こんな仕打ち許せるわけありません。死に戻り令嬢は婚約破棄を所望する

はなまる

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12シュナウト死に戻って

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 俺は今猛烈に腹を立てていた。

 俺はリンローズに毒を飲まされて死んだ。

 なのに、なぜかあの時から半年前に戻っていた。

 自室のベッドで目が覚めて驚いた。

 俺、生きてるのか?どうして?訳も分からず毒を飲まされた時の事を思い出した。

 苦しい息の下でリンローズは慌てていた。苦しむ俺のそばで背中をさすったり大声で人を呼んだりしてすごく俺を心配していた。

 毒を盛ったくせに?

 俺が死ねばいいんだろう?

 どうせ俺みたいなくずなんかが生きていたってどうなるものでもないんだし…

 そうだ。なぜかあの時リンローズを憎いと思わなかった。俺はもうどうでもいい楽になれるならいいとさえ思った。

 俺なんか生まれて来たことが間違いだったんだと思っていたから。


 *~*~*


 俺は10歳の時魔力暴走を起こしてそれがきっかけで国王の子供だった事がわかった。

 孤児院に煌びやかな服を着た貴族がやって来て王宮に連れて行かれた。

 謁見の間とか言う部屋に連れて行かれる。

 でぶったおっさんが真っ白い毛皮のマントをつけてその中には素晴らしく光沢のある服を着て台座の上の宝石が散りばめてある玉座に座っていた。

 そのおっさんは立ちあがると俺の所まで来て俺の顎をぐっとつかんで顔を上げさせた。

 「小汚い小僧が…これが王の子なのか?本当に?」

 隣にはかしこまった服を着た男がいて「間違いありません。王家の紋章の指輪を持っていましたし、その頃の事を知っている証人も何人も確認しております。これがその指輪です」

 恭しくそれを差し出した。

 「それは俺の指輪だ。母さんの形見なんだからな、返せよ!」

 俺はぶっきらぼうな言葉でそう言った。


 母メリルは平民だったが、王都の劇場で歌を歌う芸人だった。美しい顔と均整の取れた体形で男には人気があったらしい。

 妊娠して仕事をやめてからは劇場の裏方の仕事に回されたけど、俺を可愛がってくれたしよく歌を歌ってくれた。

 そんな母は俺が6歳の頃に病になってあっけなく死んだ。それから俺は孤児院に引き取られて今は国王の子だとか言われてここにいる。

 まあ、ここなら食事にもあぶれることもないし、上の子にからかわれて殴られたりすることもない。だったらこのままここにいるのもいいかもな。

 俺は反抗的な態度を取りながらもそんな事を思った。

 「控えろ!この方は国王代理。とっても偉い方なんだ。そんな言葉を吐くんじゃない!」

 そう言ったのはそばにいた護衛騎士。

 騎士はかっこよかった。どうせなら俺も騎士がいいと思っていた。


 それから王宮に部屋が与えられ貴族のマナーだと教育だとか、色々うるさい教師が毎日朝から晩まで俺に勉強をさせられた。

 息が詰まりそうな空間でこんな所出て行ってやると思ったが、しばらくして1週間に一度魔力暴走を抑えるために俺のところに女の子が来てくれるようになった。

 名前はリンローズ。ホワイトゴールドの髪がすごくきれいで瞳は紫色。

 その瞳はすごくきれいで俺は吸い込まれそうな気持になっていつもまともに顔を見ることが出来なかった。

 女の子に魔力の制御なんかしてもらうのも嫌だった。

 俺は男だ。孤児院でだって女の子なんかに負けたりしなかったって言うのに。

 自分が弱くなった気がして嫌な気分だった。でも、リンローズが魔力制御をしてくれるとすごく体が楽になって、それに彼女に会えると思うとうれしくなるようになった。

 (考えてみれば俺は初めてリンローズを見た時に好きになってたんだろうか)

 婚約者になってからも、俺はいつも偉そうにしてありがとうの一つも言えなかった。

 恥ずかしいのと優しい事でも言うとやっぱり弱みを見せるみたいで言えなかった。


 それと同時に、あの男。国王代理のロンドスキーの奴に毎日毎日嫌なことを言われるようになった。

 「いいか。お前はどんなに頑張っても元は平民の子供。王の血を引いているからって思いあがるなよ。次期億王にはもうドーナン殿下がいらっしゃるんだ。お前はな。王家の恥さらし。王宮の中で生きていくことは許すが余計なことは何もするなよ。いいか。お前が何かすれば王家の恥になるんだ。お前は身分の一番低いいわば底辺の人間なんだからな。とにかく私の言う事だけを聞いていれば住まうところと食べる事少しばかりの小遣いは与えてやる。わかったか?」

 そんな事言われなくたって知っている。でも、お前たちが無理やりここに連れて来たんだ。

 反抗して返事なんかしたくなかった。

 「……」

 「おい!返事は?」

 でも、返事をしないと一緒にいた護衛騎士に殴られたり蹴られた。痣が付いても誰も見て見ぬふりだった。

 俺はとうとう力に屈した。その方が楽だったから。

 「わかりました」

 まだ10歳の俺に出来る事はなかったと思う。

 孤児院に帰ってもきっとすぐに連れ戻されるだろう。どこかに逃げようが絶対に見つけ出すとも脅された。

 そうやって毎日脅され殴られるうちに俺は次第に何もかも諦めるようになった。

 面白おかしく生きれるんだ。それでいいじゃないかって思うようになった。


 学園に入ってもやる気のない生活を送っていた。俺は側近と言われる令息たちとばかをやったり身分の低い令嬢たちと遊ぶようにもなった。

 ラドールはその時の側近の一人だった。彼は他の奴とは違って真面目だった。

 あの頃の俺の心は空っぽだった。ただ面白おかしく過ごしているだけの生活は何だか空しかった。

 ただリンローズとの時間だけは俺の癒しの時間だった。

 俺の婚約者。リンローズはずっと俺のそばにいてくれる。そう思うとなぜか心が落ち着いたものだった。

 好き勝手なことをしているくせにだ。俺は勝手だな。これで良く婚約者だって言えるもんだ。

 だが、3年生になってアシュリーと出会った。

 彼女は子犬みたいに俺にすり寄って来た。誰かに頼られた事がなかった俺は甘えて来るアシュリーが可愛いと思った。

 それからアシュリーとはよく一緒にいるようになったと思う。

 俺が学園を卒業するとアシュリーは王宮にまでやって来て俺にあの疲労回復薬を飲ませるようになった。

 それからアシュリーに対する思いが異常になった気がする。

 あの薬何だかおかしいんだ。あれを飲むと猛烈にアシュリーが恋しいって言うか求めてしまうと言うか…自分でも訳が分からなくなって。

 正直なぜか俺は苦しかった。

 婚約者で俺をいつも慕ってくれるリンローズに対する気持ちとアシュリーに対する気持ちのギャップで何だかもうどうでもいい感じがしていた。

 それにアシュリーがリンローズと婚約を解消して欲しいと言っていたのでそれもいいとさえ思っていた。

 実際リンローズとの婚約の理由は国王代理ブルトの孫だからって言うのが大きかったんだし。

 いつもあいつの顔色ばかり伺って来たけどもうそろそろ限界なんだよな。

 まっ、リンローズには悪いけど、俺の側妃にして専属の治癒士としてそばに置けばいいだけの事。コリー侯爵家との縁組の体裁が整えば文句も言われることもないのではとさえ思っていた。

 酷い奴だな俺は。

 だからリンローズが毒を盛っても俺は怒りをあんまり感じなかったんだろうか。


 昨日気づいたんだがリンローズに魔力制御をしてもらうとすっとあの気持ちがなくなった。頭の中がはっきりするみたいな。

 そうするとあれ?俺ってアシュリーの事本当に好きなのかと疑問を感じる俺がいたんだ。

 やっぱり何だかおかしいだろう?

 これからはアシュリーが持って来るあの薬飲まない方がいい気がした。

 って言うか学園にいた時はアシュリーが可愛いなんて思った事もあったけど最近煩わしいんだよな。

 はっきり言って今なんかもう勘弁しろよって感じ。

 あの態度や言葉使いもなんかわざとらしいしな。そう思うと最初から計算ずくだったのかとも思えるんだよな。

 それに比べてリンローズの健気さと言ったら…いや待て。リンローズは俺と婚約を解消すると言って。

 俺は慌ててそれを出来ないと言った。どうして?散々泣かしたくせに?

 でも、リンローズ。俺を殺したじゃないか。だからもう一度チャンスをくれないか?

 何だかそんな気持ちなんだ。

 俺、今までずっとやる気のない人生を送って来た。だからもう一度きちんと考えたいんだ。

 真剣にリンローズとの事。

 

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