盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

文字の大きさ
71 / 84
ローナ 13歳編

興味の矛先が不動

しおりを挟む


「ローナッ!!」


 自分の行いを反省し、すっかり萎縮してしまったギーゼラをどうにか回復してもらおうと、私は我が家自慢のシェフの特性クッキーを振る舞う事にした。
 すると、ポツポツとこぼすようにだが、それでもギーゼラは受け答えできるくらいに気力を取り戻してくれたーーというところで、客室の扉が激しい音と共に風を伴って開かれた。

 それと同時に、吸う空気の足りていない激しい呼吸音混じりに切羽詰まったような声で私の名前を叫んで現れたのは、先程兄さんに代筆を頼んだ手紙と共に早馬を出してもらった、その相手。


「セ、セシル……?」


 応じてくれたのね、と感謝の言葉を述べようと口を動かすには、セシルに余裕が無さ過ぎる。


 どうしてセシルが、こんなにも慌てて現れたのだろう?

 それにリーヴェ邸に到着するのも、予想を遥かに上回って早かった。今日は家の用事があって、それが何時に終わるかわからないから来れないと言っていたのに……偶々、丁度区切りが良かったのかしら。


 ともかく、セシルが突然の呼び出しに応じてくれた事は何より優先して感謝すべきだし、断られなくて良かった。

 用事が済んでいなかったら来られないかもしれないとも思っていたので、その場合の対処を考える必要が無くなったのには助かった。


 ……などと私は、セシルの訪れを呑気に歓迎していたのだけれど。

 セシルが珍しく礼儀を忘れて兄さんへの挨拶からではなく真っ先に近づいてきたかと思うと、私の肩を両手で包んだ。
 一連の流れの素早さとは裏腹に、私の肩を掴む両手は壊れ物に触れるかのように繊細さを持っている。


「ローナ、何があった。怪我……は見たところしていないようだが……見えないところか、それとも見えない怪我なのだろうか。もしくは病……か?治らないものではないのなら、心配しなくていい。父は身体が弱い娘を娶るのは世継ぎがどうのとうるさく言うだろうが、無視して良い。治らない、ものなら……わかった。死ぬ時は一緒だ」
「えっ……えっ?」
「それとも……まさか、俺にも言えない……いや、俺に言いづらい事だろうか。大丈夫だ、心配しなくていい。例えローナにどんな困難が襲おうとも、俺は君を離したりしない。幸せな時も、落ちる時も、俺は君と共にあり続ける」
「ありがとう…………?」


 ……セシルは何の話をしてるんだろう……?
 何が何だかよくわからないけれど、私はこの人にたくさん愛されてるのね、という事だけは充分伝わってきた。

 頭の上に疑問符を増やし続けている私はされるがままで、ギーゼラという客人がすぐそばにいる中でキツく抱きしめられたのに、窘めるのさえ忘れてしまった。

 とりあえず、熱いくらいの熱がセシルから伝わってきて、全速力で駆けつけてくれたのだという事はわかった。


 そういえば今この瞬間は、鍛錬の後は必ず汗を流してからしか会ってくれないので、なかなかに貴重かもしれない。

 汗の匂い混じりの、いつものセシルの匂いがして、息が上がるほどの運動をこなした体が温かくて、眠気を誘うほどに気持ちが良い……………。


 ーーいや。そうではなくて。
 そういうのは落ち着いてから堪能すれば良いのであって、今は成すべきことをするべきであるからして。


「えっと、セシル……?どうして私に、何かあった前提なの……?」


 温もりに絆されて「もう少しこのまま」なんて甘い考えが芽生え始めたがーー何やら勘違いをしていそうなセシルとよく話し合わねば。

 話の食い違いは早いうちに訂正しておかないと、おかしな方向に突っ走り続けかねないので。


「……違うのか?」
「むしろどうして、私に何かあった、という話になったの……?」


 兄さんに代筆してもらった手紙には『今日リーヴェ邸に訪れてほしい』事と、『でも用事が済んでいないのであれば出来る限りでいいので、無理はしないでほしい』という内容を書いてもらったはずだ。

 素直に用件を伝えなかった自覚はある。「ギーゼラに会って欲しいから来て」などと正直に伝えたところで、セシルが応じてくれるとは思えなかったので。


 なのに何故、それが私に一大事があったという解釈になったのだろうか。


「早馬で届いた手紙に『できればリーヴェ邸に来て欲しい。話がある』……と」


 無言で兄さんがいる方を見る。
 何も映らないはずの視界に、気不味そうに目を逸らした兄さんが見えたような気がした。


「ローナがいつも代筆を頼む侍女の筆跡ではなくイーサン様のもので、内容が内容だったから……だから俺はてっきり、ローナに何かあったのかと」


 確かに、兄さんの筆跡でセシルの言っていた通りの簡潔な内容だったのなら、私の一大事だと解釈してしまったのは無理もない。


 なので。


「兄さん……?」
「……いや、その……なるべく急ぐべきなのだろうな、と」
「兄さん」
「…………ほんの出来心で。セシルがどれだけ速くここに来るのだろうかと、気になってしまった」
「…………」


 セシルで遊ばないでほしい。


「君に何か有った訳じゃないならそれで良い……だからローナ、それ以上イーサン様に凄まないでほしい。俺も、少し……ほんの少しだけ、怖い」


 普段は光がさすと痛むので閉じている目を開けて、兄さんがいる方をただじっと見つめていただけなのだけれど、それなりに効果があったらしい。
 セシルに怖いと言わしめる眼力……ということかしら。


「でも、家の用事があったんじゃないの?途中で抜けさせてしまったとか……」
「ああ、それなら大丈夫。殆ど終わっていたようなものだったから」


 セシルがいいと言うのなら、用事にも影響が無かったのならと、私は兄さんを無言で見続ける作業を一旦取りやめた。

 隣からあからさまにホッと安堵の息を吐いたのが聞こえたが、ひとまずは放っておこう。兄さんとは後で、たくさんお話をしましょうね。


「それでね、セシル。突然、貴方を呼んだのは……」
「そこにいる、ネーベンブーラー伯爵の令嬢が関係しているのだろう?」
「ええ、まあ、そうね……彼女のこと、知ってる?」
「……知っているとも言えるし、全く知らないとも言える」


 歯切れの悪い返答に、私の嫌な予感が的中しそうな気配を察知する。

 ギーゼラが、セシルとの対戦で勝ったことがあるかと聞いた時から「もしや」とは思っていたが……これは当たってしまうかもしれない。


「ネーベンブーラー隊長から騎兵を学んでいるから、隊長が娘を連れてきたのを見たことがある。それと、城の訓練場で見かけたことも。だがそれくらいだ。あとは知らない」


 あちゃー、と声に出してしまいたいのを我慢して、悲壮感たっぷりに「そう……」と一言だけで返事を返した。


 やっぱり。

 薄々そうなんじゃないかとは思っていたがーーギーゼラはセシルと対戦したことさえ無いのだ。


 私の前では片鱗さえ見せないのでよく知らないが、他から聞く"セシル"という人は、兄曰く「いつも不機嫌そうな顔をしている」だとか、セシルの従姉妹モニカ曰く「気難しくて融通が効かない。しかも軍関連は天井知らずにプライドが高いからさらにめんどくさくなる。実力が伴ってるのが余計に鬱陶しい」……らしい。


 前情報から推測して、セシルがギーゼラと素直に対戦するだろうか?と疑っていた。
 言い方は悪いがーーセシルにとって格下だろうギーゼラと対戦したことによる利益計算をして、受け入れそうにないなと考えたのだ。


「あのね、セシル。彼女はギーゼラ・ネーベンブーラー様よ。ネーベンブーラー伯爵のご令嬢で、貴方と同じように騎士を目指していらっしゃるの」


 まずは、ギーゼラが騎士を目指しているところから伝えてみた。
 まさかそれさえ知らない、気づいていないなんてことはーー。


「へえ、そうなのか」


 いくらなんでも、関心が無さすぎるんじゃないかしら……?


 ギーゼラに興味があったらあったでうるさく言い出す自分を棚に上げて、訓練場で珍しいだろう女性の仲間に対する認識がその程度なのはどうなのかと、私は苦笑を浮かべた。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...