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42-2騎士隊が到着
しおりを挟むそばにいた騎士隊長のホクス・ロンドスキーと思われる。
顔が会う。わかったのは彼の着ている隊服がみんなと違うからだ。
彼は30歳過ぎで確か独身。柔らかな茶色の髪で翡翠色の瞳をして見事な体躯。そして私の叔父でもある。
「あなたが聖女様か?」と声を掛けられて少し緊張する。
「はい、騎士隊長」
「シュナウト殿下がお怪我をされたと聞いた。無事か?」
「はい、まだ少し朦朧とされてはいますが傷の方は治癒魔法で回復しておりますのでご心配はないかと」
「そうか。あなたもご苦労だった。それに殿下の婚約者と聞いているが」
「はい、一応‥」
「さぞ、ご心配だな」
「ありがとうございます。皆さまお疲れでしょう。今夜はゆっくりお休みください」
「はい、明日からは魔物討伐と結界の修復。忙しくなりそうだが、リンローズと呼んでも?」
いきなり騎士隊長の顔がほころぶ。
えっ?いきなりどうしたの?
何だか威圧的な人だと思った。でも、よく考えればこの人は私の叔父様にもあたる人なのだし。
ロンドスキー家には小さい頃は家にも言った記憶があるが殿下の婚約者になってからはほとんど付き合いがなかった。
「そんなにかしこまらないでくれ。リンローズは俺の姪になるんだ。もっと気楽で接してくれればいいぞ」
「はい、あの私は何とお呼びすれば?」
「叔父さんでも。ホクスとでも。しかし大きくなったな。最後に見たのは7~8歳の頃だったか?姉上はリンローズをシュナウト殿下を支える王妃にするつもりだったからそれはもう必死でな。そのせいでリンローズに厳しかったんじゃないのか?」
「いえ、私はそんな事は思いませんでした。シュナウト殿下のお役に立つことが私の使命だとお母様には何度も言われていましたし‥‥」
ああ、そうだった。私はシュナウトの為に全身全霊でこの身を捧げていた。それなのにあの仕打ち。例え媚薬を盛られたとしても媚薬が2年間ずっと聞いていたわけではないはず。
シュナウト殿下に魔力制御に会いに行っても冷たかった。優しい言葉一つかけてはもらわなかった。
もう、私ったらちょっとシュナウト殿下が優しくなったからって!!今まで受けた仕打ちを忘れるなんて…ばか!
絶対婚約は解消よ。断罪以前の問題よ!
私は頭を垂れて唇を噛みしめる。
その顎にそっと手が乗る。ゆっくり顔を上げられると瞳に溜まっていた涙が零れ落ちた。
泣くつもりなんか‥
ホクス隊長の指先が流れた涙の後を辿る。ごつごつした騎士の手は骨ばっていて決して柔らかではない。
でも、その何気ない仕草ひとつに優しさが詰まっていると感じる。
顔を覗き込むように身をかがめられてはっと彼を見上げる。
「辛かったな。殿下の噂はあちこちから聞こえている。あんな奴が次期国王など。俺は絶対に認めるつもりはない。もし嫌ならリンローズ。婚約は私が父上に掛け合ってでも解消させる。どうだ?」
「い、いきなり何を?」
私の心が読めたのかとぎくっとなる。
ホクス様は短髪の髪をㇰシャリとかき回した。
「いや、すまんいきなり。今すぐでなくていい。そう言う方法もあると言いたかっただけだ。いいんだ。それより疲れてないか?」
「それは叔父様の方です。長旅お疲れさまでした。あっ、そうだ」
私はとっさに回復魔法を繰り出す。
手のひらをホクス様に向けた。淡いピンク色の光がホクス様を包み込む。
そして目を彼の向こうに向けると20数人ほどの騎士が見えた。
私は手を大きく振り上げたその騎士隊のみんなにも回復魔法を振りかける。
ピンク色の光の粒が辺り一帯に降り注ぎ、さしずめそれは花弁が舞うような美しさになった。
おりしも今日は満月で月の光と混じり合ってそれは素晴らしい魔法に見えた。
「なんだこれは?「神々しい美しさだ!「聖女様ありがとございます!!」うわっ、これは」すげぇやばすぎる!」
騎士たちは声を上げてその光のシャワーの洗礼を受け取った。
「リンローズすばらしい。君はやはりすごいな‥」ホクスは驚きで声を詰まらせた時にまた脳内で声がした。
【こんな価値のある女がシュナウトの?誰があんな無能な男に。父は一体何を考えている?あんな奴より俺のほうが‥いっそあいつを‥ああ、くっそ!】
私は驚いて魔力を手放す。
それでも近くにいた辺境伯領の人たちもそれを見て驚きの声を上げていた。
もちろんラセッタ辺境伯や周りにいた人たちもみんな駆け寄って来てその光のシャワーの中に入った。
「リンローズ。君はほんとは月の女神じゃないのか?まったく凄すぎる」
ネイト・ラセッタ辺境伯はそう叫んでいたが私は全くそんなつもりはなかったのだが。
それにしてもさっきの意味はまさかホクス様は何を考えてるの?ううん、思ったからって実行に移すはずがないわよ。
それにそんなこと誰が信じてくれる?私だって声が聞こえたからってどうして聞こえるのかさえわからないのに。
みんなの歓喜の中で私はホクス様をじっと見つめていた。
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