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しおりを挟むその後⋯
社長と別れて店を後にし、タケルの車でホテルに向かう。
「どこか寄ってくか?」
「「庶民向けのカフェでお願いします」」
高級感に当てられてグッタリした二人が同じことを言う。
タケルは笑いながらホテルの近くのカフェに向かった。
「ちょー落ち着く⋯」
「やっと自分の世界に戻った感じだよね」
大きなチョコレートパフェをイチカとシェアして食べながら自分達がいかに庶民かを噛み締める。
「でも二人共かなり落ち着いて見えたけどな。普通に会社の接待とか行けそうだ」
その場をやり過ごすのに必死でした!――と反論するイチカの横で満足気にパフェを頬張る。
勿論緊張したが” 夢の人生 ”では、こんなに有意義だと思えることはなかったので、とても良い思い出になった。
「社長、良い人でした。何か⋯大きな人ですね」
鼻で笑ったタケルがコーヒーを口に運ぶ。
「親父にあそこまで優しい言葉を出させたのはアラタちゃんが初めてだ。俺は一瞬、親父がボケたのかと思ったからな」
この家族はお互いをボロクソに言わないと死んじゃう病気にでもかかっているのか――と心配になった。
夜、ホテル内のレストランで夕飯を済ませて部屋で明日のプランを練る。
目的はショッピングだ。
貯めていた独り立ち資金が無駄になってしまったので、少し贅沢しようと意気込んでいる。
「案内役に兄ちゃんでも呼ぶ?」
今日、東京に来ていることは予め伝えてある。
いくら行動が予測不能のハルキでも妹に時間を作ってくれているはず――とスマホを構えた。
「あ⋯ハルキ兄ちゃん、今帰省してるってタケルさんが⋯」
あのバカ兄貴⋯やっぱり予測不能だ⋯
私の顔が怖いというイチカ。
多分、この状態の私を見たくなくてタケルはイチカに伝言を頼んだのだろう。
「まぁでも、スマホもタクシーもあるし大丈夫だって!」
それもそうかーーと気持ちを落ち着かせるとイチカが言いづらそうに口を開く。
「あのさぁ⋯ずっと気になってたんだけど、先生と何かあった?」
ドキッとした。
まだ吹雪の日にあった出来事を話せていない。
言葉に出しづらくて気付けば何ヶ月も経ってしまっていた⋯
「黙ってたわけじゃないんだけど⋯」
「分かってるよ。話したくても言いづらかったんでしょ?言いづらいようなことがあったんでしょ?」
やっぱりイチカは分かってくれる。
頷いた私はゆっくりと⋯たまにダンマリにもなりながら、吹雪の日とその後の話をした。
「――って状況なんだけど⋯」
私はここまで目を見開いたイチカを初めて見た。
「⋯⋯あんた⋯何やってんの?」
やっぱり黙って受け入れてるのが問題か――と目を伏せる。
「先生のことも⋯自分のことも⋯何でちゃんと見ないの?」
何のことか分からず顔をしかめると額に手を当てたイチカが溜め息を吐いた。
「アラタに今その余裕がないことは分かってる。でも⋯いつまでもその状況ではいられないよ?」
「⋯⋯分かってる。だから、アレが終わったら⋯ちゃんと考える⋯」
何故か涙がポロポロと溢れ出てくる。
イチカにギュッと抱き締められて、肩に顔を埋める。
「今、ハルキ兄ちゃんが東京にいないことを恨めしく思うよ」
私の背中を撫でながら必死に宥めてくれるイチカ。
「あのさ⋯ハルキ兄ちゃんや先生にも⋯” 夢の人生 ”の話⋯しない?」
絶対受け入れてくれる――とイチカが言うが私は顔を横に振った。
「兄ちゃん⋯絶対、笑うっ⋯」
ハルキに言ったところで「たかが夢だ」と言われるのが見えている。
カナトは⋯きっと受け入れてくれるだろう⋯
だがそれは同時に心配をかけるということだ。
それは嫌だ――と涙ながらに言うとイチカの短い溜め息が聞こえた。
「アラタが嫌ならそれでいいよ。私が手を貸すから」
今までどれだけイチカに助けられてきただろう。
いつも気持ちに寄り添ってくれて、側にいてくれる。
いつでも味方でいてくれて、私の言葉を疑わない。
「ありがとっ⋯」
涙声でお礼を言う私を更に力強くギュッと抱き締めて、頭を撫でる。
「親友なんだから⋯当たり前じゃん」
私は最高の親友を持てたことに感謝した。
何に感謝すべきか分からないが、感謝せずにはいられない。
「明日沢山買い物しよ!アラタの可愛い服も選ばなきゃ!」
イチカの大きな優しさに支えられて、私はこの後の旅行を楽しむことができた。
イチカの着せ替え人形になったり、みんなへのお土産を買ったり。
心配で連絡をくれたタケルと合流して、色々観光させてもらったり。
この旅行でイチカはタケルから連絡先を聞かれて、大興奮していた。
この先イチカとタケルの間に何かが始まらないかと⋯胸が期待で高まる。
「社長公認だから⋯良かったね?」
タケルにバレないようにこっそりとイチカに言うとさすがに怒ったイチカが両手で顔を強く掴んでくる。
「地味に痛いっ⋯ファンデ、落ちる⋯」
その光景を見ていたタケルが大笑いしながらスマホを向けていた。
「まさか⋯撮ってます?」
「カナトとハルキに見せてやろうと思ってな。楽しそうで何よりだ」
何枚か写真も撮られて、気付けばイチカとノリノリで笑顔でカメラ目線になっていた。
「いいの撮れてるぞ。カナトが喜びそうだ」
「何でカナトさん?」
困ったように笑うタケルがまだ撮るつもりなのかスマホを構える。
「あいつはな、君には笑顔でいてほしがってんだ。君が笑うと嬉しそうにしてるだろ?」
ふと思い出す。
私が楽しくて笑っていると決まって私を見ながら嬉しそうに微笑むカナトを⋯
頭にカナトを思い浮かべて、心がじんわりと温まるような感覚がした。
カシャッ
音の方向には悪い笑顔をしたタケルとイチカ。
「アラタ⋯良い顔⋯ふふっ」
「何を思い出してたんだ?」
二人に揶揄われて、半べそかきながら写真の削除をお願いしたが⋯願いは届かず⋯
カフェでお茶をしているとスマホが鳴った。
カナトからだ⋯
電話に出る為、席を立とうとすると
「どうせカナトだろ。ここで出ても構わないぞ?」
慣れない場所で一人店の外に出るのも嫌だったので、結局その場で電話に出た。
「もしもし」
『アラタちゃん?タケルから楽しそうな写真届いたよ』
これから上司になるタケルを睨みつける私。
だがタケルは得意気に座っていた。
「削除して⋯」
『ヤダよ。可愛く撮れてるんだから』
またこの人は何を言っているのか⋯
照れているのがバレバレなのかイチカが頬を緩ませて私を見ている。
『明日帰って来るんだよね?』
「うん。明後日は仕事に行くから」
『明後日か⋯なんか長いな⋯』
たかが一週間なのに⋯
そんなに寂しがられるとどうにも甘やかしたくなってしまう。
「じゃあ明日、お土産持って行くよ。何か欲しい物ある?」
『無事に帰ってきたアラタちゃん』
「それはお土産じゃないよ⋯」
じゃあ土産話を待ってるね――と言われて、電話が終わったが⋯お土産、何を買えばいいだろう⋯
「完全に敬語が抜けたんだな」
「あっ、仕事中は敬語のほうがいいですか?」
「カナトがそれで気にしてないならそれでいいだろ」
そしてタケルお勧めのインスタントコーヒーをカナトのお土産に買って、次の日空港に送ってもらった。
「「お世話になりました」」
「俺も楽しませてもらったよ。イチカちゃん、連絡くれよ?」
真っ赤な顔で返事をするイチカ。
これからのこの二人が楽しみで堪らない私はニヤけ顔のままタケルと別れて、イチカと飛行機で帰った。
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