盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

文字の大きさ
1 / 84
ローナ 10歳編

剣が顔に打ち当たりまして

しおりを挟む


 刃を潰した模擬戦用の剣が顔に勢いよく打ち当たったその瞬間ーー痛みを通り越して熱さを両眼に感じたのと同時に、私の頭の中ではとある記憶がもの凄い勢いで逆流していた。


 ーーマジか。


 令嬢として生きてきた十年間が自制を促し、声にこそ出さずに済んだけれど、私の口は確かにそう言葉を紡いでいた。


 ああ……折角この世界にこのキャラクターで転生・・したんだったら、もう少しだけ早いタイミングで気づきたかった。

 目の前で剣を飛ばしてしまった張本人が真っ青な顔をしてこちらに駆け寄ってくるスチル・・・を思い出しながら、私は呑気にそんなことを思ってーー。



 暗転。



   *      *      *



 目が覚めた……いや、この場合は"頭が覚めた"とだけ言うのが正しいのかな。

 確かに私は重い目蓋をこじ開けたのだけれど、目の前に広がるのは真っ白な光だけ。


「ローナ!」


 感極まったような震える声で私の名前を呼んだのは、聞き間違いじゃなければ、剣を飛ばした男の子。
 今よりもっと幼い頃から付き合いのある、幼馴染。


「……セシル?」


 わあ、なんて可憐な声だこと。


 まあ、今は私なので、ナルシズムもいいところなんだけど。


「ローナ、ローナ……俺……」


 セシルのしゃくり上げて泣く声が耳に届く。


 泣かないで、セシル。こうなるのはゲームのシナリオ通り……運命みたいなものなんだから、そんなに気にしないで。

 ……とは、言えないので。


「セシル、セシルなの?あなたはどこにいるの?何も見えないの」


 今、私が真っ先に伝えるべき情報を彼に与える。
 伝えたことは間違いではないがーー正確には光の加減で人影らしきものは判別しているのだけど、その姿は人型かどうかさえ怪しいほどに朧げだ。


「…………!?……そんな……ローナ、目が……!」


 目が見えなくなったから、聴力が発達し始めているのかしら?驚きと衝撃で、セシルが息を飲んだのがよくわかった。


「医者……いや、リーヴェ侯爵を呼んでこなきゃ……!!」


 セシルが慌ただしく足音を立てて部屋を出て行った。
 ポツンと部屋に取り残された私は部屋の中に居るかもしれない侍女の存在を念頭におき、声に出さないように気をつけて、頭の中で状況の整理を始めた。



 剣が顔に打ち当たったその衝撃で思い出したのは、私はごく普通の社会人二年生として日本で生きていた記憶だった。


 その日の仕事を終えて帰路に着き、一日の疲れを癒すのにホットミルクを入れてーー歳の割に子供っぽいと言われるかもしれないが、私はお酒が飲めなかったーーこだわり抜いて選んだソファに腰掛けて一息ついたところだった。

 突然心臓が嫌に激しい音を立て始め、息苦しさに目を回して。
 もうダメだ、と思ったのが最期だった……ということだろう。


 健康診断とか会社の義務以上の検査なんて受けてなかったから、どこかしらがヤバいことになってたんだろう。


 うーん、我ながら自身の死への認識がサッパリしてる。
 仕方ない、なるようになった結果だ。


 そして、転生。
 前世を思い出すまでが長かった転生だけど、まさかよく知っている世界に生まれ変わるとは思ってもみなかった。


 この世界はたぶん……いや、まごう事なく、私が結構ハマって遊んだ乙女ゲーム『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』に違いない。


 『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』とはタイトルの通り、庶民生まれのヒロインがある日突然現れる父親の子爵によって貴族だけが通う特別な学園に編入する事となり、学校生活のなかで華やかな身分ある青年たちとの恋を育む事で、伯爵、侯爵、公爵……あるいは王族の仲間入りを叶えるシンデレラストーリーだった。


 よくある設定だったけど、乙女ゲームを買うのにちょっと変わった理由かもしれないが、パッケージに描かれた女の子キャラクターの可愛さに惹かれて私は購入したのだ。


 内容は可もなく不可もなく……だと思えたのはプレイ一周目まで。
 このゲーム、まさかの二周目・・・からが本番だった。


 全ての攻略キャラに二周目からしか攻略できない三つ目のエンディングが用意されていたのだ。


 一つは乙女ゲームとしては限りなくバッドと言える友情エンド、もう一つは、例外はあれど、概ね告白されて恋人となるノーマルエンドの他に、あらゆる真相を解明しなければならないハッピーエンドの三つ。

 スチル一覧を眺めて思い返していたら、謎の空きを見つけたときの驚きといったら。
 どうりで最後のスチルの右下に「normal ending」なんて文字があるわけだ。



 ちょっと回想が長かったが、気を取り直して。
 ここからが、私がもっとも整理しなくてはならない事だ。


 先程セシルが呼んだ私の名前、"ローナ"。


 その名前は、『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』に登場する愛らしく可憐な容姿のキャラクターでありーーネット上では、"ラスボス令嬢"と名高かったキャラクターでもある。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

処理中です...