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謎解き開始

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 ゴマのぼたもちはフランコが丁寧に風呂敷包みして、フェイのなんでも異空間ポーチに収納された。

 その白い布も魔道具なのだそうだ。

「封印能力を組み込んでいるので、もうお嬢様の生命を脅かすことはありません」

「そうなのですか…。ありがとうございます」

 応接室でフランコ、フェイ、魔道具師三人と軽く茶菓子を囲んで、調査結果を聞くことになった。

「それで、あれらを取り除いたことですし、改めて説明します。あの魔道具は認識阻害が主な機能で、お嬢様の生命力と魔力を吸い取ることにより作動し、かつ、貴方様の存在をこの建物の外の人々が気にかけない程度という絶妙な術を…ある意味執念深く組み込んでいたのです」

「え…? それはどういうことでしょうか」

「この建物まるごと全く認識されないとなると、生活に支障が出てしまいますし、商人の皆さんは優秀なようなので、早々に気付いてしまうでしょう。そして、使用人たちが主を忘れるというのも、破綻が起きる。なので、外部の人々には『トンプソンという商人の所有の館で、病気療養の女の子がいるらしい』程度は知っておいてもらうが、その『女の子』がいくつなのか、誰の子どもなのかということを考えようとすると、ふっと思考にもやがかかり、どうでも良くなるという、高等技術です。正直、私どものギルドでこのような魔道具は見たことがないし、誰も知りませんでした」

 オーロラはきょとんと目を丸くする。

「ええ…? でも、私が融資していたことは……」

 ご存じだったのでは? と尋ねると、フランコはゆっくり首を振った。

「ブロウ執事殿は、商会で名を成しているトンプソン家の者だと名乗られておられましたが、オーロラ嬢だとはおっしゃらなかったのです。そして、我々もそのお金でずいぶんと楽をさせて頂いていたにもかかわらず、誰なのか追求しょうという気が全く起きませんでした。疑問が頭をよぎっても『まあいいか』となっていた。先ほど述べた現象を我々自身が経験しています」

 料理の食材の仕入れや衣類の手配などは滞りなく行われていたため、隔絶されているとは気づかなかった。
 そもそも、オーロラは毎日だるすぎて何も考える力がなかったというのが本当のところだ。

「そ。あたしもなのよ。転生してまず思ったのは、もしかしたらスズねえもそうじゃないかってことだったよ。そんで自分なりに頑張って探したつもりだったのに、トンプソンはノーマーク。興味を持ったのは、新聞のタブレットをロバートさんが借りたいって言いだしてからだよ」

「あのパレード後ってことね…」

「そういやさ。あの鬼門の方になんか大きく掘り返した形跡があったけど、あれ何?」

「きもん?」

「うん、北東の隅っこ」

「ああ…。あそこには林檎の木があったの。十年以上前に両親が誕生日祝いにとか言って突然植えてそのまま放置されていたのだけど、半月くらい前だったかしら、大嵐の夜に倒れたから通いの庭師たちが処分したらしいのよね」

「らしい?」

「あの木、見た目は普通の林檎の木で綺麗な花は咲くし実もなるけれど、好きになれなくて。あそこまで歩くと息切れがしたり、気分が悪くなるから近寄らなかったのよ。この十六年間唯一の誕生プレゼントだから有難く思わないといけないとは思ってはいたけれど…。フェイ?」

 気が付くとフェイをはじめ魔道具師チームは互いに顔を見合わせている。

「あのさあ…。色々な謎が解けたかもしれない…」

「え?」

「なんかさ。高性能ではあるけれど、小手先の技っていうのかな。おかしいと思っていたんだよ。オーロラ・トンプソンはとんでもない美少女なのに、まったく噂にならない。屋敷の中にいたらそりゃさっきの装置が働いているわけなんだけど、あれ、何十個も緻密に張り巡らさないと効かないようなやつなんだよ。つまり、一歩でも外に出たら魔道具の圏外。でも、ねえちゃんはたまーに外に出てはいたんだよね? 閉じ込められていたわけじゃないから」

「ええ…。そうね。たいてい途中で具合が悪くなることが多くなったから、最近はほとんど出ていないけれど…」

「あのお…」

 そこで、ナンシーとともにずっと壁際に控えていたリラが手を挙げた。

「ちょっといいですかぁ? 関係あるかもしれないこと、思い出したんですけどぉ」

 こんな時でものんびりした口調のリラに、ナンシーが袖を引くが、オーロラは制して続きを促す。

「あのですね。お嬢様の具合がまだそこまで悪くなかった頃に、気分転換がてら服を作りに行ったことがあって、その時に周りの人たちがお嬢様を見て変なことを言ったんです」

 その時、ナンシーはもちろんオーロラにぴったりくっついて店主と話し込んでいた。
 しかし、リラは少し離れたところで荷物持ちとして少し離れた場所にいたため、お針子たちの会話が耳に入ったのだ。

「あんなヒキガエル、何着せても同じとか、デブスが客だと店の質が疑われちゃうじゃんとか…。他の商店でもあんな醜い子に仕えて大変だなとか…」

 少し申し訳なさそうに指を折りながらリラは語った。

「なんですってぇぇぇっ! どこのどいつ? 今すぐ制裁を…!」

「ナンシー! 落ち着くんだ。今重要なのは、それじゃない…!」

 一瞬で沸点に達したナンシーがいきり立つのを、ロバートが素早く背後から捕まえてとどめる。
 そんななか、意外にも肝の据わっているリラはナンシーから一歩離れて続けた。

「で、ですね。『ええ~。どうしてそんなこと言うんですか? うちのお嬢様、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか~、あのぱっちりとした大きな瞳とか、ふわふわの苺色の髪とか~』って反論したら、すごーく可哀想な人を見るような目で『いいよ、わかっているよ。仕事だもんな』って、肩を叩かれたりしたんです」

「ふうん。やっぱ、そういうことか」

 フェイは少し唇を尖らせて考えたのち、ごそごそと異次元ホーチを探る。

「ロルカ。任せた」

「はい。お任せを」

 先ほどの元魔導師はロルカと言う名らしく、一礼してフェイが取り出したものを両手で恭しく受け取った。

「ちょっと待って、フェイ、それって…」

 ロルカが手にしているのは、何の変哲もない細い筒。

 その形態は前世の実家の裏山に生えていた女竹と似ている。
 前世で宇宙が小学一年生の時に自由研究で作っていた…。

「空気鉄砲?」

 水鉄砲の空気圧版にしか見えない。

「そうそう、それの、魔道具ね」

 今更、単なる空気鉄砲でないのは分かっている。

「まあ、見てのおたのしみ」

 こうしている間にもロルカは庭に面した窓を開け、仰々しく筒を構えて指示を待つ。

「いっけー!」

 フェイが拳を振り上げた。


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