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しおりを挟む弓弦はお子様プレートが来ると大はしゃぎでどれもこれも食べ散らかす。
「あっ、弓弦ダメだったら。そんなもったいないよ。ちゃんと食べなきゃ」
わたしは弓弦に食べさせようとするが、弓弦はひとりで食べたがって。
「糸、いいからひとりで食べさせろよ。こぼしたりしたらきれいにしてやればいいだろう?」
「うん、でも見てられないのよ。あっ、ほらこぼれる…あぁ…」
「いいぞ弓弦。ママ怒ってないからな。ほらひとりで食べてみろ…おっ、うまいぞ」
弓弦は龍ちゃんに褒められると嬉しそうに笑って、またハンバーグを口にほおばる。口からハンバーグがはみ出しているくせに可愛い。
わかってるんだってば。一人で食べれるようになるにはこぼしたり、失敗してうまくなっていくって事くらい。
でも、いつも忙しいし散らかるしで、つい手が出てしまう。
龍ちゃんの言う通りだなって思ってしまう。
はッ?わたしったら、何考えてた。今。
男親がいるとこんなに雰囲気かわるのかなぁ。
龍ちゃんはほんとに自然に弓弦と楽しそうにご飯食べてて。
まるで親子って言ってもわからないほど、馬が合うって言うか‥‥
ほんとの親子だからかとズクリと痛む心。
本当にこれでいいんだろうか?わたしは大きな間違いを?
いや、そんなはずはないと言い聞かせる。
だって、いきなり2歳の子供があなたの子供ですって言われて…
普通引くだろう。いや、驚きと恐怖か?
わたしは散々さげすまれ罵倒され、そして逃げるようにして龍ちゃんの前から姿を消すんだ。
龍ちゃんの憎しみに満ちた姿を想像すると悪寒が走った。
そうだ。わたしは間違っていない。
やっとほんの少し安堵する。
「どうした糸?全然食べてないじゃないか。俺が喰ってもいいのか?」
「うん、龍ちゃん好きなだけ食べれば、わたし食欲くないから」
「いいのか?じゃあ食うぞ。後でコンビニ寄ってやるから安心しろ」
龍ちゃんはそう言うとデミグラスソースたっぷりのオムライスを口にほおばった。
時々、弓弦の口にオムライスを入れてやる龍ちゃん。
弓弦の楽しそうな顔。
わたしはますます胸が詰まった。
私たちは夕食を食べ終えると、コンビニによっておでんやお酒を買って帰る。龍ちゃんはついでに着替えのパンツやシャツまで買った。
ほんとに泊るつもりなんだと思うとなぜか身体の芯がズクッと疼いた。
「糸、後で腹減ったらおでん食べろ」
「うん、ありがとう。先にお風呂に湯を入れるから、ちょっと見ててくれる?」
「なぁ糸。俺、弓弦と入ってもいい?」
「えっ?でも、髪とか洗えるの?泣いたりするよ」
「弓弦?髪洗う時泣くのか?」
「ゆじゅる、ないもん」
「だよな。ほら、泣かないって、なぁ、だからいいだろう」
「なんか今日の龍ちゃん変だよ。どうしてそんなに‥‥もういいわ」
「なんだよ?言えばいいじゃん。糸、言いたいことははっきり言え!」
「言いたいことなんかないから、ただ、弓弦があんまり喜ぶから…」
「ああ、ママやきもち焼いてるんだ。俺と弓弦が仲良くしてるから、じゃあ、こうしよう。糸も一緒に入ろうか」
「はっ?あり得ませんから」
わたしは速攻風呂場に行く。湯を張って風呂の支度をする。
「もういいかい?」
「まだよ。まだお湯溜まってないから」
「マ、マ…」
「もう、俺達、脱いだよママ」
振り返ったわたしは驚いた。
そこには裸になったふたりが立っていて。龍ちゃんソコ丸見えですから。
さすがに立派に育ってはいないが、ムスコは存在感がある。
「はぁ?だから、もう、どうして裸なのよ。も、龍ちゃんまで」
わたしはあたふたと急いで逃げ出す。
「じゃあ、弓弦頼んだわよ。ここにタオル置いておくから」
「ああ、任せとけ、なぁ弓弦」
「きゃっ!りゅ、りゅ、すゅき」
聞こえてくるのは楽しそうな笑い声ばかりで。
わたしはムラムラした気分と、もやもやした気持ちの狭間でメトロノームのように揺れ動く。
このまま龍ちゃんとなるようになってしまえばいいんじゃないかと。
弓弦はあんなに喜んでるんだし、今夜は龍ちゃんと激しく燃え上がって…
胸の先端は疼くほど硬くなっている。
それに龍ちゃんが弓弦の本当のパパなんだよ。龍ちゃんにも権利があるはずだし。
ば、ばか!龍ちゃんがそんなこと望むわけがない!
今さらそんなこと出来るはずがないじゃない!そんな期待するほうがおかしいわよ!
脳内で激しいバトルが始まってわたしは混乱しまくっていて。
「おーい糸。弓弦出るぞー」
「あっ、今行く」
わたしは慌ててお風呂場に行って龍ちゃんから弓弦を受け取る。
「ほら、弓弦楽しかったな。また入ろうな」
弓弦は機嫌がいい。タオルで弓弦を包み込むと頭をクシャクシャする。
お風呂場は真っ白い湯気で龍ちゃんの身体はほとんど見えなくて。
良かったんでしょ?もちろん!
「マ、マ。ぶんですゅる」
「えっ?弓弦ひとりで?うん、いいけど…」
ひとりでパジャマのズボンをはき始める。
すごい。これも龍ちゃん効果?
何だか嫉妬さえ覚えるのは子供じみているのだろうか?
「糸も入ってくれば。いつもゆっくり入ることないんだろう?俺、弓弦見てるからさぁ」
龍ちゃんがタオルで髪を拭きながら上半身裸で出てくる。
おまけに下はボクサーパンツだけだ。
「ちょっと龍ちゃんったら、その格好やめてよ」
「何照れてんだよ。今さらだろ?いいじゃん別に、俺、糸を襲ったりしないから」
「それは‥‥ええ…じゃあ、お風呂入って来る。弓弦いい子にしてて龍ちゃんの言うこと聞いてね」
「大丈夫だよなぁ。髪乾かそうっか!」
「あっ、でも弓弦嫌がるかも‥‥」いつもドライヤーを投げまわる。
「さあ、これどうだー」
龍ちゃんが弓弦と遊びながらドライヤーをし始めると、弓弦は大喜びでドライヤーしている。
何だかなぁ…‥
うれしいような、そうではないような、おかしなテンションについて行けなくて動揺してるのか?
そわそわしてしまう。
「じゃ、龍ちゃんごめん」
急いでお風呂場に行く。いつもの癖で急いで髪を洗って身体を洗ってお風呂場を流して掃除して出る。
部屋からは楽しそうなふたりの笑い声が。
いいんだろうか?このままで、わたし間違ってるんじゃないの?
龍ちゃんとなら弓弦の事を話してもうまく行くかも知れないじゃない。
そんなこと出来る訳ないじゃない!そんな都合いい話が……
鏡の前で自分の顔を見つめて問い詰める。
ドライヤーはガァーガァー音を立てるばかりで髪には届いていない。
どうすればいいのかわからなくなってしまう。
涙が溢れて来て、脳みそがぐしゃぐしゃで考えがまとまらなくて。
「糸?どうかした?」
龍ちゃんがお風呂場を覗いた。
「ううん、何でもない。いいから心配しないで」
いきなり後ろから龍ちゃんにふんわり優しくそっと、そっと抱きしめられた。
「放っとけるわけないだろう?やっぱりさっきの事思い出したんだろう?あんな事があったのに…俺がもっと早く来てたら糸を守ってやれたのにさぁ…もう大丈夫だから。俺がそばにいるから。いと大好きだよ」
「りゅ、う、ちゃん」
そんなの。そんなの。そんな事今言うなんて。ずるいよりゅうちゃん。
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