結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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17 卒業旅行の間に⋯

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 アラタ達が東京に旅立った数時間後⋯

「お前⋯なんだその顔⋯」

 玄関からどんよりと暗い表情のカナトが出迎えに出てきた。

「緊張してんのか?」

 俯いたカナトが手で目を隠す。

「ハルキ見てると⋯アラタちゃんに会いたくなる⋯」

「行ったのさっきだろ?寂しがるの早いな⋯」

 アラタと顔の似たハルキを見て、早々に寂しさが込み上げてくるカナト。
 だが今日のカナトにはそんな暇はない。

「ほら、待ってるだろうから早く行こう」

 カナトの家の玄関に荷物を置いて、二人でハルキの実家に向かう。



「おかえり!全くあんたは、空港着いてから連絡入れるって⋯何考えてるんだか⋯」

 出迎えた母親が呆れ顔でハルキに文句を垂れる。

「アラタいないし、いいだろ?」

 アラタがいてもちゃんと連絡しないくせに――と思う母親とカナト。
 リビングでは父親が座って待っていた。

「来たな。まだ昼だが⋯呑むか?」

 ご機嫌な父親が誘ってくるが、正座したカナトが首を横に振った。

「今日はお話があって、お邪魔させていただきました」

 真剣なカナトを見て、父親は姿勢を正し、その隣に母親が座る。

「今日話しに来たってことは⋯アラタには聞かれたくないんだな?」

「⋯そうです」

 みんなにお茶を出したアカネがソファーに腰を下ろす。

「私、いないほうがいい?」

「口外しない約束ができるならいてもいい」

 カナトの横で雑に座るハルキが意味深な物言いをするので両親とアカネは身構えた。

「いつも渡仲家の方々には大変良くしていただいて感謝しきれません。ですが俺は⋯」

 上手く言葉が出ないカナトの隣でハルキが呑気にお茶を啜る。

「あー!もしかしてアラタに惚れたか?」

 カナトの言いたいことを察した父親が明るい声を出した。
 あまりにも軽く聞かれたことに驚きながらも、間違ってはいないので「⋯⋯ハイ」と答える。
 それを聞いた両親とアカネが嬉しそうな表情を浮かべた。

 酒出せ!呑むぞ!――と言う父親の前にハルキが持参した日本酒を出す。
 状況が飲み込めないカナトにコップを持たせて酒を注ぐハルキがクックックッと笑っている。

「俺の親だぞ?無駄な緊張だったな」

 二人は本当にカナトの事が気に入っていた。
 アラタがバイトを始めて、少し経った頃から「くっつかないかな?」等と話すようになったという。

「まさかカナト君が先に惚れるとは思わなかったけどな」

「もうマジでベタ惚れなんだよ。ずっとアラタの後追っかけてへばりついて」

「ハルキっ!?」

 自分の恋愛の様を平気で親に話されて焦るが、両親もアカネもそんなカナトに目がいかないほど興奮していた。

「そこまでされてアラタは何してんの!?」

「姉ちゃん、やっぱおかしいよ⋯」

 気付けばどうやったらアラタを落とせるかの話しが始まり、更にカナトを混乱させる。

「姉ちゃんに甘えるのは間違ってないって」

「でもこんなイケメンにくっつかれても平然としてるんだよ?」

「アラタは顔で選ぶような奴じゃないだろ。カナト君のありのままの人柄で十分落とせるはずだ」

 仲の良い家族だとは思っていたがここまでとは思わず、ついていけない当事者のカナト。
 今だ困惑しているカナトに気付いたハルキが肩を抱く。

「この困った顔が見たくて、わざわざ帰ってきたんだよ!」

「お前ねぇ⋯」

 笑い声が飛ぶ中、アカネがポロッと口にした。

「ねぇ、姉ちゃんのどこに惚れたの?」

 カナトとハルキが固まった。
 その二人を見て、三人が静まり返る。

「これが口外するなってことなんだけど⋯知りたいか?」

 三人が話してくれるならば――と返す。
 アラタへの想いを語るにはカナトが見続けた夢の話をしなければならない。
 今回、渡仲家の人にそれを話す覚悟でやって来たのだ。

「俺は⋯七歳の誕生日の数日前から――」

 ハルキに話したように両親とアカネに話す。
 それが本当の話しである証明としてハルキがアラタの中学時代の失恋の話をした。
 イチカしか知らないであろう話を知っていることは大きな証明となったようで三人は驚きを隠せなかった。

「そんな不思議なことあるんだな」

「めっちゃ運命感じるんだけど⋯」

 顔を真っ赤にしたカナトが恥ずかしさで視線を伏せる。

「俺は⋯アラタちゃんの笑顔が好きです。⋯ずっと笑っていてほしい⋯そして出来ることなら、俺が笑顔にしたいし⋯それを守って、いきたいんです⋯」

 イケメンが恥じらいながら愛を語る姿に母親とアカネは胸がトキメキ過ぎて発作でも起こしたかのようになっていた。
 そんな二人に溜め息を吐いた父親がカナトに聞く。

「二人が結ばれたとして、仕事的には問題ないのか?」

 職場がカナトの家である以上、心配になるのは当然だ。

「祖父の会社は社内恋愛大歓迎なんです。キチンと仕事をこなせば全く問題ありません。アラタちゃんはしっかりされてますから⋯心配はないと思います」

「無事くっつけばの話だけどな」

 ハルキの言葉でカナトが一気に沈む。
 べったりくっついても額や頬にキスをしても拒絶されることはないが⋯歓迎されてるわけでもない。
 今自分がアラタの中でどうゆう存在になっているのか全く分からないのだ。



「アラタも高校卒業したんだし、私達のことは気にしないで頑張ってね」

 夜も更けて、最後に母親からそう言葉をかけられたカナトはハルキに引きずられながら自宅に帰ってきた。
 飲み過ぎて歩けないカナトをソファーに放って、冷蔵庫から出したミネラルウォーターを側に置く。

「どうしてそんな呑むんだよ。潰れるくせに⋯」

「いや⋯まだイケる⋯呑む?」

「アラタにチクられたくなきゃ寝ろ」

 秒で寝息を立て始めたカナトにブランケットをかける。

 アラタとどうこうなる前にお世話になった渡仲家の両親にキチンと話しをしたいと相談されて、面白いもの見たさに帰省してきたハルキ。
 親がカナトを気に入って、可愛がっていることは知っていたし、アカネが懐いていることも聞いていた。
 だから自分と同じようにカナトがアラタを好きになったことを否定しないとは思っていた。

 ⋯⋯思っていたが⋯あそこまで受け入れ態勢が完璧だとも思っていなかったので内心ビックリだ。

 色々と感傷に浸りたいような気もするハルキだが、自分もかなり呑んだので客間の布団を勝手に出して寝かせてもらうことにしたのだった。





 数日経った昼過ぎ⋯
 今だ帰らないハルキと談笑していると二人のスマホが連続して鳴った。
 三人でやっているグループLINEにタケルが写真を何枚も送ってきた。

「おー。よく撮らせてくれたな」

 感心するハルキの向かいでは手で口を抑えながら、スマホの画面を凝視して固まっているカナト。

 楽しそうにイチカとはしゃいでいる動画の他にカメラ目線の写真が何枚も⋯
 しかも滅多に拝めないアラタのお洒落した姿⋯
 誕生日に買った白いブラウスに膝下のタイトスカート、髪も整えていてメイクもしている。
 しかもアクセサリーは全て自分がプレゼントした物を身に付けていた。

 最後に送られたアラタ一人の写真⋯
 恥じらったように笑った顔がカナトの心臓を鷲掴んだ。

「⋯⋯普段から見てるくせに」

「こんな可愛らしい格好は⋯全く見たことないよ。生で見てるタケルが憎い⋯」

 暫く静かに悶絶しているとタケルからメッセージが一件。

【最後のはカナトの話しをした時の顔だ】

 ハルキが「へぇ~」と声を出すと、勢い良く立ち上がったカナトが二階に駆け上がっていった。
 自室に入ってすぐにアラタに電話をかける。

 鳴り続ける呼び出し音。

『もしもし』

「アラタちゃん?タケルから楽しそうな写真届いたよ」

 少し無言になり、恥ずかしがってるんだろうな――と想像して楽しくなる。

『削除して⋯』

「ヤダよ。可愛く撮れてるんだから」

 絶対消さない。
 それどころかプリントアウトして写真立てに入れて飾ってやる――とまで考えているカナト。

「明日帰って来るんだよね?」

『うん。明後日は仕事に行くから』

 明日の昼過ぎには帰って来るのに明後日まで会えないのか⋯
 恋しい気持ちが津波のようにカナトの心に襲いかかってくる。

「明後日か⋯なんか長いな⋯」

 思いがけず口から出た言葉に驚いて、手で口を塞いだが⋯時すでに遅し⋯
 疲れてるんだから帰って来たらゆっくり休みたいに決まってるだろ――と訂正の言葉を伝えようとしたら⋯

『じゃあ明日、お土産持って行くよ。何か欲しい物ある?』

 そう⋯この子はいつもこうやって自分を受け入れてくれる⋯
 あぁ、好きだ――と愛情が溢れ出す。

「無事に帰ってきたアラタちゃん」

『それはお土産じゃないよ⋯』

 無事に帰って来るだけでカナトには十分過ぎるお土産だ。
 特に欲しい物もないし、土産話を待ってるね――と言って、電話を終わらせた。

「あ゙~~~」

 その場にしゃがみ込むと反射的に声が漏れた。
 もう好きが抑えられない。
 家族公認になったせいか前より抑え込む自信がない。
 溢れ出す想いが大き過ぎて声が漏れ出すのか分からないが⋯今の状態は言葉には表しがたいものだった。

「ふっ⋯ハハッ⋯クックッ⋯」

 戸の向こうから笑い声が聞こえて、勢い良く開けると慌てたハルキが逃げ出した。

「何、盗み聞きしてんだよ!」

「ヤベー、マジで!どんだけ寂しん坊なんだよ、ハハハッ」

 恥ずかしいがハルキのお陰で平常心には戻れたのだった。​
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