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しおりを挟む「イチカ⋯イチカっ⋯」
今すぐ泣きつきたい⋯
でも素直にスマホを構えられず、頭を抱えて泣き崩れる。
「兄ちゃん⋯うっ⋯く、⋯」
何でカナトの家に行ったんだ――と兄を恋しく思ってしまう。
「うぅ、カナトさんっ⋯カナ、⋯さっ⋯」
会いたい⋯ひたすら会いたい⋯
いつもは気が抜けるから止めてほしいハグが今は恋しい⋯
頭を撫でながら「大丈夫だよ」と言ってほしい⋯
でもこんな姿は誰にも見られたくはない。
そう思った瞬間⋯ ガチャ
「アラタちゃん!」
急に開いた戸に驚いて顔を上げると⋯息を切らしたカナトが立っていた。
時計に刻まれた時刻は深夜⋯何時間も泣き続けていたのかと思うのと同時に何故こんな時間にカナトがここに?と驚く。
大きな安心感が押し寄せてくる。
駆け寄ってきたカナトはすぐに私を胸に抱き寄せて、力強く抱き締めた。
「大丈夫だよ。俺がいるから」
頭を撫でられて、更に涙が溢れる。
息を切らしながらフラフラと部屋に入ってきたハルキの存在に気付くことなく、私は声を殺しながら泣き狂った。
この腕の中でならどんなに泣いても大丈夫だと⋯
どうしてこの人は無償で私の欲しがる物をくれるのだろうか⋯いつ考えても不思議だが今はこの温もりに身も心も預けて涙を枯らそう⋯
――――――――――――――――――――
「そんなんでまだ呑むの?明日でいいだろ!」
フラフラのハルキをソファーに放る。
「まだ呑めるぞ~」
溜め息を吐くと冷蔵庫からビールを出して、プシュッと開けるとハルキの前に置いた。
よろけながら起き上がって缶を持ち、グイッと煽る。
「明日約束してんのに何でまたいきなり⋯」
自分もテーブルを挟んだハルキの正面に座ってビールに口を付ける。
「⋯⋯なんで来たんだっけ?」
「アホ」
少し付き合って呑むとハルキはすぐに潰れて寝てしまい、カナトも布団に入った。
カナトが一度だけ入ったことがあるアラタの部屋。
その中央で膝をついて頭を抱えながら大泣きするアラタ。
(どうして泣いてるの?)
声が届かない。
(何があった?)
触れようにも近寄れない。
恐怖に苛まれているかの如く震えながら涙を流し、この世の終わりかの如く絶望に満ちた顔をしている。
(今すぐ側に行かないと⋯今行くから⋯)
ハッと目を覚ましたカナトは時計を見た。
まだまだ日も昇らない深夜だ。
慌てて布団から出て、パーカーを羽織るとリビングに駆け込んでハルキを文字通り叩き起こす。
「いってぇ~!なんだよ!」
「実家行くぞ!アラタちゃんが泣いてる!」
酔いが抜けてない上に寝起きで訳が分からないままカナトに引きずられ、走らされて鍵を開けさせられる。
家に入ったカナトは靴を脱ぎ捨てて、二階に駆け上がっていった。
「アラタちゃん!」
勢いのままに戸を開けると夢で見た状態のアラタが部屋の中央から涙で濡れた顔で振り向く。
その瞳には驚きが映し出されていたが、すぐに縋るような瞳に変わった。
駆け寄って自分の胸に抱き寄せる。
「大丈夫だよ。俺がいるから」
声を押し殺しているが堰を切ったように泣き出したアラタを力強く抱き締めた。
――――――――――――――――――――
『それでそのまま泣き疲れて寝ちまったと⋯』
泣いているアラタの元に飛んでいった後日。
いつもと同じように接してくるアラタに二人は何も聞くことが出来ず、ハルキはそのまま帰る日を迎えた。
暫くは普通だったが最近になってまた表情が曇りだし、不安がる分だけカナトのハグの回数が増えた。
カナトの夢にも泣いたり怖がったりするアラタが多く出てくるようになり、自分だけでは無理だと判断してハルキとタケルに相談を決めた。
タケルにはハルキが粗方説明していたようだったが、とある理由からカナトの秘密も含めて洗いざらい話すことになったのだ。
「そういう事なんだけど⋯何か質問はある?イチカちゃん」
『ハァー⋯なんと言えばいいのか⋯信じますよ。夢の話は⋯中学のアレの話まで知ってるなら否定できません』
タケルによってイチカがグループ通話に参加することになった。
アラタの緊急事態とあらば何が何でも参加すると意気込んでカナトの話を聞いたが⋯
想像以上の内容にちょっと脳がついていけず、天を仰いでいた。
『アラタの” 夢の人生 ”のことまで知ってるなら⋯話したほうがいいか⋯』
『やっぱイチカは全部知ってんのか?』
『どっかのバカ兄貴がまともに取り合わなかったお陰で唯一の相談相手になれました。ありがとう』
画面の中でギャーギャー喚いているハルキを黙らせて、イチカが話しを始めた。
語られる” 夢の人生 ”の内容にハルキは俯いて、手で目を覆った。
「俺とタケルは出会ってないんだね」
『そうです。だから私は先生を警戒していました。一瞬でしたけど』
「信用を得たのなら良かったよ」
『⋯そしてこれから話すのがアラタ最大の闇⋯いや、恐怖かな⋯』
イチカの口から語られる” 夢の人生 ”での結婚生活。
それを聞くハルキは堪らず涙し、タケルは苦しそうに目を瞑る。
カナトはいつもの穏やかな雰囲気が微塵も感じられないほど静かに怒り狂っていた。
『誰なんだよ⋯誰が⋯⋯イチカ、誰なんだよ!』
涙を流して叫ぶハルキの問いに静かに答えた。
『相手の名前は確か⋯高橋、マサ⋯ル?』
名を聞いたハルキが画面の中で思いっきりテーブルを殴り、「クソッ!」と叫びながらコップを床に叩きつけて割れた音が響いた。
「ハルキ!?」
『どうした!?』
『ふざけんな⋯だから震えてたのか⋯俺はバカだ⋯俺のせいだ⋯』
三人が必死にハルキに声をかけ続ける。
『俺の⋯同級生だ⋯この間の同窓会で、アラタに最初に声をかけた奴なんだよ⋯』
それを聞いたイチカはもっと早くハルキに話していれば防げたのではないかと後悔したが、ハルキの後悔の量は更に上をいった。
ちゃんと話しを聞いてやれば良かった。
迎えを頼まなければ良かった。
あんなに酒を呑んでいなければ⋯
自分のせいで妹が苦しんでいるとしか思えなかった。
『落ち着け。これは誰のせいでもない。カナト、結局やることは変わらないんだろ?』
「あぁ⋯守る。何が何でも⋯」
『お前が不利になるような行動をしたら悲しむのはアラタちゃんだぞ?』
頭に血が上っているカナトが落ち着くように言葉を選んでかけていく。
「そいつはこれからどうゆう行動をするの?」
『多分⋯アラタの元に通うんだと⋯⋯⋯っ!?』
「まさか⋯」
最近になって暗くなった理由⋯四人全員が同じ事を思った。
付き纏われていると⋯
『夢と同じ性格ならかなりのサイコパスだぞ?』
『同じだよ。アラタの夢は今まで外れたことがない』
その場では「兎に角一人で行動させない」ということで一先ず話し合いが終わった。
そして各々が自分に出来ることをやり始めた。
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