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しおりを挟むその後、社長が泣いている私の頭を撫でていると仕事を終えたカナトが戻ってきた。
「何泣かせてんだ!」と社長に食ってかかったが、何とか事情を説明して落ち着いてもらえた。
「女の孫がいたら、こんな感じで可愛いんだろうな」
「可愛げ無い男の孫で悪かったな」
時計を見るとそろそろ夕飯のことを考えなくてはいけない時間だ。
社長はこのままカナトの家に泊まると言っていたが⋯
「夕飯はどうしたらいいですか?」
「おっ、そうだった!行きたいとこがあるんだ」
私も誘われて、カナトの車に乗り込み向かった先は⋯
「アラタ、いらっしゃい!」
やって来たのはイチカの実家のお寿司屋さん。
「カナトさんとでしょ?」
「うん。それと⋯」
後ろからカナト、更に後ろから社長が顔を出した。
「イチカ、来たぞ~」
「え、社長!?」
「そんな他人行儀な。”お義父さん” と呼んでくれって言っただろう」
前にイチカが東京に二週間滞在していた時に何度か社長と食事をしたと言っていた。
何故か社長はイチカを娘のように扱っているという。
私達は客の入っていない店内でカウンターに座った。
するとイチカに呼ばれて、奥から親方であるイチカの父親が出てきた。
「アラタちゃん、久しぶりじゃないか!全然遊びにも来なくなって」
「ハハハ~、忙しくて」
「隣の彼氏で忙しいんだろ?良かったな!」
照れ臭そうに笑うとカナトも何やら照れている様子。
初対面相手だとやっぱり恥ずかしいのだろうか⋯
「そちらの方は⋯」
イチカが親方の服を引っ張って何かを耳打ちすると目を見開いて、社長を見た。
「片岡と言います。娘さんには息子がお世話になっております」
社長が立ち上がって頭を下げると親方も慌てて頭を下げた。
「いいえ、東京に滞在した際は娘が大変お世話になったようで」
この光景を見て、まさかうちにも来ないよね――と不安に駆られる。
目の前で親方がオススメをどんどん握っていく。
「どんどん食べてくださいね。今日は本来休みなんで、誰も来ませんから楽に過ごして下さい」
「どうして休みなのに開けたんですか?」
カナトが疑問を投げかける。
「アラタちゃんから電話があったからですよ。彼氏と来るって。あまり人前に顔を出せない彼氏だってイチカから聞いていたんですが⋯ん、納得」
顔をまじまじ見た親方が一人で頷く。
から笑いしか出来ないカナトが面白くて、私とイチカはバレないように笑った。
私の電話一本で店を開けてくれる親方に本当に感謝だ。
「ん~、美味いな~。あっちじゃこれほどの寿司は味わえん」
幸せそうに食べる社長を見て、親方が満足そうに微笑む。
「アラタは俺らと違うネタが出されるね」
「全部アラタの好物なんですよ。昔から決まった物しか注文しないんで父が勝手に ”アラタセット” ってメニュー作ったんです」
決まったネタの寿司を食べていくと出汁巻き玉子が出されて、最後は大好物のいくら丼だ。
小さな頃から変わらず食べているメニュー、変わらぬ味。
でも今、更に美味しく感じるのは隣にカナトがいるからだろう。
カナトが私と同じ物を親方に頼んで出してもらっていた。
「好きな物食べればいいしょ」
「ん?ここ何食べても美味しいしょ。だからアラタの一押しを食べたいの」
甘々のカナトにイチカがやれやれと頭を振る。
「アラタちゃんが幸せそうでおじさん嬉しいな⋯よし、まだお腹入るなら特製海鮮丼ご馳走してやる!」
「ウソ!やったー!でも⋯いいの?」
申し訳なさそうにする私を親方は鼻で笑った。
「アラタちゃんは昔っから自分の幸せは後回しで、何かがむしゃらなとこがあったからイチカの母親も心配してたんだ」
体の弱いイチカの母親は今、実家に療養しに行っているらしい。
体力がなく、体調を崩しやすいイチカの母親にも心配をかけていたと知って、心が苦しくなる。
「でもあのアラタちゃんがこんな幸せそうに彼氏と来たんだ!絶対喜ぶぞ!だからこれはお祝いだ」
泣きそうになるのを必死に耐えて、カナトと社長と一緒に特製海鮮丼を食べた。
私の好物が全部乗ったこの海鮮丼に勝てる海鮮丼はどこにもないと味わいながら思った。
食べ終わり、そろそろ帰ろうかという頃に親方が口を開いた。
「あの⋯うちの娘は近い将来、ここを出て東京に住むでしょう⋯」
もう親に話していたのか⋯
イチカは頃合いを見て、東京に住むと言っていた。
私の事も落ち着いて、イチカも自分の幸せを追うことにしたのだ。
「私は反対はしていません。店に関しても近々店を継ぐ予定の甥っ子が来ますから⋯ただ、」
親方が社長に頭を下げた。
「一人娘なんです⋯どうか、宜しくお願いします」
社長が立ち上がって、手を差し出した。
「一人娘の父親は気苦労が絶えませんからな。⋯⋯任せて下さい」
握手を交わしている横でイチカは今にも泣きそうにしていた。
私の隣のカナトは何故かスマホを操作している。
「⋯何してるの?」
「いや、話しが見えないからタケルに連絡してるんだけど⋯」
私を含め、誰一人カナトに話しをしていなかったらしい⋯
謝罪をしながら、説明した。
頃合いを見てイチカがこの町を出て東京に住むことと既にカナトの祖父の会社で雇ってもらえる事が決まっていること⋯
カナトは「あらあら⋯」と言いながら聞いていた。
そして私達はまた車に乗り込んで、帰ってきたわけだが⋯
「よし、次だ!アラタの家に行くぞ!」
嫌な予感が的中。
しかも丁度両親が揃っている上に明日は休日だ。
「これは酒盛り決定だね」
家の中から社長が手土産だと言って、紙袋と大きな日本酒の瓶を持ってくる。
あぁ⋯決定だ⋯
二人を連れて家に帰ると、突然の社長の訪問に母が大混乱。
だがカナトの祖父であることも知っている為、父が快く招き入れた。
社長の口から日頃のお礼とハルキが転職していたことを聞かされて、感情が迷子になっていた。
だが手土産の日本酒で出来上がってしまえば、みんなが楽しそうに談笑する。
アカネもチョコレートを幸せそうに食べていた。
「アラタ、お前は人に恵まれているな。だからお前も温かい心を持っているんだ。人は人と心を通わせて生きていき、成長する。お前を見ていればどれだけ大切に育てられ、愛されているかよく分かる。だからこそ、これからは素直に幸福を手に取り、笑顔でいるんだ。それが一番の愛の返し方だ」
社長の言葉は心の底に響いていった。
カナトは間違いなくこの人の孫だ。
言葉にしがたい温かな心が⋯本当にソックリだ。
私はまた一つ、大事なことを学んだような気がした。
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