結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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 食べ終わったカナトに解熱剤を飲ませて、また横にさせる。

「薬で熱も下がってくるから、このまま寝ちゃって下さい」

 洗い物を乗せたお盆を持って、キッチンに行こうと立ち上がるとトレーナーの裾が引っ張られた。
 カナトが裾を掴み、熱のせいか目を潤ませてこちらを見上げてくる。
 その顔を見て、一瞬小さい頃に熱を出したアカネを思い出した。
 体調が悪いせいか一人にはなりたくないと言って、風邪が感染るのを覚悟でハルキと側によくいたものだ。

「どうしました?寂しいんですか?」

 さすがにないだろう――と冗談っぽく言ってみる。

「うん」

 寂しいんかい!――と心で突っ込みながら、カナトは大人だが昔のアカネと同じ対応でいいのだろうかと考えた。

 結局洗い物を置きにいった後、すぐ部屋に戻ってベットの傍らに座った。

「薬効くまでもう少しですね」

 熱を確認する為、額に触れるとカナトが嬉しそうに目を細めた。
 そういえばアカネもこうやって熱を確認すると嬉しそうだったな――と生意気に育った妹の愛らしかった時代に思いを馳せる。

 好きな本を読んでいていいと言われて、棚から気になるものを一冊手に取り、ベットに凭れ掛かって読み始めた。

 気が付けば結構な厚さの本を半分読み終えてて、後ろのベットで横になるカナトを目を向ける。
 顔の赤みが引いて、落ち着いて眠っているようだ。
 熱さを確認しようと顔に手を伸ばして体を捻ると髪が何かに引っかかっていた。
 見てみると⋯カナトの手が私の髪を掴んでいた。
 本に夢中で全く気が付かなかった⋯
 そ~っと髪を引き抜き、気を取り直して熱さを確認する。
 薬がちゃんと効いているようだ。まだ熱いがさっきほどではない。

 スマホで時間を見ると丁度夕飯の支度をする時間だ。
 まだ眠っているし夕飯を作ってこよう――と思い、立ち上がると手首を掴まれた。

「えっ」

「どこ行くの?」

 そうだ⋯アカネも側から離れようとしたら必ずと言っていいほど目が覚めていた⋯
 前にタケルがカナトのことを「甘ったれ」だと言っていたが、本当に甘えん坊な性格をしているようだ。

「夕飯を作ってくるだけですよ」

 待っていて下さい――と頭を撫でると手を離してくれたので夕飯を作りにいった。

 洗濯機を回して、食器洗いを済ましてから調理に取り掛かっていると背後から温かいものに包まれて、頭の上に重みを感じた。

「起きてきちゃったんですか?」

 背後から首に腕を回して、ピッタリとくっつかれていて正直驚いた。
 でも素直に甘えてくれているんだと嬉しく思い、笑みが溢れてしまう。

「うん⋯。ご飯⋯何?」

「あんかけうどんです。暖まりますよ!」

 器によそうから座っててほしいとお願いするが⋯離れる気配がない⋯
 仕方無く背中にカナトをくっつけたままよそって、ダイニングテーブルに持っていく。
 やっとカナトが離れて、椅子に座ってくれたのでその隙に飲み物を持ってきて、隣に腰掛けた。
 何とか食べれているようなのでその場を離れて、洗濯物を干しているとまた背後から温かい重みが⋯

「あの⋯食べ終わってないですよね?」

「ん゙~⋯」

 側を離れたのは失敗だったようだ⋯
 急いで干して一緒に戻り、食べ終わるまで横に座っていた。
 本当は食べている間に寝室に持っていく飲み物や薬、食事の後の着替えも用意したい。

「カナトさん、汗が凄いんで着替えましょう。着替え持ってきますから」

 この場を離れると分かったからだろうか⋯顔をしかめてこちらをジッと見てくる。
 それでも「⋯わかった」と小さな返事をくれたので家の中を走って用意した。

 食事が終わると着替えを渡し、その間に寝室に持っていく物を用意していると脱衣所から力のない声で必死に私を呼ぶ声がする。
 扉越しにどうしたのか声をかけると気怠そうな声で言葉を返してきた。

「体がベタベタ⋯シャワーって⋯」

「ダメです。まだ熱高いんですから」

 自分でタオルを出して体を拭き始めたようだが、すぐに上半身裸のカナトが脱衣所から出てきた。
 疲れ切ったように立ちすくむカナトからタオルを受け取って、急いで残りを拭く。
 パジャマを着せて、用意した物を持ち「寝室に行こう」と声をかけるとまた背中にくっついてきた。
 動きづらい状態で歩き、階段を上っていく。

 寝室に入って、ベットに腰を下ろさせると体温計を渡す。
 どうやらまた熱が上がってきていたようだ。
 薬を飲む前と変わらない体温が表示されていた。
 水分を取らせて、横にすると毛布と布団を被せる。
 解熱剤を飲ませたいがまだ早い⋯あと一時間半は時間を空けたい。
 でもあと三〇分で私は退勤時間になる⋯帰ったあと、この人はちゃんと薬を飲むだろうか⋯

 ベットの横で両膝をつき、ズボンのポケットからスマホを出して、母親にLINEを送る。

【カナトさんが熱出してるから、最後に解熱剤飲むの見届けてから帰りたい。遅くなるけどいい?】

【日付変わらないならいいよ。何か必要な物とかある?】

【大丈夫。ありがとう】

 これで薬を飲ませられると安心しているとカナトと目が合った。

「帰る時間?」

「今、母に許可貰ったんでカナトさんが薬飲むまでいますよ」

「飲むの、いつ?」

「あと一時間半は空けたいんです」

 まだ側にいるということが分かったからからだろうか⋯
 カナトは額に汗が滲んだ赤い顔で嬉しそうに微笑んだ。
 ベットに腕を乗せて顔を置き、カナトの頭を撫でる。

「時間になったら起こすんで回復の為にも寝て下さい。勝手に帰らないんで大丈夫ですよ」

 嬉しそうに目を細めてから目を閉じた。
 柔らかい透き通るような茶髪を指で梳きながら寝付くまで頭を撫で続けていると何かが心に込み上げてくる。
 ずっと甘やかしてあげていたいような⋯
 こうゆうところがハルキに「母ちゃん肌」と言われる理由だろう。
 でも本当は誰かを世話することも、ましてや甘やかすことも好きではない。
 そう見えているのはきっと” 夢の人生 ”で誰にも親切に出来なかった後悔と母親になれなかった寂しさのせいだろう。
 私は紛れもなく一七歳だが、すでに人生を後悔して自分を見つめ直して道を歩んでいる。
 自分を大事にしてくれる家族と友人を大事にしているが正直それ以外の人はどうでもいい。
 確かにカナトは大事な人だが⋯この感情はよく分からない。
 
 正直、考えたくもないので私はこの疑問に蓋をして心の隅に追いやった。

 そして時間が経ち、声をかけて薬を飲ませると少し様子見てから家に帰った。
 寂しそうに見つめてくるカナトに後ろ髪を引かれるようだった。​
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