ご機嫌ななめなお嬢様は異世界で獣人を振り回す

はなまる

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  ふたりは家に帰るとくららはスペイン風オムレツを作った。

 川で見つけた平たい石の上にロウソクを立てて夕食を食べると、マクシュミリアンはまたくららと愛し合った。

 今度は彼女を愛しむように後ろから抱き寄せ彼女の中に猛りをうずめた。

 優しい愛撫でくららを何度も絶頂に導いてふたりは抱き合って眠った。


 翌朝朝食を済ませると2人は王都に向かった。

 マクシュミリアンは薪を背負い、くららと手に籠を持ち油を入れるための木の容器も入れた。

 そしてふたりで一緒に歩いて王都を目指した。

 「くらら僕は獣人だから店には入れない。くららが店に入って薪を売ってきてほしい」

 「そうでしたわ。あなたはそれで捕まったんでしたもの。マクシュミリアンはそんな事は本当によく覚えているんですね。でも、わたしどうすればいいんでしょうか?」

 「町はずれにディアスポラという地主がいて、そこの使用人が薪を売りに来るんだ。だからくららはそのディアスポラの屋敷から来たと言えばいい。人間が物を売り買いするのは誰も怪しいとは思わない」

 「そうなんですか。では、言われたようにしてみますわ。でもあなたはすぐにどこかに隠れていてください。もしも私たちを探していたら危険ですもの」

 「ああ、そうだな。僕は薪を下ろしたらすぐ路地に入ってくららを待っているから、でももしくららが捕まったら…‥」

 「わたしは大丈夫ですわ。このドレスなら誰にもわかりません」

 くららはマクシュミリアンを安心させるようにくるりと回ってドレスを見せた。

 「ああ、きっとそうだ。もし何かあったら僕は全力で君を助けるから」

 「ええ、頼もしいですわ」

 ふたりは王都を目指しながらそんな話をしながら歩いた。


 町に着くとマクシュミリアンの態度がいきなり変わった。

 彼はうなだれたように背中を小さくしてくららの後ろを歩き始めた。

 「マクシュミリアン?どうしたのですか。気分でも悪いのではありませんか?」

 「違う。獣人は人間と並んで歩いてはいけないんだった。うっかり忘れていた。くららは前を歩いて僕は後ろをついて行くから心配しなくていい」

 「でも‥‥」

 くららは仕方なく先を歩く。道はマクシュミリアンが教えてくれた。


 町に入ると、くららとマクシュミリアンを見て通り過ぎる人が嫌な顔をする。

 他にもくららと同じように獣人を連れた人を見かけたが、その人も獣人を後ろに連れて奴隷のように獣人に重たい荷物を引かせている。

 臭いとか恐いとか口々に言いながら通る人もいる。

 中には通り過ぎるときにマクシュミリアンに石を投げつける人がいた。

 くららは我慢できず、その男に言う。

 「一体何をするんです?私たちは何もしていないではありませんか。それなのに彼に石を投げつけるなんてどういう事ですの?」

 男が言い返す。

 「おい、あいつが俺を見たんだ。生意気な奴だ。こいつは獣人だぞ。何をされたって文句を言うわけがない。牛や馬が鞭で打たれて文句を言うか?それと同じだろう」

 「まあ、なんてことをおっしゃるの?」

 男はそんなくららを笑い飛ばした。


 くららはその男にまだ文句を言いそうになった。

 それをマクシュミリアンが慌てて引き留めた。

 「お嬢様急ぎませんと‥‥」

 くららはこれ以上何か言ってマクシュミリアンの身に何かあってはとやっと気づいた。

 何とか気持ちを収めると、向きを変えて歩き始める。

 悔しくて涙が瞳の中にたまって行く。でもマクシュミリアンに見られてはいけませんわ。

 くららは必死で涙を押しとどめた。


 そうやってしばらく町の通りを進んだ。

 そしてやっと薪を買ってくれる看板がある店に入って行った。この店は前に彼が来た店ではなかった。

 前にマクシュミリアンがくららに店の名前を話していたからだった。

 マクシュミリアンはすぐに薪を店先におろした。

 くららは勇気を出して店に入って行く。

 「ごめんください。すみません。薪を買っていただきたいのですが…‥」

 「はい、ありがとうございます。おや?あなたは見たことのない顔ですが、どちらの?」

 くららはぎくりと冷や汗が出る。だが、彼が言って事を思い出すと大きく息を吸い込んでから言った。

 「町はずれのディアスポラ様のお屋敷で働いています。今日は薪を売ってくるようにと言い使って参りました」

 「そうですかディアスポラ家の方ですか、それで薪は?まさかあなたには無理でしょう?」

 「はい、表に獣人の使用人が置きました。獣人はお店のご迷惑になってはと離れたところで待たせていますので‥‥」

 「それはどうも気を使っていただいて…そうなんですよ。あいつらが店の前にいたら他のお客様の迷惑でしてほんとに助かります。では、薪の代金を‥‥」


 くららはお金を受け取るとすぐに店を後にした。

 何だかマクシュミリアンが可哀想になった。獣人と言うだけでどうしてこの国の人はそんなに彼らにひどい扱いをするのでしょうか…‥


 くららはマクシュミリアンがこっそり路地の片隅にいるのを見つけると急いで走って彼のもとに行った。

 「マクシュミリアン。うまく行きましたわ。ほらお金ですわ」

 「ああ。良かった。さあこれで買い物が出来る」

 「ええ、そうですわね。まずお塩を買いましょう。そしてランプの油も」

 「ああ、残りはくららの好きなものを買うといい」

 「だめです。まだ小麦粉も欲しいですし、出来ればあなたの腰のベルトが買えるといいんですけど」

 「僕のものなんか買わなくていいから、くらら見える?あの店に行けば好きなものが買えるから」

 マクシュミリアンは食料品店を指さした。あそこにランプの油も売っているらしい。

 その隣には小間物を売っている店があった。

 マクシュミリアンは、また路地の物陰に入ってくららを待つ。

 彼は頭をもたげ人と目線が合わないように下に俯いていた。

 くららはそんな彼を見ているのは辛かったが見つかる方がまずいので、仕方なく急いで店に向かった。


 くららはまず食料品店に入って塩とランプの油を買った。薪を打った代金が50マーブルで、塩と油とで20マーブル支払った。小麦粉は少し高かったので諦めてパンを買った。帰りに食べるにはちょうどいいと思った。

 他にも馬油を買ったので残りは15マーブルになった。

 くららは乾燥のせいか肌が荒れていて何か肌につけるクリームが欲しかったのだ。

 彼のベルトを買うお金が足りますかしら?

 くららは隣の雑貨店に入る。

 店にはあらゆる商品が揃っていた。と言っても日本にいたころとは比べ物にはならないが‥‥

 まず履きやすそうなブーツが目に入った。お値段は驚きの200マーブル。ドレスや男物の服もあるがどれも高い。

 ベルトは…‥100マーブルほどですが…これも無理ですわ。


 何か彼が喜ぶものは…‥15マーブルほどで買えるのは…

 この店には中古の品物も売っていて、そんな中で目についたのが黄色と黒色、虎柄の縞模様の陶器のカップだった。大きさは10センチほどのもので値段はちょうど10マーブルだった。

 でもこれを買ってもミルクを飲むかロウソクを立てるくらいにしか使えませんが‥‥何だかその模様が飼っていたティグルの柄にも、マクシュミリアンにも見える気がしてくららはそのカップが欲しくなった。

 2つ買うにはお金が足りないので、店の人に相談してみると2つで15マーブルにしてくれると言った。

 くららは喜んでそれを包んでもらうと店を急いで出た。

 

 急いでマクシュミリアンを呼びに行こうとあまり前を見ずに飛び出したのがいけなかった。

 ちょうどその時騎士隊が道路を通り過ぎようとしていた。

 くららは騎士隊の先頭の馬に体をぶつけてしまった。

 彼女は驚いて転んだ。

 手に持っていたカップはガチャーンと音を立てて割れたのが分かった。

 「痛い。まあ、ひどいではありませんか‥‥」

 くららは尻もちをついたまま思わず声を上げた。

 「女!騎士隊の行く手を邪魔しておいて何だその言い方は!」

 後ろから騎士隊の一人が馬から下りてくららの腕をつかんで力任せにひっぱり上げた。

 くららは驚いた。もしかしてわたし達を捕まえに来たのでしょうか‥‥でも、男の態度はどうもそうではないらしい。

 そうと分かるといつもの癖でくららは理不尽なことを言われて腹が立った。

 「まあ、ひどいですわ。そんな暴力をふるうなんて腕を離していただけません?」

 「こいつ!隊長の馬にぶつかっておいて、そこに座れ!お前のような奴は鞭で叩いてやる」

 男はひどく興奮してくららを押し付けて座らせる。


 それでもくららはまだ逆らおうと手を上げた。

 「こいつ、騎士隊に逆らうつもりか?」

 騎士隊の男は更に逆上した。

 「隊長時間を取って申し訳ありません。少しお待ちください」

 騎士隊の一人がそう隊長に断りを入れると腰に下げていた鞭を手に握った。

 くららは恐ろしくなって目を閉じる。

 ああ…もうおしまいです。

 でも、どうしてわたしがこんな目に合うのです?


 くららは知らなかったこの国では騎士隊が通るときは道を開けなければならないことを…‥



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