結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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19−1 恐れとの出会い

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「おー、お疲れ!」

 ある日、仕事から帰ると夕飯を食べているハルキがいた。

「今回は誰かに帰省連絡してたの?」

「ちゃんと連絡もらったよ!」

 母が私のご飯と味噌汁をテーブルに置きながら答える。

「中学の同窓会があるんだよ」

「それもギリギリになって返事したんじゃないの?」

 何で分かるんだよ!?――と驚くハルキを無視して食事を始める。



 寝る前に部屋で本を読んでいるとガチャっと戸が開いた。

「なー、明日仕事何時に終わる?」

「年頃の妹の部屋を訪ねる時はまずノックしろ⋯」

 ゴメン、ゴメン――と手を合わせるハルキに退勤時間を伝える。

「じゃあ終わったら真っ直ぐ迎えに来てくれよ」

 車の運転も出来ないのにどうして行かないといけないんだ――と文句を言う私にハルキは偉そうに胸を張った。

「一次会しか出る気ないけど、その短時間で浴びるほど呑んでくるつもりだからだ」

 父は明日から出張で母はアカネと婆ちゃんの家に泊まり。
 歩きでもタクシーでもいいから家までちゃんと連れ帰ってほしいのだという。

 特大の溜め息を吐いてから「仕方がないな」と了承すると「悪いな」と言って、ちょっとお高いチルドカップの抹茶ラテが飛んできた。
 投げて渡してきたことに怒るとそそくさと退散していった。





「ハルキ帰って来てるんでしょ?」

 食器を洗う私の横にしゃがんでいるカナト。

「やっぱ知ってるんだね。同窓会に行くんだって」

「聞いたよ。明日呑もうって誘われたから」

「兄ちゃん、一体何日いるつもりなんだろ⋯」

 溜め息混じりで遠回しにハルキを面倒臭がる。
 そんな私を見つめながら、カナトは苦笑いしていた。



 今日も今日とてカナトにベタベタされてから帰路に就くが自宅ではなく同窓会が行われている居酒屋に向かう。
 もう少しで夏になる季節の夜は爽やかな涼しさでカナトによって火照った顔の熱がゆっくりと引いていく。
 今では一緒にいる時のことを思い出すだけで頬が熱くなる。

 こんなはずではなかった――と考えながら歩いていると居酒屋が見えてきた。

 丁度良いタイミングだったのか中から人がゾロゾロと出てくる。
 その場で立ち止まってハルキを探す。
 すると友人と肩を組みながら楽しそうに店から出てきた。

「兄ちゃん」

 声をかけると一層嬉しそうな笑顔を浮かべて、手招きしてくる。
 嫌だなぁ――と思いながらも、一応近寄っていくとハルキの手が伸びてきた。

「アラタ~、悪いな~」

 飛びついてきそうなハルキから逃れる為に横に動いて避ける。
 そのせいでドンっと誰かに打つかった。

「あっ、すみません!」

 振り向いて謝罪をすると⋯そこに立つ人物を見て、血の気が引いた。

「大丈夫ですよ。ん?ハルキの彼女?」

「残念!俺の妹ですぅ~」

「そうなんだ。初めまして、高橋マサルです」

 眼鏡をかけ、ネルシャツを爽やかに着こなす⋯見るからに優しそうな男性を相手に足がすくんだ。
 自己紹介されたが震えて声が出ない⋯
 挨拶を返さなければと冷や汗を流しながら何とか声を振り絞る。

「妹の、アラタ⋯です⋯」

 高橋の周りに集まった人達が次々と私に声をかけてくる。
 「妹って歳離れてたよね?」「ハルキに似てる~!」「お兄ちゃん迎えに来るとか良い子すぎる!」等と言われるが、もう私はそれどころではない。

「へぇー、可愛いね。いくつなの?」

 顔を覗き込んできた高橋に息を飲んだ。

「まだ酒も飲めない一八歳。ピチピチの社会人一年生」

 私の肩に腕を回したハルキが代わりに答えた。

「お前、こんな可愛い妹いたなら教えろよな」

「わざわざ教えるほど可愛くもねーだろ」

 ハルキと他愛ない話をしている高橋。
 目の前にいる存在に体の震えは一向に止まらない。
 肩に腕を回しているハルキがその状態に気付いたのかフラつきながら私を押して歩き出す。

「じゃあ帰るわ~」

 またなー!――と叫ぶ数人の声をバックに自宅に向けて足を進めた。

 強く回されたハルキの腕に不覚にも安心した体は徐々に震えが落ち着いていった。

「どうした?」

「⋯何が?」

 しらばっくれた私を酔っ払いが意味深に睨みつけてくる。

「何もねぇのにあんな震えてたのか?」

「⋯思ったより今日は⋯寒かったかな?」

 しっかりとパーカーを着ているくせに自分は何を言っているのか⋯
 だが、これ以上何も聞かれたくないという気持ちは伝わったようでハルキはそれ以降何も言ってこなかった。

 このままカナトの家に行く――と言うので了承したが⋯段々と重さが増して、千鳥足になっていくハルキ。
 辿り着く前に倒れて潰されると思い、必死にハルキを支えながら救いを求めてカナトに電話した。

『いいよ。今迎えに行くから』

 電話を切って割とすぐに正面からカナトが走ってきた。
 月明かりをバックに近付いてくる姿を見て、一気に込み上がっていた恐怖心が消えていく⋯

 そしてよく見れば普段は着ないジャージを着て、汗だくの姿に疑問を感じて首を傾げた。

「走ってたんだ。運動不足になるからね」

 そう言いながら今にも私を潰しそうなハルキの腕を自分の肩にかけて、しっかりと引きずって歩いてくれた。

「カナト~呑むぞ~」

「先にシャワー入らせてな」

「⋯⋯汗臭くねぇな⋯気色わりぃ⋯」

「その辺に捨ててくぞ?」

 楽しそうな二人を見て、少し心も穏やかになったように感じ、私は一人で家に帰っていった。



 自室に入って戸を閉めると⋯一気に血の気が引いてきて、膝から崩れ落ちた⋯

(何で⋯兄ちゃんの同級生だったなんて⋯)

 先程出会った高橋⋯そいつこそが” 夢の人生 ”での私の夫で、一番の恐れの対象だ。



 アレと出会ったのはここから離れた、もう少し都会化している場所だった。
 家族と疎遠になった私はバーテンのバイトをしながら生活していたが、そこに客としてやって来たのが高橋だ。
 常連になった高橋とプライベートでも会うようになって付き合うまでに時間はかからなかった。
 真面目で明るく、優しい姿に惹かれていた。
 他人にも親切に出来る人柄を尊敬していた。
 だからプロポーズを受けた。

 だが入籍後すぐに奴の本性を知った。

 私は家族と疎遠で高橋も親と仲が良くないということから式は挙げないことにした。
 それでも「写真くらいは撮ろう」と言うと⋯今までに見たことがないほど険しい表情を浮かべた。

「稼ぎのない分際で浪費を提案するな」

 ⋯⋯時が止まったように感じた。
 専業主婦を希望してきたのはあっちで、私はそれを了承しただけ⋯
 共働きでも構わないと言えば「俺の金だけじゃ生活できない?」と言われる。
 そんな状態だから新婚旅行も行っていない。

 ただ毎日完璧に家事をこなして家にいる日々。
 息抜きにと少し散歩に出れば【何してる?】と連絡が来る。
 知らないうちに追跡アプリをスマホにダウンロードされていたのだ。

 買い物も全てカードで支払いように言われ、逐一確認される。
 現金は一円も渡されず、私の独身時代の貯金はどこかに隠された。

 親と仲が悪いと言っていたのも嘘で暇をみては私にネチネチと嫌味の電話をかけるわ、会えば張っ倒されるわで⋯とんでもない親だった。

 こんな生活の中での夫婦生活は苦痛そのものだった。
 奴の欲は強く、毎日何度も求めてきた。
 嫌いな相手ならばこれほど求めることはないだろう⋯
 そう、奴は私の見た目だけに狂うほど惹かれていたのだ。

 だから家から出さない。
 お洒落も自宅だけ⋯
 欲しいだけ求めてくる。

 全く妊娠せず責められる日々が始まっても何も変わらなかった。
 限界が近付き、一度ハルキに助けを求めようとスマホを開いたが⋯高橋と高橋の両親以外の連絡先が跡形もなく消されていて、携帯番号も変えられていた。

 心が折れた⋯

 その後は毎日罵声と一方的な性生活を繰り返し、高橋は定年後すぐに病で呆気なく他界した。
 連絡を取る相手もいない私は地獄のような生活を送った家で一人寂しく生涯を終えた⋯
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