結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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5−1 担当編集者

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 後日カナトから編集者が来る日をLINEで知らされ、お客さん用の布団を干したりと迎える準備を始めていた。
 夕飯はどうしたらいいのか聞くと自宅で食べると言うのでメニューを考える。

「折角遠路はるばる来るのに私の手料理でいいんですか?」

「なんなら、あいつだけコンビニ弁当でも構わないよ」

「ハハッ、そうはいきませんよ。海鮮系のメニューにしますね」

「頼むね。アラタちゃんもその日は一緒に夕飯食べていかない?」

 担当編集者として、そして叔父としてもカナトの世話をしてくれている私に挨拶をしたがっているのだと言われ、両親に確認を取ることにした。



 無事、両親から許可を貰った後日⋯⋯
 学校が終わってから急いで支度をしてカナトの家に行き、夕方に到着する編集者との夕食の支度をする。
 出来上がった物をカナトがダイニングテーブルに並べているとインターホンが鳴った。

「ハァー⋯来ちゃったか⋯⋯ハイハーイ」

 玄関から元気な声が聞こえてきて、カナトと一緒に一人の男性が入ってきた。

「君がアラタちゃんか?初めまして。こいつの担当編集者の片岡タケルと言います」

 カナトとは正反対の男らしくがっしりしたタイプの長身の男性。
 目の前に一八〇センチ超えの成人男性が並ぶと一五五センチしかない私には圧迫感しか感じられなかった。

 タケルに差し出された名刺を受け取り、頭を下げる。

「こちらでバイトさせて頂いています、渡仲アラタです」

「夕飯の用意してくれてるから食いながら話そう」

「わざわざすまんな」

 三人でダイニングテーブルに座り、楽しく食事をする。
 海鮮丼の他にオードブルのようなメニューを大皿に並べていた。
 私が一人で作ったことに驚きながら美味しそうに食べてくれるタケル。

「ふほいひょ?ふはいへひょ?」

 口にいっぱい食べ物を入れたカナトがモゴモゴしながら話しかける。

「いい大人が口に食べ物入れながら話すな!ダラしない!」

「(ゴクン)うるさいなぁ。俺んちなんだから別にいいじゃん」

 いつもより子供っぽいカナトを横目で見て、小さくクスリと笑ってしまった。

「笑われてるぞー」

「すみません。何か雰囲気が幼くて⋯いつもと違うなぁって」

「まぁ、編集者といっても俺達は家族だからな。いつもクール振っているなら言わせてもらうが⋯これがこいつの素だ」

「余計なこと言わなくていいよ」

 楽しい談笑でお酒が進むようで、新しいビールを持ってきて空の缶と交換していく。

「気が利く子だな。本当に高一か?」

「本当ですよ。ちゃんと普段は制服着て高校通ってます」

「んで、放課後はここでバイトか⋯⋯ちゃんと友達とも遊んでるか?」

 タイミングが合えば、小学校からの友人といつも遊んでいることを話す。
 カナトにはイチカのことだとわかったようで、「この間の揉め事の時に状況説明してくれた友達」だとタケルに説明していた。

「⋯⋯ずっと一緒か。親友なんだな」

「ハイ!」

 親友と言われて嬉しかったアラタは満面の笑みで返事をした。

「しかし、この間の揉め事に関しては迷惑をかけてしまったな」

 迷惑と言われてイマイチ、ピンとこない私は眉間に皺を寄せて首を傾げた。
 その反応を見たタケルが「どういうことだ?」とカナトに問いただす。

 ビールを飲みながらカナトが呆れたように私を見つめてきた。

「迷惑と思ってないってことよ」

「は?嫌がらせとストーカー行為をされたのにか!?アラタちゃん⋯これをされた時点で迷惑かかってるんだぞ?」

「ハイ。先輩に迷惑は掛けられましたけど先生からはかけられていません」

 そういうことか――と一応は納得したようだが「でも元はこいつの顔面兵器のせいなんだぞ?」とタケルに言われる。
 だが、その顔面兵器はカナトが持ちたくて持ったものでない上に悩みの種にもなっている。
 自分の知らないところで問題が起こって、その責任を押し付けられるのはおかしい。
 その思いを二人に伝えるとタケルが顎に手を添えて何やら考え込んだ。
 何か変なことを言ってしまっただろうか――と不安に襲われるとカナトの手が私の頭を撫でた。
 目を合わせるといつもの笑顔で見つめ返されて、その優しく細められた目にとても安心した。

「カナトの言った通り⋯良い子だな。家事全般上手いし、人嫌いのこいつが懐いてるから尚良しだ」

 人嫌いという言葉に少し疑問を持ったが⋯確かに今まで散々人より整った容姿のせいで苦労してきている。
 そうなってしまっても仕方がないだろう。
 でも私の知るカナトは私だけではなく私の家族やイチカにも明るく丁寧に接してくれているので人嫌いと言われてもすぐにピンとこなかった。

 そんなことを考えているとタケルが目の前に綺麗に包装された箱を差し出してきた。

「これからもよろしく頼むよ。これはお詫びに持ってきた物なんだが⋯お近付きの印とでも思って受け取ってくれ。某メーカーのチョコ菓子だから親友と一緒に食べな」

「ありがとうございます」



 時間が過ぎていき、後片付けをしてカナトに用意しといた朝食の説明をするとショルダーバッグを肩にかけた。

「今日はありがとうございました」

「こちらこそありがとう。美味かったよ。明日はバイトの日か?」

「明日は休みです。明後日の昼に来ます」

「俺は明後日の夕方に帰るから、帰る前に会えるな」

 カナトと家を出て、短い帰り道を一緒に歩く。
 この後タケルと本格的に呑むと言うので冷蔵庫に肴になるような物を用意しておいたことを伝える。

「助かるよ。いつもありがとう」

「大した事はしてないです」

「いや、本当に助かってるよ。君のお陰で毎日が平和だ」

「それなら良かったです。褒められたからクリスマスプレゼント奮発してって兄ちゃんに連絡しなきゃ」

 話しながらだとあっという間に家に着き、カナトにお礼を言って、手を振りながら家に入っていった。





――――――――――――――――――――

「ただーいま」

「おう、本格呑みするぞ」

「ハイハイ、酒の肴が冷蔵庫にあるって言ってたよ」

 ドカッとソファーに座って、タケルが冷蔵庫を漁る姿を見る。
 これか?――と確認され、短い返事を返した。
 ラップのかかった皿を一つ、レンジに入れて温めると残りの二つを両手に持ってカナトの所に行き、テーブルに置く。

「作り置きのタッパーが多いな」

「明日の分だよ。お前のもあんだから多いさ」

「まさか朝食の話をしてたけど昼食の作り置きもしていってるのか?」

「冷凍庫に入ってるよ。無くなる前に作って補充してくれてる」

 感心しているとレンジが鳴ったので取りに行き、二人で日本酒の瓶を開ける。
 久々の日本酒で一気に体が温まっていくのを感じながら、しっかりと味を堪能するカナト。

「お前の言う通りだったな」

「それ、さっきも言ってたよね」

「さっきはさっきだ。今言ったのは⋯⋯」

 カナトは黙って日本酒を呑んでいく。

「しっかりした一六歳が沢山いるのは分かってるし、珍しいわけでもない。だが⋯あれは⋯」

 傍から見ればただのよく出来た女の子なんだろうが、タケルには行動や発言の端々から『人生の経験値』が感じられた。

「自然過ぎて上手く言葉に出来ないな。多くはないだろうが他にもああいう子はいるだろうしな⋯」

「そうだね。でもハルキが言うには小五から今のような性格になったらしいよ」

「あぁ、お前の友達でアラタちゃんのお兄さんの⋯⋯別に信じていなかったわけじゃないが⋯」

 アラタが作っていったネギ塩ダレのかかった鶏肉を頬張りながら、考え込むタケルを見る。

「明後日⋯アラタちゃんに確認してもいいか?」

「何を聞く気だよ」

「大丈夫だから安心しろ」
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