刊の発売をとても楽しみにしているからだ。
 そんな私にイチカは呆れた顔を向けた。
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