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アメリカンドッグでパジャマパーティ
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「いやー。なに、この背徳感。たまんないわ~」
フェイががぶがぶと串に刺さったきつね色の塊にかぶりつく。
ぷうんと肉の匂いとケチャップ、そして仄かなバニラエッセンスの香りがまじりあう。
ただ今フェイが貪り食っているのは、串に刺したウインナーにホットケーキの衣をまとわせ揚げた、まごうかたなきアメリカンドッグである。
ちなみにソーセージは鶏肉と豚肉のあいびきで少し滑らかな口当たり、衣は少し甘さ控えめ、ケチャップにはチャツネと粒マスタードのアクセントをきかせてみた。
「この時間にこの格好でこれを食べるのってほんっとにね…」
「まあ、スズねえは職業柄あり得ないか。夜中にこんな高カロリー」
一本目をあっという間に平らげたフェイが二本目に手を伸ばしているのを横目に、ミシェルとオーロラはそれぞれのペースで食した。
今は夜の十時。
場所はオーロラの大きなベッドの上。
そして三人が胡坐をかいて囲む銀の大きな盆の上には、番茶のセットと皿に綺麗に積み上げられたホカホカのアメリカンドッグとポテトチップス、そしてカットした果物少々が鎮座している。
一応それぞれの膝の上には大判のナプキンを敷いてはいるが、全員寝間着姿。
この世界の女性が着るネグリジェタイプではなく、ゆったりとした木綿のシャツとゆるいズボン。
そう。
三姉妹パジャマパーティーの開催である。
ちなみに、アメリカンドッグとポテトチップスの製作提供はもちろんオーロラで、番茶およびパジャマを縫製して持ち込んだのはミシェル。
末っ子ポジションのフェイはもてなされる係と決まっている。
「でも、むこうで作っていたから出来るんだよな、これが」
一本目を食べ終えたオーロラはカップになみなみと注いだ番茶を一口飲んでほうとため息をついた。
「何を? アメリカンドッグを? それともホットケーキ?」
「両方」
答えながら、オーロラは手を伸ばしてフェイのほっぺたについたケチャップを指で拭ってやる。
「意外なものがないのよヨーロッパ。ホットケーキミックスが日本特有ってあっちに行ってから知ったし、類似品使ってみてもコレジャナイ感強いしね。米味噌醤油は銘柄にこだわらなければ街で手に入るけど、あの白い粉はほんっと盲点だった…」
仕方ないのでネットで検索して自力で作り始めた。
やればできるものである。
この世界にもベーキングパウダーがあったおかげで、今宵華々しくアメリカンドッグが爆誕した。
「私の顔、明らかに欧米人の想像するアジア女性の顔と身体だったからね。モデルとして稼げるから拠点はあっちにしたものの、生活習慣も言語も違うから色々ストレスたまるわけよ。早くじっちゃん家で田んぼやりてえなって思うと、なんか日本ならではのものが食べたくなったりさ」
あぶく銭が入ったので、鈴音は一年前にようやくロンドンのアパートのバスルームとトイレを改造した。
浴槽とシャワースペースを分離させ、ウォッシュレットを装着してようやく快適な生活が送れるようになったというのに。
それを思い出して少しイラっとする。
この世界に転生することになった全ての原因たちに。
一部はどこのどいつか知らねえが、お前らただじゃおかねえとウインナーを咀嚼しながら心に誓う。
「アメリカンドッグはうちらのソウルフードだもんねえ」
「そうそう。あのおじさん、まだあの市民プール前で売ってるかな?」
三姉妹が思い浮かべるのは前世で通った市民プールの前の空き地に停車していたアメリカンドッグのワゴンだ。
「あの頃が一番安定していたよね、私たちの生活…」
鈴音の八つ下の弟が生まれる前後一年ちょっとの間、母親は飛田という格闘家と結婚していた。
彼は鈴音たちの知る限り歴代の男たちの中で一番誠実で堅実な男だった。
良き夫、善き父親で、生まれてきた城生(ジョウ)の子育てはもちろん鈴音たちの面倒もよく見てくれて、子供向けの軽い筋トレや護身術を教えてくれたり、乳飲み子の弟をトレーニングジムのオーナーの奥さんに預けてプールにつれていってくれたりした。
泳ぎ終えた帰りにはお腹が空いただろうとアメリカンドッグをひとり一本ずつ買ってくれ、それは格別な美味しさだった。
渡されたその場でふっくら膨れたきつね色のアメリカンドッグにかぶりついて、ケチャップが顔や服についても笑って拭ってくれた。
そんな宝石のような日々がすぐに破綻したのはもちろん、安定した生活と優し過ぎる飛田に飽きた母が別の男との間に宇宙(そら)を作ったからだ。
「飛田のおじさん、元気かなあ。城生と一緒に焼香に来てくれたんだよ」
「そうそう。こっそりじっちゃんのとこに来てくれたんだけど、あまりにも二人の身体と顔が良すぎてさ。集落は大騒ぎよ」
妹たちの言葉に鈴音はくっと息を飲む。
飛田は離婚が決まった当初鈴音たちも引き取ろうとしたが、母の新しい男の嫌がらせが入り、城生だけを連れて出ていった。
のちに海外で格闘技を教えて生計を立てるようになり、彼らがロンドンに落ち着いたころにちょうど鈴音も拠点を移した。
一時期は同居して色々教わった上に家族めいた暮らしを経験させてもらえたおかげで、鈴音はモデルとして生きていけた。
若い父のような年の離れた兄のような飛田と、やんちゃでかわいい弟。
もう会えないのだなと思うと、鼻の奥がつんと痛くなった。
フェイががぶがぶと串に刺さったきつね色の塊にかぶりつく。
ぷうんと肉の匂いとケチャップ、そして仄かなバニラエッセンスの香りがまじりあう。
ただ今フェイが貪り食っているのは、串に刺したウインナーにホットケーキの衣をまとわせ揚げた、まごうかたなきアメリカンドッグである。
ちなみにソーセージは鶏肉と豚肉のあいびきで少し滑らかな口当たり、衣は少し甘さ控えめ、ケチャップにはチャツネと粒マスタードのアクセントをきかせてみた。
「この時間にこの格好でこれを食べるのってほんっとにね…」
「まあ、スズねえは職業柄あり得ないか。夜中にこんな高カロリー」
一本目をあっという間に平らげたフェイが二本目に手を伸ばしているのを横目に、ミシェルとオーロラはそれぞれのペースで食した。
今は夜の十時。
場所はオーロラの大きなベッドの上。
そして三人が胡坐をかいて囲む銀の大きな盆の上には、番茶のセットと皿に綺麗に積み上げられたホカホカのアメリカンドッグとポテトチップス、そしてカットした果物少々が鎮座している。
一応それぞれの膝の上には大判のナプキンを敷いてはいるが、全員寝間着姿。
この世界の女性が着るネグリジェタイプではなく、ゆったりとした木綿のシャツとゆるいズボン。
そう。
三姉妹パジャマパーティーの開催である。
ちなみに、アメリカンドッグとポテトチップスの製作提供はもちろんオーロラで、番茶およびパジャマを縫製して持ち込んだのはミシェル。
末っ子ポジションのフェイはもてなされる係と決まっている。
「でも、むこうで作っていたから出来るんだよな、これが」
一本目を食べ終えたオーロラはカップになみなみと注いだ番茶を一口飲んでほうとため息をついた。
「何を? アメリカンドッグを? それともホットケーキ?」
「両方」
答えながら、オーロラは手を伸ばしてフェイのほっぺたについたケチャップを指で拭ってやる。
「意外なものがないのよヨーロッパ。ホットケーキミックスが日本特有ってあっちに行ってから知ったし、類似品使ってみてもコレジャナイ感強いしね。米味噌醤油は銘柄にこだわらなければ街で手に入るけど、あの白い粉はほんっと盲点だった…」
仕方ないのでネットで検索して自力で作り始めた。
やればできるものである。
この世界にもベーキングパウダーがあったおかげで、今宵華々しくアメリカンドッグが爆誕した。
「私の顔、明らかに欧米人の想像するアジア女性の顔と身体だったからね。モデルとして稼げるから拠点はあっちにしたものの、生活習慣も言語も違うから色々ストレスたまるわけよ。早くじっちゃん家で田んぼやりてえなって思うと、なんか日本ならではのものが食べたくなったりさ」
あぶく銭が入ったので、鈴音は一年前にようやくロンドンのアパートのバスルームとトイレを改造した。
浴槽とシャワースペースを分離させ、ウォッシュレットを装着してようやく快適な生活が送れるようになったというのに。
それを思い出して少しイラっとする。
この世界に転生することになった全ての原因たちに。
一部はどこのどいつか知らねえが、お前らただじゃおかねえとウインナーを咀嚼しながら心に誓う。
「アメリカンドッグはうちらのソウルフードだもんねえ」
「そうそう。あのおじさん、まだあの市民プール前で売ってるかな?」
三姉妹が思い浮かべるのは前世で通った市民プールの前の空き地に停車していたアメリカンドッグのワゴンだ。
「あの頃が一番安定していたよね、私たちの生活…」
鈴音の八つ下の弟が生まれる前後一年ちょっとの間、母親は飛田という格闘家と結婚していた。
彼は鈴音たちの知る限り歴代の男たちの中で一番誠実で堅実な男だった。
良き夫、善き父親で、生まれてきた城生(ジョウ)の子育てはもちろん鈴音たちの面倒もよく見てくれて、子供向けの軽い筋トレや護身術を教えてくれたり、乳飲み子の弟をトレーニングジムのオーナーの奥さんに預けてプールにつれていってくれたりした。
泳ぎ終えた帰りにはお腹が空いただろうとアメリカンドッグをひとり一本ずつ買ってくれ、それは格別な美味しさだった。
渡されたその場でふっくら膨れたきつね色のアメリカンドッグにかぶりついて、ケチャップが顔や服についても笑って拭ってくれた。
そんな宝石のような日々がすぐに破綻したのはもちろん、安定した生活と優し過ぎる飛田に飽きた母が別の男との間に宇宙(そら)を作ったからだ。
「飛田のおじさん、元気かなあ。城生と一緒に焼香に来てくれたんだよ」
「そうそう。こっそりじっちゃんのとこに来てくれたんだけど、あまりにも二人の身体と顔が良すぎてさ。集落は大騒ぎよ」
妹たちの言葉に鈴音はくっと息を飲む。
飛田は離婚が決まった当初鈴音たちも引き取ろうとしたが、母の新しい男の嫌がらせが入り、城生だけを連れて出ていった。
のちに海外で格闘技を教えて生計を立てるようになり、彼らがロンドンに落ち着いたころにちょうど鈴音も拠点を移した。
一時期は同居して色々教わった上に家族めいた暮らしを経験させてもらえたおかげで、鈴音はモデルとして生きていけた。
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