2 / 84
ローナ 10歳編
ローナという少女
しおりを挟むローナ・リーヴェ。
シルクのように滑らかな白銀の髪に、トパーズを嵌め込んだような美しい瞳が特徴的な由緒正しき侯爵令嬢。
家族構成は、娘に甘い外交官の父親と、異国の姫だったこれまた娘に甘い母親。それと、後継としてこの上なく有望である歳の離れた兄がひとり。
本人はというと、身分の貴賎問わず誰にでも分け隔てなく接し、優しさと聡明さを両立する令嬢の憧れと尊敬を集めてやまない完璧な令嬢。
ーーしかし、幼少期に幼馴染の王室師団団長の息子によって視力を半永久的に失ってしまった。
盲目となってしまったが故に、確約と言われていたアルブレヒト・メクレンブルガー王太子との婚約を白紙に戻されてしまった、悲劇の令嬢。
……というのが、ローナの表向きの設定。
ローナの本性を語るには、この設定にはいくつかの添削を必要とするのだ。
ちなみに、家族構成等に嘘はない。
今までを思い返してみて、両親や兄はゲームで語られた通りのようだし。
問題は、彼女の性格の部分である。
ローナは身分の貴賎を問わないのではない、ある一点以外に興味がないだけだ。
ローナは優しいとはとても言えない。ゲーム内で彼女がとった行動を見て、優しいと言える人はいないだろう。
ローナは聡明ではない……わけではないけど、言い方が違う。どちらかというと、狡賢いのだ。
完璧な令嬢というだけでは、ネットで"ラスボス令嬢"なんてあだ名は付けられない。
一周目では"完璧令嬢"の肩書きでチラッとしか登場しないローナは、二周目から現れる特定のキャラのハッピーエンドルートにてようやく大々的に登場するーーのだが。
彼女、やる事なす事とにかく悪どかった。
周りからの評判が良いことを利用して、ヒロインが悪であると認識させる。
自分の評判に傷がつかないように、催眠でもかけたのかという程ローナに心酔している悪役令嬢を利用して、ヒロインへの嫌がらせを重ねる。
ローナを盲目にさせたとして負い目を感じているセシルを利用して、ヒロインへのエゲツない嫌がらせをさせる。
果ては、自分が盲目であるというのが周知の事実であるのを利用して、ヒロインの立場を全力で貶めるように働く。
パッケージにいるローナの可愛さに騙された私は、彼女がセシルを従えて車椅子で登場した時こそは、その可憐な声と見た目に喜びの悲鳴をあげた。
彼女のビジュアル、かなり好きだったんだよね。
でもその中身は、攻略対象者と良い仲になってきたヒロインの心を、足がつかないよう徹底的に折りにくる性悪令嬢。
しかも、ハッピーエンドはそんなローナを出し抜かなければ迎えられない超難易度で、彼女はプレイヤーの心をも折りにくる"ラスボス令嬢"だったのだ。
……そして私はそのローナに転生しまった、と。
これからどうしようかと私は唸ったのだが、考えに至るよりも先に片付けなければならない問題が現れた。
慌ただしく扉が開かれ、セシルが呼びに行った両親が部屋に到着したのだ。
「ローナ!目が覚めたんだね!」
「ああっ、ローナ……!」
両親は悲痛な声をあげて私の側へとやってきた……たぶん。
見えないのでハッキリとした事は言えないけど、足音や声が私に近づいたので。
「ローナ……セシルくんから聞いたよ。でも大丈夫、きっと一時的なものだ。お医者さまを呼んだからね、すぐにお前の可愛い目を治してくれるだろう」
「見えないというのは、心細いでしょうね。大丈夫よ。お母様はずっと、あなたの側にいますからね」
私の右手をゴツゴツとした大きな手で、左手を柔らかで温かみのある手で包まれる。
それぞれローナの……ううん、私の父と母の手だろう。
「ありがとう、お父様、お母様」
二人がどこにいるかわからないから、私は焦点の合わない笑顔を向けた。
それに反応してか、二人の手がピクリと小さく震える。
「っ……うぅっ……」
「クリス、君は泣いてはいけない。ローナがまだ堪えてるのだから……」
母の娘を思ってすすり泣く悲しげな音が部屋にこだまし、それを痛ましげに父が諫めた。
……なんか、大変申し訳ないというか。別に悪い事をしたわけじゃないんだけど、罪悪感があるというか。
既に私が、自分の目がもう二度と回復しないと知っているのに黙っているからーー話したところで慰められるだけなのでーーだろうか。
そういえばセシルは今どこにいるのかな、なんて現実逃避をして、医者が来るまで私は、どこに焦点を合わせるわけでもなく遠くを見つめるのだった。
42
あなたにおすすめの小説
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる