結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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7−2

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「アラタちゃん」

 背後からかけられた声に振り返るとマスクをしたカナトが立っていた。
 泣いている私と目が合ったカナトは目を大きく見開いたあと、眉間に皺を寄せながらこちらに向かって歩いてきた。
 腕を掴んでいる長嶋の手に自分の手を重ねて目だけで見下ろす。

「離してもらえる?」

「あんたが” 先生 ”ですか?」

「そうだけど⋯早く離してもらえる?」

「邪魔しないでもらえます?まだ話の途中なんですよ」

 重ねた手を離し、ガッと手首を掴んで無理やり腕から手を引っ剥がしたカナト。
 驚いた長嶋が反対の手も離して数歩後ろに下がると、私の涙をパーカーの袖で拭いているカナトをキツく睨みつけた。

「あんた⋯渡仲の雇い主ってだけだろ?」

「あのさぁ~、俺のこと面白くないのは分かったし、どうでも良いけど⋯好きな子泣かせて罪悪感も出ないわけ?相手が泣いてても返事のほうが大事なの?どうして泣いたのか気にならない?それが君の好きのレベルだって分かってる?」

「そんなの、あんたに言われることじゃ⋯」

「アラタちゃんが泣いてても君の行動に誠意があれば手も口も出さなかったよ。でも俺には無理強いしているようにしか見えなかった。イチカちゃんにもそう見えたんじゃないかな?」

 見たことないほど怒りに満ちた目で睨んでくるイチカを見て、長嶋はやっと自分の行動が間違いだったのかと⋯顔を伏せて考えた。
 溜め息をついたカナトが手招きしてイチカを呼ぶ。

「どうやって帰るの?」

「もう少ししたらタクシーが来ます」

「なら大丈夫だね。これ⋯」

 イチカの手にお札を握らせる。

「いりませんよ!受け取るような仲じゃありません」

「大人としてってことで⋯これで帰りなさい」

「⋯⋯わかりました。ありがとうございます。⋯⋯アラタ、大丈夫?」

 手で顔を覆って、今だ啜り泣く私の背中を心配して擦るイチカ。

「先生、この子⋯一度泣いたら長くて⋯」

「うん。長泣きする子だってハルキから聞いてるよ。任せて」

 頭を優しく撫でてくるカナト。

「帰ろっか」

 私が頷くと、顔を覆っている手を片方掴んでゆっくりと引っ張られて歩いていった。





 カナトに手を引かれてゆっくりと住宅街を歩くが、まだ涙が止まらない。
 泣いているせいか覚束ない足取りで歩くのが遅くなる。
 そのせいかカナトが止まって、顔を覗き込んできた。

「フラフラしてるから抱えていこうか?」

 そんな恥ずかしいことされてたまるか――と首を横に振ったので仕方無くまた手を引いて歩いてくれるがすぐにちゃんと歩けるようになるわけがない。
 次の瞬間、体がフワッと宙に浮いた感覚に驚いて何かを無意識に掴んでしまった。

「まだ涙出てるね。泣いてても大丈夫だよ。ちゃんと送ってくから」

 目の前にあるカナトの顔。
 どうやら痺れを切らして私の意志に関係なく抱えて運ぶことにしたようだ。

「どう、してっ⋯」

「どうして来たか聞いてるならお父さんに頼まれたんだよ。本当はお父さんが迎えに行こうとしたらしいんだけどお婆ちゃんから腰やっちゃったって連絡きて、お母さんとアカネちゃんと三人でお婆ちゃんち行ってくるって。日曜の夜に帰ってくるって言ってたけど⋯多分連絡来てると思うよ?」

 そういう意味の「どうして」ではないが⋯何故カナトが迎えに来たのかは理解できた。
 確かに店に入ってから一度もスマホを確認していない。
 鞄に入れているから音にも気付けなかったようだ。

「でも俺が行って正解だったね。あれをお父さんが見たら大激怒だよ」

 大激怒かは兎も角、泣いているの見られたくないから誰もいなくて良かった――と安心し、カナトの肩に頭を預けて涙が止まるのを待った。

「ハルキが言ってたよ。アラタちゃんは昔から一度泣き出すと気持ちが落ち着いても涙だけはポロポロと流れ続けるって。だから泣かせたくないって。小さい頃はご両親かハルキが泣き止むまでずっと抱いてたんでしょ?今でもそれが必要かは分からないけど良ければこのまま抱いてるから⋯気にせず安心して涙流していればいいよ。全然迷惑じゃないから」

 どうしてこの人はこんなに優しいのか――カナトの優しさに触れるとまた涙が流れてくる。
 父や兄とは違う自分より大きな体に身を預けているとあっという間に自宅に着き、鞄から鍵を出して中に入る。
 玄関に下ろされて靴を脱ぐとまた抱えられて、真っ直ぐ二階に上がっていく。

「分かりやすくていいね」

 私の名前のプレートがかかった部屋の戸を開けて中に入り、ベットに下ろされる。

「大分落ち着いたかな?」

 正面にしゃがんで、先程より涙が流れていない顔を見るとマスクを下げたカナトが微笑んだ。

「告白されたの嫌だった?それとも怖かった?」

 顔を伏せて、ゆっくりと口を開く。

「⋯⋯もう⋯友達に戻れないのかなって思ったら、悲しかったし⋯でも真剣だったからちゃんと答えなきゃって思ったけど⋯どう断れば真剣なあいつに誠意を示せるのか、分からなくて⋯考えてるのに、どんどん強く掴んできて⋯」

「友情を感じていた分だけ辛いよね。でも彼がアラタちゃんに恋したことは仕方がない⋯止める権利は誰にもないから。ただ彼はあのままいけば想いを押し付けて力任せに自分の望むように事を進ませていたかもしれない⋯って俺は思う。まぁ、イチカちゃんもいたからさすがに大丈夫だろうけど」

「どんなに力任せにこられても⋯私は⋯まだ、恋愛は出来ません⋯」

「どうして?」

 言いたい⋯でも「夢で見た自分の一生での恋愛が最悪過ぎてトラウマなんです」なんて言えるわけもなく⋯どう言えばいいのか悩み、唇を噛み締める。

「血、出ちゃうよ?」

 顔に手を添えられ、親指が噛み締めている部分の唇に触れる。
 力を抜いて、噛むのを止めると歯型の付いた唇をまた親指で擦られた。

「あー、血が出なくて良かったけど⋯赤くなっちゃったよ」

 心配そうに眉尻を下げて、唇を擦るカナトを見て、口を開いた。

「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」

 唇を擦る指が止まって、しっかりと頬に手が添えられると二人の視線が重なる。

「アラタちゃんには幸せになってほしい。それが俺の願いだから⋯」

「どうして?」

「大事なんだよ。いつも笑っていてほしい」

「でも⋯私は自分が思うより打たれ弱くて⋯高校生にもなってもまだ長泣きするし⋯それに⋯⋯」

 ” 夢の人生 ”に囚われて、いつも不安に襲われているから幸せになりたいけど自信がない⋯――と心の中で言葉を続けると

「大丈夫。俺がいつでも⋯君に手を伸ばすから」

 目を見開いた私にカナトが続ける

「不安に駆られたら俺を頼ってくれていいんだ。少しでも心が軽くなるように⋯何でもするよ」

「何でも?」

「そう。何でも」

「私が親友の妹だからですか?」

「知りたい?」

 頷いた私の顔から手を離して、その手を頭に置く。

「じゃあ俺との会話で敬語を使わなくなったら⋯ヒントをあげるよ」

「ヒントなんですか?」

「ヒントだけ。⋯⋯もうこのまま寝ちゃったら?明日は学校休みだし」

 洗顔と歯を磨いて着替えたら寝ると伝えるとカナトは笑顔で帰っていった。
 一応寝る前に親からのLINEを確認して、電話をすると「カナト君が代わりに行ってくれて安心したよ!本当に良い子だ!」とご機嫌な父親の声で一気に気が抜けていき、電話を切ると素直にそのまま意識を手放していった。​​
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