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くっついちゃえよ(滝川視点)
しおりを挟む久しぶりに見た日下万衣子は、まったく変わらなかった。
大貝たちの結婚披露宴は二人とも実家が太いせいで大規模なものとなり、そんななかサークル絡みの出席者の席が意外と多く用意されていて、男性のみのテーブルに滝川が、女性のみのテーブルに万衣子が座る。
卒業後サークルとは疎遠になっていた滝川が招待客として招かれたのは、数年前に新郎と仕事で再会したおかげだったが、万衣子はずっとサークルのOBたちと親しくしていたらしく、相変わらずゴージャスな美女ばかり揃ったテーブルの中をちょこんと紛れている姿は相変わらずリスかハムスターのようで、逆に滝川の目をひいた。
先輩たちと談笑しながら一皿一皿美味しそうに食べている。
最前列に政治家や有名人がずらりと座した有名ホテルの絢爛豪華な会場で、そして同じテーブルの先輩たちはみな高級なスーツを着こなし、成功者の余裕と貫録を見せていた。
逆にある意味、滝川と万衣子は異分子だ。
平々凡々な、一般人。
雰囲気にのまれて気後れしていた滝川は万衣子を眺めるたびにほっと力が抜けた。
思えば、サークルで万衣子を見かけるのは何かを食べに行くイベントの時がほとんどだった。
B級グルメ食べ歩き、山奥の山菜家庭料理を目指すドライブ、昔ながらの町中華などどんな時も美味しそうに食べていたのを思い出す。
『日下ちゃんと滝川さあ。彼氏彼女いないいないんだったら、くっついちゃえよ』
元から少しノリの軽い先輩がワイン片手に二次会で唆してきた。
二次会となると無礼講でかなりくだけた雰囲気になり、突っ込んだ話も交わされる。
『二人とも、今もすごーく真面目そうだから、そんなとこがきっとお似合いだよ☆』
半分余興にされていると、わかっていた。
だけど、それに乗っかるのも悪くない。
同期が次々と社内恋愛でくっついていくなか、男ばかりの部署に配属されていた滝川はなかなか縁がなく、たまに少し親しい雰囲気になったとしても深い仲にならないまま終わった。
実は学生時代も恋人と言える女性はいなかった。
気づけば三十は目前なのに恋愛の一つも経験していないことを思うとじわりと暗い気分になる。
実家に帰るたびに親は結婚をせかして孫を望み、仕事場も古い感覚の上司たちは『男は結婚して一人前』と言いはなつ。
実際、滝川は同期たちより昇進が遅れていた。
先に役職が付いたのはみな既婚者ばかりだった。
結婚すれば、自分も上に上がれるのか。
世間的に認められるのか。
壁にぶち当たった滝川の前に万衣子が現れたのは、神の采配かもしれないと思ってしまった。
その先輩に促されて滝川と万衣子は連絡先の交換をし、帰宅してからショートメールを送った。
『神楽坂に知る人ぞ知るな感じの台湾料理知っているんだけど、行く?』
ものすごく緊張しながら、送ったメールは翌朝返ってきて。
『行きます』
そこから週末や仕事帰りに待ち合わせて会うようになって、色々なものを一緒に食べた。
『なあ、おれたち結婚しないか』
再会から三か月経たずに結婚へ話が進んだ。
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