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しおりを挟む「おーい、来たぞー!」
「こんにちはー!」
カナトの家の庭に荷物を抱えたタケルとイチカが入ってきた。
「いらっしゃい。ハルキは?」
「実家に荷物置いてから来るってよ」
イチカが買ってきた物をクーラーボックスに入れて、バーベキューコンロの火を起こしている私の横にきた。
手伝う――と言って、団扇を手に取る。
「アラタちゃんが火起こししてんのか?」
「俺、やった事なかったから。教えてもらってた」
「もう焼けるよ!」
イチカと肉や野菜を焼いていくと元気な声が響いてきた。
「イチカちゃーん!」
アカネが真っ直ぐイチカに向かってきて、腕にしがみつく。
「わぁー、久しぶり。元気だった?部活はどう?」
アカネは昔からイチカに懐いていて、今では憧れと言っても過言ではない。
髪を短く切っているのも部活は関係なく、イチカの髪型を意識しているからだ。
「てか、なんでアカネが来たの?」
気付けば座ってビールを煽っているハルキに疑問を投げかける。
「カップルしかいないとこで俺に泣きながらビール呑めっていうのか?」
そう⋯私とカナトが付き合い始めた後にタケルとイチカもめでたく恋人同士になった。
遠距離恋愛も特に気にしていないらしく、一度イチカが二週間ほどタケルの元に滞在していたこともあった。
「そうそう、だから兄ちゃんを構ってあげる為に私が来たの!ゴチになりまーす!」
ちゃっかりしているアカネにカナトがジュースを渡し、タケルが焼けた肉を取って渡す。
最初はみんなが一番年下のアカネを気にして、焼いたり出したりと動いていた。
でも気が付けば私とアカネが二人で焼いて、同時進行で片付けもしていた。
「さすがアラタの妹だね」
「兄貴は動かざること山の如しなのにな」
「妹がしっかりしてると上はダラけられるんですよ」
ふざけた事を抜かすハルキの皿にあるお肉をアカネが食べるとそこにひたすら野菜を乗せてやった。
「お前ら、ふざけんなよなー」
ハルキの叫びを無視して、引き続き焼いているとカナトが冷ました焼き鳥を口に入れてきた。
私の口元に付いたタレを拭った親指を自分の口元に持っていって舐め取る。
⋯⋯⋯。
放心状態のアカネの視線が刺さる。
カナトも「やっちまった」と思っているような顔でアカネを見ている。
「いーなー」
「「はい?」」
カナトではなく、ハルキと私が反応してしまった。
「だって私だって高校生だよ?彼氏欲しいよ」
女子高生なんてそんなものだ。
恋愛が一番楽しい年頃なのだからそう願って当然だ。
しかしシスコンの兄はそれを邪魔する存在だった。
「まだ早いだろ。同年代の男なんてまだまだガキなんだ」
「じゃあ姉ちゃんみたいに年上の方がいいの?」
そういうわけじゃない!――と荒ぶるハルキを抑えるアラタ。
「年上なら問題ないわけじゃないんだよ?一つ言えるのは⋯しっかり中身を吟味しな。ふざけた奴は認めない」
「同じく。やっとアラタが落ち着いたのに次はお前の心配なんて⋯心の休暇をくれ」
そんな兄妹のやり取りを見ていたカナト達が大笑いしだした。
お腹を抱えながらヒーヒーと苦しそうに笑っている。
「久々に三人でバカやってるの見たよ」
「ほんとに仲の良い兄妹だな」
「こんな兄妹、漫画の中だけだと思ってたよ」
バカやっていると言われた私達兄妹は一気に冷静になった。
散々笑われたが、どこに笑う要素があるのか分からない。
見たところ、ハルキもアカネも分かっていないようだ。
日が暮れてきて、家の中に移動しようと片付けをする。
アカネとイチカと粗方片付けていたお陰で、椅子やテーブルを片付けるくらいですぐに終わった。
中でワイワイと話しているとハルキが鞄から何かを出した。
「なぁ、みんなでコレ観ねぇ?」
ハルキの手に持たれた物⋯
それは怖いと話題のホラー映画のDVDだった。
「ソレ気になってたヤツ!わざわざ買ったの?」
アカネが嬉しそうにハルキからDVDを受け取る。
「ついつい買っちゃうんだよな」
映画好きのハルキは自分好みのDVDは全て買ってしまう。
特にホラーを好んでいるのだが、それには理由があった。
「父さんも母さんも怖がりだから、うちはホラー禁止なんだよ」
「だからハルキのコレクションにはホラーが多かったんだね」
大学時代、ハルキの部屋に行ったカナトはそのDVDの量に度肝を抜かれたと前に話してくれた。
折角だから観よう――とテーブルを移動させて、みんなが観やすいように座る。
「しかし両親が怖がりなのにその子供達がホラー好きとは面白いな」
「アラタは普通みたいだよ。コメディーのほうが気に入ってたし」
「まぁ⋯好きと得意は別というか⋯」
ソファーに座ったタケル、カナト、イチカが言葉を交わす。
「どういうことだ?」
「見てれば分かるよ⋯」
三人がソファーの前でハルキを真ん中にして座る私達兄妹を見つめてきた。
何だか恥を公開することになりそうな予感がする⋯
「「ギャア~~~!」」
叫ぶハルキとアカネ。
私は叫ばないがハルキの腕を掴んで離せない。
反対側ではアカネも同じ状態だ。
「あー⋯ちゃんと怖がりなんだな⋯」
「そう。昔からこうだから」
ハルキがまだ実家に住んでいた頃はホラー映画を観る為によくイチカの家に三人でお邪魔した。
イチカの両親は怖がって身を寄せ合いながら映画を観る私達をいつも微笑ましい目で見ていた。
「「イ”ヤ”~~~!⋯ギャア~~~!」」
ハルキにガッチリくっついて離れられない私の腕をカナトが掴んだ。
「怖いならこっちおいで?」
声をかけられたのでカナトのほうへ行こうとハルキから手を離した瞬間、二本の手が私の反対の腕を掴んだ。
「お前ここで離れるなよ!」
「そうだよ!ちゃんといてよ!「「ギャ~~!」」
結局、映画の間はずっと兄妹で身を寄せたままだった。
「結構面白かったね」
「俺はこっちのほうが面白かったけどな」
タケルの視線の先には怖がり疲れた私達兄妹⋯
どうしてそこまでして観るのか――とタケルが疑問を投げかけてくる。
私は嫌いなわけではないが決して好きなわけでもない。
ハルキとアカネが家で禁止されている反動で好んでしまっているだけだ。
正直、私はいつもただの巻き沿い。
「アラタ⋯大丈夫?」
項垂れる頭を撫でられて、カナトの膝に頭を置いた。
「この後が⋯キツイ⋯」
どういうことか――とカナトが聞く前にイチカが大笑いした。
「もしかして、アレ?まだやってんの?マジで?ハルキ兄ちゃん恥ず~」
指をさされて笑われるハルキが顔を赤くしてイチカに言い返す。
「仕方ねぇだろ!昔からの習慣だ!」
「そんなんじゃ、いつまでも彼女出来ないよぉ~」
「余計なお世話だ!」
カナトとタケルが説明を求めてきた。
ハルキとアカネはホラー映画を観た日は絶対に一人で寝ない。
何故か私の部屋に布団を持ち込んでハルキを真ん中に寝る習慣がついているのだった。
これも私は特に求めていないので⋯巻き沿いだ。
「じゃあ今日はハルキと一緒に寝るってこと?」
「まぁ、そういうこと。反対隣にアカネもいるけどね」
カナトがハルキに厳しい視線を向ける。
「な、なんだよ⋯」
「お前さぁ、もう二六だよ?一人で寝ろよ」
歳を言われるとぐうの音も出ないハルキ。
でもその歳で妹にベッタリ過ぎるのも⋯確かにいかがなものかと思う。
これを機にこの習慣を無くすのも一つの手だ。
「そうだね。もう一人で寝るようにして」
「姉ちゃん!?私も?私も一人で?」
今にも泣きそうなアカネが縋り付いてくる。
「ん~⋯アカネは⋯一緒に寝よっか」
喜ぶアカネ。
落ち込むハルキ。
満足気なカナト。
声を殺してずっと笑ってるタケル。
無言で傍観するイチカ。
なんて楽しい時間なんだろう――と幸せが身に染みてくる。
そしてその夜、私はアカネをベットに招き入れて眠った。
だが翌朝、ベットの下には布団を持ち込んで眠っているハルキがいた。
(もう結婚してもいい歳なのに、この兄貴は⋯)
何とも情けない気持ちになるが、それと同じだけ変わらない兄妹の絆に安心もする。
ハルキは妹を見捨てない。
これはカナトの愛と同じだけの信用がある。
だから私も兄妹三人の時間と状況が許す限り、このままでいたいとも願ってしまうのだった。
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