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しおりを挟む「⋯アレなんだね?」
「⋯⋯うん」
「明らかに頭おかしい奴らじゃん!」
何も始まっていないにも関わらず、すでに嫁にもらうような口振りで話す二人に恐怖を抱くイチカ。
更に⋯
「私⋯家政婦してるなんて⋯話してない⋯」
ハンドルを握るイチカが顔をしかめる。
高橋が何故私の仕事を知っているのか⋯
可能性としては二つ。
一つ目はハルキに聞いた⋯だが、それはないとイチカが断言する。
二つ目は⋯尾行だ。
正直これしかないと思っている。
きっとカナトに送ってもらうようになったのをキッカケに職場を特定されたのだろう⋯
あとは家の前の掃除やゴミ出しをしていることから家政婦だと判断した⋯そうとしか考えられなかった。
「アラタ⋯みんなに話そうよ⋯」
「みんな?」
「先生とハルキ兄ちゃん⋯タケルさんだって、力になってくれるよ!」
助けを求めればいい⋯それも分かってはいる。
でも⋯どうしてなのか⋯出来ない⋯「助けて」の一言が喉で止まって出てこないのだ。
俯いて手で顔を覆う私を悲しい表情をしたイチカが見つめているような気がした⋯
「アラタ⋯」
カナトの家で掃除機をかけているとリビングの窓から家の前に誰かが立っているのが見えた。
確認の為に数歩窓に近寄るとそれが高橋であることに気付き、驚いた私はバランスを崩して尻もちをついた。
やはり後を尾けられていた⋯
カナトに迷惑がかかる⋯どうしよう⋯――と冷や汗が頬を伝っていく。
「アラタちゃん!?」
ダイニングテーブルで仕事をしていたカナトがアラタに駆け寄って肩を抱く。
窓に視線を向けて、カナトも高橋を見た。
「あいつ⋯誰?」
ドキッとして俯きながら拳を握った。
「⋯⋯知らない⋯」
体が震える⋯
やっぱり別の職場に勤めれば良かった。
みんなから離れて暮らせば良かった。
後悔に押し潰されていると顔を掴まれて、カナトのほうを向かせられた。
「もう⋯知らないは通用しないよ」
真剣な顔で詰め寄られ、諦めの涙が流れた。
アレを見て尻もちをつき、怯えて震えてしまえば言い逃れも出来ない。
「ずっと⋯付き纏われて⋯」
勿論詳しくは言わないで今の状況のみを伝える。
「あいつが誰だか分かる?」
「⋯⋯兄ちゃんの⋯同級生⋯同窓会の時に⋯会って⋯」
ポロポロと涙を流しながら言葉を口にするとカナトの唇が私の涙を拭った。
「それで体調おかしくなったんだね。⋯早く、言ってくれれば良かったのに⋯」
私を肩に抱き寄せ、しっかりと抱え込むカナトが頭を撫でた。
「大丈夫だよ。俺がいるから」
これは魔法の言葉なのだろうか⋯
カナトがそう言うなら、本当に大丈夫なんだと思える。
とても⋯⋯不思議だ⋯
カナトに悩みがバレた日から仕事の行き帰りはカナトに付き添われ、買い物はイチカが車を出してくれるようになった。
「話して良かったでしょ?」
イチカに笑顔で返事を返す。
「うん。イチカもありがとう」
「お礼は要らないからちゃんと甘えなよ!」
二人のお陰か最近はずっと高橋を見ない。
カナトの家の前にも現れなくなったようで、このまま本当に終わるんじゃないかと気持ちが上がってきた。
姿を現さなくなったが、それでも万全を期す為にハルキとタケルがこちらに来るという。
特に話しを聞いたハルキは「自分のせいだ」と大変落ち込んでいたらしく、解決に全力を注ぐと息巻いているようだが⋯
普段の自分の兄を思い出すと、全力で空振りするんじゃないかと逆に心配になる。
タケルは一応私の直属の上司という立場でフォローに来るらしいが⋯
どうも社長が「ハエを全力で叩き潰してこい」とタケルに言ったようだとカナトから聞いた。
自分は人に恵まれてるな。
そう思わずにはいられなかった。
――――――――――――――――――――
「やっとアラタちゃんに白状させた。動こう」
毎度恒例のグループ通話で話し合いをする。
『私、買い物とかで車出します。いつでも動けるように親にも説明しとくんで』
『俺は親父に話し通してからそっちに向かう』
「何でジジイに話すわけ?」
『飛行機代を出して貰えるかもしれないからな』
そんな理由かよ――と溜め息を吐くがお金の問題ですぐに行くと言えないハルキを見て、少し悩む。
結果、カナトが飛行機代を貸すということで落ち着いた。
『すまん。必ず返すから』
「いつでもいいから。実家は分かってるし」
冗談で一頻り笑うと改めて真剣に話し合う。
「下手に俺が出るより、友人のハルキが話したほうが丸く収まるっていうのは分かるけど⋯」
正直、一発殴りたい気持ちがあるカナトは丸く収めようとすることに不満があった。
『アラタの気持ちを考えるなら、事を大きくほうが良いです』
イチカの言う通りだと一応納得はする。
『それでもダメだった時の為に俺がいるんだろ』
ハルキとの話し合いが成立しなかった場合、カナトの玄関モニターに録画されている映像とアラタの状態から弁護士を出すと話しをする為のタケルだ。
「俺は何したらいいのさ」
不満げに言うと三人から『アラタをしっかり抱えてろ』と言われて、「勿論」と笑顔で答えた。
『しかし⋯仕事の行き帰りにカナトが付き添うようになってから、バレないように家をうろつくようになるなんてな⋯』
「玄関モニターには丸写りなんだけどね」
『この辺はそこまで防犯対策してないんで録画されてるなんて想像もしてないと思いますよ』
それだけ治安が良いということなんだろう。
それで相手が遠慮なく敷地に不法侵入して、証拠を残してくれているんだから願ったり叶ったりだ。
『地元に残ってる他の奴に連絡取って高橋の話し聞いたら、あいつ「彼女が出来た」って言い回ってるみたいなんだよ』
家事も完璧な年下のスタイルが良い子だと自慢して回っていると聞いたカナトの眉間にシワが寄り、額に血管が浮く。
『⋯⋯先生って、そんな顔も出来るんですね⋯ギャップあり過ぎて引く⋯』
初めて見るカナトの怒りに満ちた顔に一瞬怯んだ後、冷静に感想を伝えるイチカ。
カナトに対して「引く」と言ったことにタケルが大笑いした。
『ハハハッ、カナトに、あのカナトの顔に、引くって、アハハハ』
引くと言われたことは気にしないがタケルの大笑いが胸糞悪いカナト。
頬杖を付いて苛々しながらビールを口にする。
そして話し合いが終了して、スマホを閉じると息を吐いてから一気にビールを飲み干していく。
最近は食欲と睡眠も回復してきたようで顔色が良くなってきているアラタを思い出す。
まだ暗くなることもあるが抱き締めると安心するのか素直に身を預けてくるようになった。
抱き締め返すことはしてくれないが受け入れられていることだけはわかる。
泣かせない⋯泣かせたくない。
幸せにしたい⋯笑顔でいてほしい⋯
これ以上の被害を与えることなく、早々に奴を引き離す。
カナトの拳に力が入った。
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