虐げられていた騎士令嬢は想い人とのワンナイトで人生を変える

月下 雪華

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第1章 縛られた自由

1-3 与えられる命令

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「え……?私たちがけっこん、ですか?」
 私の口は驚愕から、開けたまま固まってしまった。今、団長は私に結婚、アルディスと結婚しろと仰ったのよね。私が、この隣にいるアルディスと?

「まぁ、君たちはそのような反応になるよな。こちら都合の不本意なお願いなのは分かっているんだ。あまり相性の良くない君たちにこのようなお願いを頼むことになり申し訳ない。だが、シルファをハートフィールド国から来る次期王子妃が直々に是非彼女の護衛にと望まれてていてな。高位貴族の関係者となってもらわなければ近くに侍る時に面倒臭い色々が絡まってくるのだ。頼まれてくれ」
 そう伝える団長は甲冑の奥から申し訳ないという感情が漏れ出していた。
 私にはさらに動揺が走った。さっきから団長はなんて?

「え、な、何故?私の命が姫直々なのですか?それにアルディスが高位貴族出身?」
 
「ん?まず、それを君は知らなかったのか。アーヴリル様は以前学戸を共にし、今でも文通する関係のシルファに護衛をお願いしたいと言っていてな。それにアルディスはルードリア公爵家の次男で、アルディス以外未婚で婚約者のいない高位の男がいないんだ。今回選ばれたんだ」

「な、なんですって?」
 知らない驚愕の事実が矢継ぎ早に与えられ、パニックになった頭は思考を一度停止した。
 アルディスが高位貴族出身であったこと、先程彼と結婚する命が下ったこと、唯一の友人であったアーヴリルが他国の姫で婚姻を機にこの国に越してくること、全部本当なのだろうかと疑いたくなる。
 一応でも貴族令嬢であったとはいえ身の回りのこと位は知っていると少なからず信じていた気持ちが揺らいでいく。


 これ以降、私自身が部屋の外に佇むまでの記憶は無い。


  廊下の壁にに寄りかかって呆然とする私をアルディスが見つめていた。
 ひんやりと冷たい壁が私の逸る頭を冷やす。
「団長の言うことは大抵正しい。団員なら全員分かってることだろ。俺らみたいな王族付きの騎士からシルファみたいな街の護衛騎士までな」
「で、でも、団長の言ったことだとしても、どうしてこんなことになっているの……おかしいわ」
 団長という人は決定に関わる何もかもを計算した後、他者に分かるよう決定を下す。その計算は私達には分からない所まで踏まえていて、その決定に失敗などそうないことなのは明白だった。
 ただこんな突拍子もないことを言われるだけでここまで不安になるとは思わなかった。

「そんなこと言ってもまぁ、全部言われた通りだろ。俺は平民の振りをした高位貴族で、お前の友達は他国の姫だったんだよ。偶然に偶然が重なった奇跡みたいなもんだ」
「そ、そんなことが……」
「まぁ、俺はお前からは純潔を奪っているし、責任を取るみたいなものだろう」
「っ……」 
 混乱している今、アルディスにあの日のこと、持ち出されるとは思っておらず更に焦る。私は自分が嬉しいと思うと同時に彼が持ち出すあの日を恥じている。私の無様な裸体を晒し、自己の夢に付き合わせた、利益が好きでもない人との夜と彼に得が少なかったあの夜を。

「俺が嫡男で無かったとはいえ実家が高位貴族なんだ、シルファの籍がまだあるのに自分の利益に繋げられなかったシルファの父さんは歯噛みするしかないだろ。あいつらにはこっちに擦り寄られても困るから脅しはかけておくがな」
「……ごめんなさい」
 不意に零れた謝罪は泣きそうな声だった。

「あ?」
「アルディスは好きな人と結婚したかったわよね。私なんかと結婚することになってしまって……」
「何、殊勝なこと言ってんだ。お前らしくない」
「でも、」
「無理せず前みたいにいろよ、突っかかってこい。俺はそっちの方がいいと思う」
 混乱を続ける頭はふいに現れたアルディスの微笑みによろめいた。そして、気づく。今は受け入れられなくてもゆっくり気づいていけばいい、と。アルディスのことも、アーヴリルのことも、父のことも、受け入れる内容に対する混乱は今するものでもないだろう、と。

「……分かったわ」
「それより、俺が貴族なのはいいのか」
「私、貴族自体が嫌いというよりあの家が嫌いなだけなのよ。だから、結婚しても騎士を続けられるなら私にとってこれ以上はないわ」
「ならいい」
「じゃあ、あの、よろしくね?アルディス」
「ああ」

 そして、私たちはそれぞれの仕事に戻った。

 今後のことはまだ私の知ることではなく。
 
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