出遅れた転生ヒロインは恋を蹴散らす

犬飼ハルノ

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おことわりの定型文

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「そもそも…。前世の私はあのゲームは基本型を一度プレイした後、途中で保存されているポイントから再スタートして心愛の好みの場面だけを見せられたから、全部を知っているわけじゃないのだけど、『阿澄』はどうなの? ゲーム機自体はクリスマスプレゼントで贈った記憶はあるけど…」

 オーロラは『鈴音』として『阿澄』に尋ねる。

「あれは乙女ゲームでも人気が高かったからね。一年後くらいにソフトを中古で買って美兎とけっこうやりこんだよ。宇宙と芽瑠も一緒にいたけど、あの時幼稚園生なんだよね。どうかな記憶にあるかな」

「じいちゃんは?」

「居間だからね。時々いたよ。ちょっとは覚えているんじゃない」

 もしも、だが。
 阿澄以外の家族もこちらへ転生している可能性がある。
 願わくば、ゲームの記憶を利用して今世では楽に生きて欲しい。

「ちなみに、やりこんだからこそいうけど、私はモブですらないよ」

「モブ? 何それ?」

「ああ、脇役のこと。そっかねえちゃん、ゲームもファンタジーもほぼ履修していないんだっけ」

「まあ、そうなるね…」

 実は、幼いころから鈴音はファンタジー小説のたぐいが苦手だ。

 ノンフィクションしか読まないわけではない。
 単に、一行目から創作された世界の設定を記憶せねばならないのが面倒だった。
 現実の世界に即した小説などは好んで読んだのだが。

「まあ読んでた少女漫画雑誌も、ねえちゃんは『マー〇レット』派で、あたしと美兎は『花〇ゆめ』派だもんね」

 前世のマンガ読み女子の間で密かに語り継がれる『マー〇レット』と『花〇ゆめ』の派閥争い。
 互いの嗜好の違いから生まれる、渡れない川がそこにあった。

「いや、別に愛読していないけどね。途中で飽きたし…」

 どのヒーローも鈴音の好みから大きく外れていたからだ。

「単に、私の理解が付いて行かないだけだから」

 アルバイトの休憩時間に呼んでいた少年漫画も現代ものばかりだったのを思い出す。
 そもそも寝る間も惜しんで働いていたため、のめり込む時間がなかったことは阿澄が気に病むだろうから言いたくない。

「何にせよ家族でゲームの中の人になってしまったのは、スズねえだけのような気がするんだ。ゲームから乖離している部分に繋がるのは全部オーロラ絡みだけのようだしね」

「そうあって欲しいなあ」

 巻き込まれるのは自分一人で十分だ。

「ところでフェイ。エレクトラの中の人ってどう思う。知り合いだと思う? 例えば、心愛だとか」

 心愛そっくりのヒロイン。
 心愛と友人だった鈴音がそれに転生。
 今更彼女に関係しない世界だとは思えない。

「異世界転生ものの漫画にあるみたいに、生まれた瞬間から転生に気付いていたりとか、公爵令嬢として最高の淑女教育を受けていたとしても、あたしは絶対あのクソビッチが中の人じゃないと思う。この話の展開で考えたプロファイルだと、性格はまじめで几帳面な優等生タイプ。少し臆病で人の顔色をうかがうことに長け、自己肯定感が低く容姿などコンプレックスを抱えていた…って、ほらね。ぜんぜん違うでしょ」

 つらつらとフェイがあげる人格は長年友人だった心愛にそぐわない。
 心愛は、いつでも自分が好きできらきらとしていた。

「なんだかすごいね。私にはよく解らないけれど、どうして容姿にコンプレックスを抱えていたと思うの?」

「色々ルートあったのに、逆ハーにしちゃったところかな。承認欲求が爆発している状態というか。みんなに愛されたいというか、決められないと言うか。あたしなら好きな人はひとりが良い。ひとりと24時間365日くっついていたい」

「フェイ…」

 途中から突然大人な内容になってしまい、そろりとオーロラは周囲をうかがう。
 見回すと祖父を含めた魔道具師たちがうっすらと切ない表情をしているので、ゆっくりと首を振り、念を送った。

 みなさま、大丈夫ですよ。
 あなたがたのフェイはまだまだ八歳です。


「そうなると、これは備えが必要という事ではないでしょうか」

 魔道具師たちの中で最初に立ち直ったロルカがぽそりと口火を切った。

「なぜ?」

 物語を終えて、解放されたのではないのか。
 オーロラは困惑する。

「あの仕掛けとフェイ様の話から考えて、私は公女様がこのままオーロラ様を放置するとは思えません。今までは説明書を吟味して事を進めていたのに、それに書かれていない事態に突入したのです。例えば…」

「今の幸せをオーロラに奪われるのかもしれないと、心配のあまり暴走する可能性があるよね。というか、もう自然に死んでると思ったのが生きていたんだからさ」

「ああ…。そうだった…」

 フェイと同じく、あの環境を羨ましいとはこれっぽっちも思わないのだが、それをあえて言う機会はない。

「とりあえず、警備を強化しましょうか」

「ぜひ、お願いいたします。資金は遠慮なくおっしゃってください。蓄えはまだありますので」

 ロバートがすぐに応え、頭を下げる。

「この屋敷の地図をお願いします」

「はい。すぐにでも。リラ」

 指示されて、リラは別室へ走り、すぐに大きな紙の筒を持って戻ってきた。
 それをロルカが受け取り広げ、フェイたちは話し合いを始める。

「うん。こことこことここに結界型の録画と通報魔道具を置いて…」

 彼らはすぐに魔道具を用意することに決め、いったんギルドへ戻ることとなった。

「突然色々なことが降りかかって不安かと思いますが、どうか気を安らかにされてください、お嬢様。フェイ様の大切な御方である貴方様を、我々は必ずお守りできるよう手を尽くします」

 帰り支度を終えたロルカはローブの胸に手を当て、ふわりと安心させるように笑う。

 後に縛られた灰色の長い髪と知的な青い瞳。
 年齢は四十と言ったところだろうか。

 知的で行動力のある、ドストライクな男が目の前にいるだなんて、今度こそ運命なのでは。

「………………あの、ロルカさま」

「はい、何でしょう」

 頬をぽっと染めて、オーロラは尋ねた。

「奥様または恋人はおられますか?」

 ぴし、と部屋の空気が凍る。
 なぜかフェイまで石のように固まっていた。

「あの…。大変申し訳ないのですが…」

 口に拳を当てて、軽く咳払いをしたロルカは美しい左右対称の眉を下げる。

「私は、亡くなった恋人に身も心もを捧げておりますので…」

 またもや瞬殺。

「そ、そうですか…。すみません、ぶしつけで」

「いえ。こちらこそ、申し訳ありません」

 そこからどんな会話をしたかは覚えていない。
 深々と頭を下げて、ロルカと魔道具師たちは引きつった顔のまま異空間の向こうへ行ってしまった。

「お断りの定型文が…。この世界には存在するのか…」

 オーロラはぺたりとその場に崩れ落ち、慌てて駆け付けたナンシーとリラに寝室まで運ばれた。

 わずか数日で二連敗をくらってしまった。
 過酷すぎるだろう、今世も。


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