こんな仕打ち許せるわけありません。死に戻り令嬢は婚約破棄を所望する

はなまる

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11彼の態度が違う

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 「それで?」

 シュナウト殿下が白い歯を見せてこちらに向かってくる。

 私はその凶暴ともいえる美し過ぎる面立ちに「ひっ!」と声を上げる。

 「おい、何も取って食おうなんて思ってないぞ。ほら、執務やるんだろ」

 彼は今私が取り分けた書類を手に取る。

 「これは…なんだパーティーの招待状か。こっちは学園の創立…」

 「殿下そちらは特に急ぎではありません。出席する者は出席すると返事を出しますししないのであればお断りしますので、こちらが今日やって頂きたい書類です」

 私は気持ちを切り替えてさっきの決裁書などを手渡す。商店街の陳情書は一番最後に見せようと思っている。

 彼は執務机の椅子に座るとその書類を手に取った。

 「どれどれ…収支報告書か…」

 なにやら真面目に書類に目を通している。

 「よし!」そう言うとサインを書いて次の書類を見始めた。

 「へぇ、こんな事書類で回すのか…こういうのはもっと簡素化するべきだな。仕事が増える一方だろうし…」ぶつぶつ言いながらもサインを書いていく。

 (あの‥シュナウト殿下、なんだかおかしくありませんか?今までの殿下では考えられないような態度とそれに真面目に仕事をしているなんて信じれないんですけど…)


 「あれ?これだけか?」

 私は10枚ほどあった書類がもうなくなっている事に気づく。

 「もう終わったんですか?では、これを」

 商店街の陳情書を手渡す。

 「うん?品薄に物価高?」

 「はい、実は結界の弱まっているところがあって魔物が発生したらしく作物に被害が出たり物資の輸送に遅れが生じた模様でして」

 (しまった。私ったら余計なことを…まっ、こんな事言ってもわかるわけないだろうけど…)

 「結界が弱まるとはなんだ?」

 「はっ?我が国の国境には結界が張り巡らされてますよね?知ってますよね?学園でも習いましたよね?」

 「罰、知ってるに決まってるだろう。だからその結界はどうやって?」

 「結界は魔力を持った聖女が張るんです。そもそも弱まったところを聖女が補修しているらしいですが、このところ王都で流行り病があって結界の方に人員が割けなかったのではないかと思われます。それに、魔物を退治するにも聖女の同行が必要でしょうし…」

 そう、王都で流行り病があってそのせいで聖女様は忙しかったはずなのだ。

 「なるほど」

 (あっ、もう。殿下。そこは感心している場合じゃなくて…ほら…)

 「魔力があればいいなら俺では無理か?なぁリンローズ」

 「へっ?今なんて?」

 「だから俺に何か手伝えないかと聞いたんだ」

 「ええ、それは殿下ほどの魔力があれば…でも殿下、うまく使いこなせないんですよね?魔力」

 「ぐっ。痛い所つくんだな。それは…ほらお前が一緒に行けば問題ないだろう。まあ、魔力を使う分には何も問題はないと思うけど。それにリンローズは聖女の資格もあるんだろう?結界も張れるし魔物の退治も出来る。なっ、一石二鳥ってやつだ」

 シュナウト殿下はにっこり微笑んだ。

 「ほんとに?殿下熱でもあるんじゃ?」

 「そんなわけあるか!そうと決まればすぐに出発だ」

 「そんな、いくらなんでもまず神殿と騎士隊に問い合わせてみないと無理ですよ」

 「そうか。そうだな。ロンドスキーにも話さないとな」

 「ええ、そうですね。私、後で神殿に問い合わせてみます」

 (これは夢か?こんなことを殿下が言うとは…何かおかしい気が…)



 そこに扉が開いてアシュリーが入って来た。

 「シュナウトったら。もう、どこにいるかと探したじゃない。10時に来るって言ったでしょ。なのに部屋にいないんだもん。寂しかったわぁぁ」

 そう言うとシュナウトに抱きつこうとしたがシュナウトはそれをすっと避けた。

 「今日は執務の引継ぎがあると言ったはずだろう。アシュリーこれは仕事だ。それにここには来るなと言ったはずだよな。とにかく今忙しいんだ。それにしばらくは会えないかも知れない。俺は国境に行く事になると思う。だからもう、帰れ。いいな」

 「えぇぇぇぇ。ひどいぃ。そうだ。シュナウト。これ。昨日渡すつもりだったのを忘れてたの。疲れを取るハーブが入ってるの。少し匂いがあるけど我慢して飲んでよ。さあ、ほら」

 アシュリーは小瓶を取り出すとシュナウトの口元にそれを近づけた。

 「ああ、後で飲む。いいからアシュリーもう今日は帰れ。いいな。ラドール。アシュリーを」

 いつの間にラドール様が?気づかなかった。


 「はい、殿下。すぐに。アシュリー嬢。そう言う事ですので今日はお引き取りを」

 「やだ!ちょっと待ってよ。どういう事?もしかして義理姉様何かしたの?」

 アシュリーの機嫌は一気に悪くなったらしく私を睨みつける。

 「おい、リンローズは俺とお前の為に引継ぎをしてるって忘れたのか?ったく、そんな事もわからないのかお前は…いいから早く帰るんだ」

 睨んだアシュリーに輪をかけるようにシュナウトがアシュリーを睨んだ。

 「わかったわよ。ねぇシュナウト機嫌直してよ。後でそれ飲んでね。じゃあ私帰るから連絡ちょうだいね」

 「ああ、でもしばらく忙しいから会えないぞ。わかったら機嫌なおせ。これは俺達のとって必要な事だ。わかってるだろう?」

 シュナウト殿下も言い過ぎたと思ったらしくアシュリーに近づくと彼女の髪を撫ぜてそっと髪にキスをした。

 アシュリーはすっかり機嫌を直して帰って行った。


 私はシュナウトの心が全く分からなくなった。

 私との婚約は解消できないと言いながらもアシュリーともうまくやっていたい。

 これってどういう事?ばかにしてるわ!

 まあ、そんな事どうでもいい。早く婚約を解消したい。父がうまくやってくれることを祈るしかない。


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