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最強の妹
しおりを挟むお腹が満たされたところで、オーロラの荒ぶる心もようやく落ち着いた。
和やかにお茶を飲みながら姉妹の会話を開始する。
「私が『聖女オーロラは愛を奏でる』の世界だって気が付いたのは、公女エレクトラの存在を知ってからかな。覚醒自体は早くて、小さいころから眠るたびに夢の中で前世の記憶を色々見ては、ここにはない食材が食べたいって言って、両親をかなり困らせてしまったのよね」
前世と違い、ミシェルとしての生はありがたいことに平和で幸せに過ごしている。
ライト夫妻及び親族たちは一人娘を溺愛し、不思議な食べ物を食べたいと泣く子どものために元々男爵家で領内経営の一環で軽く行っていた商会の仕事に本腰を入れ、食材部門を拡大させていった。
さらに前世の美兎は、高校生のころから地元のスーパーのアルバイトに入りそのまま正社員になったほど流通を知っている。
幼いころから商会に出入りして地道に商売を続けていくうちに、前世で言うならアジア系の国にまで取引が繋がっていき、希少な調味料も手に入るようになったのだ。
「まさか…。醤油っぽいものとか…あるってことかな?」
「ビンゴ。もっともそれを見つけてうちまで届いたのって、ここ数年よ。伝手の伝手を手繰って、使節団の手土産として運んでもらうくらいしかまだできていないから、もう、良質なルビー一個並みのお値段よ」
「うわ。そうくるかあ…」
オーロラはむむむと口をとがらせる。
「私の情報だと唐揚げ作っているって聞いたんだけど、その醤油をクランツ家へ売ったってことね?」
「ああ、公女が唐揚げで釣ったのは知ってるんだね。そうそう。二年前だったと思うけど、仲介三つくらい挟んで提供いたしましたとも」
「仲介、三つ? どうして?」
「まず、公女は私らと同世代であのゲームのファンだろうと思ったの。それも生まれた瞬間くらいから前世の記憶があるとも。なんせ王太子が死ななかったから」
「え? そんなにすぐわかったの?」
「異世界転生ものの鉄板だよ。『悪役令嬢に転生したと気づいたので、まずはざまあエンドにならないよう努力します』ってとこかな。最初は自分のみのバッドエンドの回避に奔走しているけれど、周囲と関わるうちに、身近な人の没落や死を回避したり、攻略対象のトラウマになりそうなエピソードをことごとく撤回するようになるのよね」
美兎はスマホでネット小説と漫画を読むのが好きだった。
たくさん読み込んでいたので、この世界への転生もすんなり受け入れられたらしい。
「そういうもんなんだ…」
「そう。まあ、それで公女の動きを商会のネットワークで軽く監視していたのだけど、転生者としてもどうやら自分の知り合いではない雰囲気だったから、なるべく関わらないことに決めたの」
しかし、ここにきて醤油を公爵家が探していると高位貴族専門の商会から話しが回ってきたため、いくつかの商会を間において、『たまたま手に入ったが使いこなせていない』風を装って提供した。
「ずいぶんな念の入れようだね。同じ転生者として会ってみたいとは思わなかったの? だって、美兎はそのゲーム大好きだったのでしょう」
この世界にたった一人しかいない同じ境遇の者だし、同じ趣味なら友達になれるのではと、期待するものではないかとオーロラが問うと、ミシェルは首を振る。
「だって、怖いじゃん。全ての攻略キャラのトラウマエピソード潰したせいでどんなにシナリオが崩壊していても、きっちり美味しい場面は押さえて、金と権力と好感度で確実にヒロインになり替わっていくような女。案外闇が深いと思う。敵に回したら一門が潰されちゃうよ」
「ああ…。そういうことか」
ミシェルは長い間悪役令嬢の動向を探ってきた。
それに大事なのは、今の家族だ。
こうなると、きちんと現状を報告すべきだろう。
「あのね。こっちは数日前に阿澄と再会しているんだけど」
「えええ? それを早く言ってよ!」
ごもっともである。
頬をぽりぽりとかきながらオーロラは謝罪した。
「ごめんね。失恋二連発が現世の阿澄の身内だったから、つい…」
「なに、たった何日かで二連発って、どんだけのんきな瞬間湯沸かし器なのよ、スズねえ」
「ええ…。その通りでございます…」
アルバイトに入るなり、あっという間にパートの皆々様を掌握して影の店長と呼ばれた美兎にはかなわない。
深く深く頭を下げて、つまびらかにすべてを告白した。
「なるほどね。ここまでくるとサイコパスじゃん。うわ、ほんとお近づきにならなくて良かった~」
ミシェルは寒気がしたのか己の両腕をぎゅっと抱きしめる。
「今のところ私が最年長か。芽瑠が年上だったらちょっと泣くね。でもアスねえが八歳で良かった…もし成人なんかしていたら、失恋メーカー二頭立てでクッソめんどくさいからね!」
「私と阿澄の失恋はニーズに合っていない状況だから仕方ないと思う…」
ズバズバと抉られつつも抗戦した。
二人ともその気になれない男性から好意を持たれることはあっても、自分が好きな人とは良くて友情しか育めない。
「うまくいかないのはやっぱり、『アレ』に恨みを持つ人々からの呪いかなあ。私は別に推しさえいれば十分だけどな」
前世で美兎はゲームから転じた舞台やミュージカル鑑賞にもにはまっていた。
芽瑠も一緒に楽しんでいて、美兎曰く、殺されて心残りと言えば一週間後に二人で行くはずだったゴールドチケット舞台の遠征旅行で、チケットも旅行のために用意した色々なものも、おそらく爆破されてしまっただろうというのが恨めしいのだそうだ。
「恨みというか…。さっきも言ったけれど、私が心愛と関わっていたせいでこうなったかもしれない。ごめんね」
「何言ってんの。あの女と縁が切れただけでも、この世界に転生できてよかったし、私はミシェルとしてすごく楽しく暮らしている。いいんだ、これで。後は、これからどうするかだよ」
「そこなんだよね…」
うーんと頭をひねった後、ミシェルに尋ねる。
「やっぱり会って話をするのってマズいと思う?」
こちらとしては貴方の人生の邪魔をする気はありませんよと言いたい。
「うん。衰弱死させようとするくらいだよ。今頃刺客の手配をしている可能性大じゃん」
相手は、どうしてもホラーかサスペンス劇場をお望みなのだろうか…。
額に手を当ててしばらく考えたのち、思いつくことだけを言うことにした。
「とりあえず、魔道具師ギルドに連絡しておく。だから、美兎…いや、ミシェルはもうこの屋敷に来ては駄目。今日もこの後、裏口から帰ってくれるかな」
巻き込むことだけは、避けなければ。
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