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新たな魔道具登場

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 フェイが屋敷の中を制圧している間に、祖父フランコは魔道具師たちとキリキリ働いてくれていたらしく、午後になると三人の魔導師を従えて颯爽と現れた。

「お待たせしました。『あれ』の仕掛けがわかりましたので、直ぐにでも取り換えようと思います」

 彼が発見した物の名称をわざと明確にしないことに気付く。
 今、口にしてはならないと言う事なのだろうか。

「もしかして、また、あのダウジング棒を使って残りの魔道具の探索をされるのですか?」

 フランコは金色の瞳を細め慈愛に満ちた表情でにこりと笑った。

「いえ。『あれ』の魔力の周波数を把握しておりますので、昨日よりも簡単です。本日連れてまいった弟子の一人は優秀な魔導士でありながら、モノ作りが好きで魔道具師へ転じております故、両方の技術を取り混ぜれば素早く終わらせることができるでしょう」

 話題に上った者なのだろう。
 控えていたローブ姿の男たちの中で一番年かさの者が一歩進み出て一礼すると、フェイは満面の笑みを彼に向かってぐっと親指を立てる。
 すると、彼を含め残りの二人も頬を緩めた。

「そうなのですか…」

 フェイは魔道具師たちに可愛がられて育っているのだなと知り、オーロラは胸の奥が暖かくなる。

「挨拶もそこそこで申し訳ありませんが、早速作業に取りかからせていただきます」

「はい。お願いいたします」

 魔道具師たちとフェイ、オーロラ、ロバートそしてナンシーを含めた数人の使用人たちが建物を出て庭へと足を踏み入れた。

 先ほど魔導師でもあると紹介された男は何かを包み込むような形に両手を組み合わせて胸元に当てる。
そして小さな声で何事か呟く。

「………………」

 すると、彼の合わせた指の間の親指のあたりからにょきっと出てきたのは。

「え…? 文鳥?」

 濃いピンクのぽってりした大きなくちばし、つぶらな黒い瞳、そして真っ白で小さな身体。

「チチチッ」

 囀り出したその鳥を高く掲げて手を緩く広げる。

「うわあ……」

 一羽目が飛び立つと、次から次へと彼の指先から白い小鳥が顔を出しては飛び立っていく。

 前世でマジシャンが帽子やハンカチから鳩を出すのを観たような気がするが、それの比ではない。

「きれい…」

 何十羽もの白い鳥が男の両手から現れて飛んでいく様子は、まるで聖なるものが生まれるかのようでとても美しい。

 青い空の下、白い文鳥が囀り合いながらパタパタと飛び、あちこちへと散っていくのをオーロラはぼんやりと見つめ続けた。

「さあ、次いくよ」

 フェイはフランコたちのそばへ行き、不思議な旋律を歌いだす。
 男たちはフェイのあとに続き、まるで輪唱のような音を紡ぐと、白い鳥たちが一斉に地面へ急降下した。

「うわ…っ」

 鳥たちが地面にぶつかってしまう。

 悲鳴を上げそうになり両手で口元を抑える。

「大丈夫です。あの鳥たちは私たちの作った道具なので」

 いつの間にかオーロラのそばに立っていた壮年の男は、低い声で優しく説明してくれた。

 一瞬、彼の目尻の皴に見とれそうになるが、その先の地面にちょうど鳥が下りていくのが見える。

「ああ…。そう…なのですね」

 淡雪が地面に溶け込むように、白い小鳥たちは次々と地面に吸い込まれていった。

 あっという間に鳥たちは消え、花壇や芝生、そして石畳は元の静けさを取り戻し、何事もなかったかのような錯覚に陥り、オーロラは戸惑う。

「大丈夫、現実だよ。ねえちゃん」

 フェイが唇の上に指を二本当てて口笛を吹いた。

「ピュルルー」

 その途端、今度は小鳥が溶け込んだあたりから、ぽこりとあのぽってりとした赤い嘴が出る。

「ぴ」

 嘴を開いて小さく鳴くと、今度は頭頂部が黒い姿の小鳥が顔を出してきた。

「え、かわいい…」

 黒い頭、白い頬、灰色の身体。
 基本型と呼ばれていた柄の文鳥そっくりだ。

「クルル、クルルルルル…、ギーギー、ギギッ」

 やがて威嚇するような鳴き声を上げるなり、ぼこぼこと土から出てくる。

 ふるりと身体を震わせ土を払い落とすなり、一斉に飛び立ち空を旋回し始める。

「ギギ、ギギギギギ!」

 硬い音で鳴き交わしながら飛ぶ姿は灰色と黒の羽のせいか、先ほどとはまた違った様子に見えた。

 可愛らしいのだけど、どことなく不安な気持ちになってくる。

 口に手を当てたまま空を見上げるオーロラをちらりと見て、フェイは両手を高く上げてパン、と叩いた。

「ぽちたち、ハウス!」

 号令が終わるやいなや鳥の羽が消え、ヒュンヒュンヒュンと音を立てて灰色の塊が落下しだす。

「………………」

 オーロラの隣にいた男が二言三言唱えると、フェイたちの前の地面の上に大きな正方形の白い布が現れレジャーシートのように敷かれた。

 そして。

 ドム、ドム、ドム、ドム、ドム……。

 鈍い音を立てて灰色の塊があっという間に白い布の上に積み上がっていく。

 それらはもう文鳥の姿はしておらず、子どもの頃に弟妹たちがままごと遊びで作っていた泥団子のような……。

 いや、それよりもっと見た事あるものが。

 首をかしげて見つめていると、フェイがオーロラを振り返ってにやりと笑った。

「色的には、ゴマのぼたもちだよねえ」

「そう、それ!」

 頭の中にかかった霞がぱあっと晴れたような心地に喜んだのは一瞬で、オーロラはしゅんと眉を下げた。

「なんて見た目にしてくれたのよ…」

 食べたくなるじゃないか。


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