結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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 下校時間になり、いつも通り自転車で帰ると遠く離れた後ろからイチカが付いてくる。
 自宅に入って支度をしているとイチカからLINEが届いた。

【アラタんちの近くのコンビニで待機してるよ! さっきまで目の前に倉田先輩いたけど多分普通に帰ってった 】

【了解! 今、家出るよ!】

 イチカに返事を返してからすぐに家を出て、カナトの家まで歩いていく。
 あっという間に家に着き、鞄から鍵を出しながら戸に近付いていくと急に左肩を後ろに引っ張られた。
 驚いて振り向くと⋯倉田が一人で立っている。

「あんた⋯いつもここで何してんの?」

「それは私が先輩に言いたいんですけど⋯いつも尾けて来てましたよね?」

「だったら何?いいから質問に答えなさいよ!」

 ストーカー行為を認めたくせにこの横暴な態度⋯
 まともな話し合いが通じ無さそうで頭を抱えた。

「兎に角、帰って下さい」

「いやいや、折角来たんだから家に上げなさいよ」

 他人の家なのに何を考えているのか⋯
 ひたすら帰れと言い続けるが相手は聞く耳を持ち合わせていなかった。
 そして一向に姿を現さないイチカに何かあったかと不安を感じて、意識が一瞬逸れると倉田はショルダーバックに手を伸ばして中に手を入れようとしていた。
 鞄を握りしめて、倉田の手を離そうとするが相手も鞄を掴んで離そうとしない。

「鍵、持ってるんでしょ?早く出してよ」

「出すわけないでしょ!おかしいですよ!」

「おかしいのはそっちでしょ?友達使ってまでイケメンを独り占めしたいわけ?」

 訳が分からないが⋯要は倉田の頭の中では私のせいで自分とカナトが出会えない切ないラブストーリーの設定にでもなっているのだろう⋯
 何にしても迷惑なのは変わりない。

 倉田の後ろに走ってきたイチカが見えて、安心しているとイチカが立ち止まって目で後ろを見ろと合図してきた。
 何故か倉田も鞄から手を離し、顔を上げて赤面している。
 あぁ、そういうことか――と後ろを振り向くと真後ろに真顔のカナトが立っていた。

「アラタちゃん⋯この子は?」

 自分のことを聞かれた倉田は満面の笑みで舞い上がった。

「初めまして、わた――」

「あぁ、聞き方間違えたね。こいつは何?」

 いつも笑顔のカナトが嫌悪丸出しの冷たい目付きで倉田を見下ろし、倉田自身も状況が読めずたじろぐ。
 ガラッと変わった雰囲気に自分も萎縮しているとイチカが駆け寄ってきた。

「君は⋯イチカちゃんだっけ?」

「ハイ。お久しぶりです。実は――」

 イチカが状況を説明すると途中で倉田の友人達に足止めされて、すぐに駆けつけれなかったことを謝ってきた。

「へぇー⋯あんた、俺とお知り合いになりたかったの?どうして?」

「えっ⋯⋯素敵な人だったので⋯」

「それで俺の親友の妹に嫌がらせしてストーカーみたいな真似したの?」

「いえ、嫌がらせやストーカーなんて⋯」

 眉尻を下げて、上目遣いでカナトを見つめて否定しようとするが倉田を見下ろすカナトの目付きは一切変わらない。

「自覚ないんだ。君みたいな子、大学の時にいたよ。人より容姿が整ってるって自覚があるせいで何でも手に入るって思ってるんだろ?」

「そんなこと⋯⋯」

「それ、勘違いね。顔だけ良くても中身が追いついてなかったらただの性格ブスだから。大体、俺に用があるのにこの子に当たるって人としてどうなの?」

 凍えるような瞳で淡々と自分を否定される倉田⋯その場の空気に不安を感じていた私の頭にカナトの手が乗っかった。
 見上げると、そこにはいつもの優しい笑顔のカナトがいたが、すぐに冷たい表情で倉田を見下ろした。

「どうして⋯こいつだけはいいんですか⋯」

「あんたみたいに俺の顔だけ見て近寄ってくる奴が嫌いなんだよ。光に集まる虫みたいで」

「虫⋯⋯」

「もう帰ってくれる?あんたのせいで仕事進まないから。二人は中に入りなさい」

 カナトがイチカに手招きすると私の背中を押す。
 放心状態になった倉田を外に残して三人は家の中に入った。

 リビングのソファーにイチカと座らせられ、お茶とお菓子を出された。

「先生⋯お手を煩わせてすみません」

「何言ってんの?元々俺のせいじゃない。アラタちゃんは何も悪くないよ」

 もっと強く言えていれば⋯――と呟くとイチカが「いやいや」と手を振った。

「無理でしょ。あの人多分、先生と会えるまで何がなんでも止めなかったよ?アラタがどうこうの問題じゃないよ」

「イチカちゃんの言う通りだ。あれはそういうタイプの人間だよ。⋯⋯君達みたいなのが一番楽で良いんだけどね」

 難しい顔でソファーに座り、頭をガシッと掴んで項垂れるカナトがポロッと呟いた。

「確かにイチカも普通のテンション⋯私と一緒でイケメンとか興味ないタイプ?」

「違うって。私の好みはガタイの良い、硬派な人だから」

 カナトと真逆のタイプが好きだと言って、イチカが申し訳なさそうにする。
 そんなイチカに笑いかける私と目が合うと⋯カナトの顔の力が抜けていったように緩んでいった。

「⋯⋯今日はありがとうね。アラタちゃんと一緒ならいつでも来ていいから」

「「え?」」

 二人が驚いて声を出すとカナトは優しく微笑んだ。

「アラタちゃんを大事に思って、俺に興味を示さない子は大歓迎ってこと」

 よくは分からないがイチカが気に入られたことを純粋に嬉しく思った。





 その後倉田はボロクソ言われた悔しさからか「アラタが淫乱小説家の家に出入りしている」と噂を立てた。
 これはさすがにカナトも黙認できず、学校に直接電話し、校長と教頭に会ってきた。
 友人の妹をキチンと手続きをした上でバイトとして雇っていることと仕事上、そのような悪意ある噂は自分の作品を汚してしまうことにもなるので名誉毀損で弁護士を出すことになることを話すと学校側はすぐに動いた。
 私と両親にバイトの確認をし、卒業生であるハルキにも元担任が連絡をすると激怒したハルキが私がバイトすることになった経緯とカナトの誠実さを語ったという。
 学校から連絡があった倉田の両親は娘に激怒し、後日学校で詳しい話を聞いた。
 「こんな事になるとは思わなかった」と泣きじゃくる倉田に教頭が「これ以上噂を流さなければ問題にしない。謝罪もいらないので金輪際関わらないでほしい」というカナトの伝言を伝えると倉田は涙を流して了承。
 そして学校にいた私は校長室に呼ばれて、倉田家族から謝罪を受けたのだった。



「やっと穏やかな日々が戻ってきた~」

 カナトの家のソファーで寝っ転がりながら平和な日常を噛み締めているとコーヒーを飲んでいたカナトがクスクス笑う。

「やっと俺の家でもゴロゴロしてくれるようになったね」

「ほぼ毎日来てるんでさすがに慣れました」

「あとは敬語が抜ければ嬉しいかな」

「無理ですね~」

 洗濯機が終了の音を静かに響かせて、ソファーから立ち上がって干しにいく。

 服を干しているとリビングからカナトのスマホの着信音が響き、電話している声が聞こえてきた。

「は?子供じゃないんだけど?⋯⋯あっそ。⋯⋯ハイハイ」

 話し方からして親しい人なんだろうな――と思いながら干し終わってリビングに戻るとカナトが立ちながら頭をガシガシ掻いていた。

「何かあったんですか?」

「あぁ⋯近々俺の担当編集者が来るみたいで⋯」

「そうなんですか。じゃあその日はバイト無しですか?」

「いや、アラタちゃんとも顔合わせしたいらしくてね⋯⋯そいつがさぁ――」

 その編集者はカナトの母方の祖父の養子で義理の叔父さんだという。
 叔父といっても歳はカナトの二個上なので一緒に住んではいなかったが兄弟のように育ち、小学校から大学まで全て同じ所に通っていたので共に過ごす時間が多く、いつも世話を焼かれていたとのことだ。

「仲良しじゃないですか」

「まぁね。でもあいつの言葉は耳が痛いんだよね⋯泊まってくっていうから日にちが分かったら教えるよ」
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