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しおりを挟むレオナルドはイエルクに飛び掛かり、喉元に噛みついた。
イエルクは喉元に噛みつかれ、レオナルドと一緒にベッドから転がりおちる。
ふたりは絡み合ったままでレオナルドはイエルクを離そうとはしない。
すぐにドアの外の見張りが入ってきてレオナルドを止めに入った。
近衛兵が入ってきて自分の前にたちはだかると、イエルク国王は首から血を流しながらも大声で言った。
「そうか、お前なレオナルドだな?お前は国王にならないそうじゃないか。だったら聖女の事は諦めるんだな!」思ったより傷は浅くイエルクは強気になった。
いくら気がたっているとはいえ、一息で息の根を止めるほどレオンルドは正気を失ってはいなかった。
「どういうことだ?」
レオナルドはまた身構える。
イエルクは近衛兵の後ろに隠れながら言う。
「ジャミルに聞いてみろ。わたしは取引をしたんだ。聖女の赤子が生れたらわたしは国王を引退してその赤子に国王の座を譲るとな」
「どういうことだ?瑠衣お前…まさかそんな取引を?」
レオナルドは瑠衣を見た。
「待ってレオナルド。わたしはそんな話知らないわ。それにここにはあなたが来ると言われたから…そしたらいきなり国王が入ってきてわたしを…」
「ガォー!」レオナルドの怒りは爆発しそうだ。大きな声で吠える。
「すぐにジャミルを呼べ!」イエルクは大声を上げた。
ジャミルが呼ばれて部屋に駆けつける。
近衛兵たちは、イエルク国王を守ればいいのか、レオナルドと聖女を守ればいいのかわからずその場で立ち往生している。
「一体何の騒ぎです」
ジャミルが入って来た。
「ああ、ジャミルこいつに説明してやれ、わたしが嘘をついていないと」
ジャミルはうなり声を上げている狼を見てレオナルドだとすぐに気づいた。
「レオナルドか?いいから落ち着いて獣人に戻りなさい。話はそれからだ」
ジャミルはいつレオナルドが牙をむくかわからないほど興奮しているのを見て、片方の足を引いて変身する構えを取った。
レオナルドは少し落ち着いたのか、急に魔法のようにぱっと獣人に戻った。
いつもながら狼から獣人に戻るとすっ裸だった。
瑠衣は先に体にベッドカバーを巻き付けていたので、カバーを引き抜いて彼に投げつけた。
「もう…レオナルドったら…これでも…」
レオナルドはそれを腰に巻き付ける。
「では話を聞かせてくれ!」
ジャミルは話を始めた。
「わたしは今日、レオナルドあなたを国王にすると国民の前で宣言しました。あなたは言い伝え通りに生き返ったからです。ですがどうあってもあなたは国王にはならないと言い張った。わたしは困りました。イエルク国王には、この国難を乗り切るだけの覚悟はないとわたしは思っています。それで私は苦肉の策を思いついたのです。それは聖女のお腹の子供を次の国王にするという案です。それでイエルク国王と取引をしたのです。彼は聖女がどうしても欲しいとおっしゃる。それならばその願いをかなえる代わりに国王を引退するように迫りました。あの処刑台でのことは多くの国民が見ていました。あんな醜態を見せてはもう国王としての威厳は保たれはしないと言ったのです。それにもし国王を引退しないと言うのなら、あなたを反逆者として罰することもできるとも言いました。何しろレオナルドを国王を宣言した後であのような大それたことをされたんですから…それでイエルク国王は、聖女の子供を次の国王にすることに納得された。そして引退することにも、だから今夜この部屋にイエルク国王を…」
イエルクはジャミルの話を遮った。先ほどまで近衛兵の後ろに隠れていたが、今度は前に出て自信たっぷりに言う。
「どうだ?これでわかったであろう。わたしが嘘をついたのではないと、むしろいい話ではないか、なあレオナルド」
「何がいい話だ。俺はジャミルに騙された。瑠衣はすぐ後から来るからとエルドラから連れ出されて、アムマインで待つようにと言われて…クッソ!俺を騙したのか?」
「騙したくはなかったが、そうするしか手がなかったんですレオナルド。あなたは国王にならないというし、この国は相次ぐ凶作とプリンツ王国との争いですっかり国民は弱気になっています。そんな時あの言い伝えと同じことが起きたんです。わたしはこれをきっかけにみんなに希望と活力を与えたいんです。アディドラ国を救いたいとは思いませんか?」
ジャミルの話はあまりに壮大だった。アディドラ国すべての人のために‥‥レオナルドはハッと気づく。自分は瑠衣との幸せの事ばかりを考えていたと、瑠衣はいつもみんなの事を一番に考えていたのに…お前はなんて情けない奴なんだ。
レオナルドの耳が上向いた。尻尾がばっさばっさと大きく弧を描くとレオナルドは言った。
「悪かったジャミル宰相。俺は自分の事ばかり考えていた。こうなったら俺が国王になる。そしてアディドラ国の民の為に最善を尽くす。そのかわり瑠衣はずっと俺のものだからな。イエルク国王さっきのばかな取引はもうなしだ」
「待って、待ってったら…もうレオナルド暴走しすぎよ。あなたそれでいいの?わたしの為に我慢して‥‥」
瑠衣はあまりの早い展開についていけない。
それにもしレオナルドが国王になるなら…
わたしだって、レオナルドのそばにはいられなくなるかもしれない。だってわたしはもう聖女じゃない。でも、わたしはあなたを信じた。だからこそこの世界に骨をうずめる覚悟で生き返ったけど…
「瑠衣それはちがう。何度も行ってるだろう。君のためなら俺はどんなことでも平気だって。それにきっと君と出会った時からこうなる運命だったんだ。そうとなったらやるしかないだろう?君と一緒なら後悔なんかしない」
「ああ…レオナルド愛してるわ」
瑠衣はそうは言ったが聖女でなくなった話をいつすればいいのか完全にタイミングを失った。
「俺も愛してる。今度こそ二度と離さないからな」
「ではいいんですね?レオナルドあなたは国王になっても?」ジャミル宰相が念を押すようにレオナルドに詰め寄った。
「ああ、もう決めた。俺が…わたしが国王になる」
ジャミル宰相一歩後ろに下がる。そして近衛兵と一緒にレオナルドに頭を下げた。
レオナルドは照れ臭そうにうなずいた。
そして彼は人目も構わず瑠衣を抱きしめ熱い口づけをした。
そこへ近衛兵が慌てて駆け込んできた。
「大変です。プリンツ王国から書簡が届きました」
ジャミル宰相が書簡を見て驚く。
イエルクとレオナルドを隣の部屋に呼んで話を始めた。
「大変です。レオナルド国王。プリンツ王国から最終通達が来ました。食料線所を受けれないなら武力行使もやむ得ないだろうと…すぐにプリンツ王国と話し合いをしなければ…」
「早速国王のお手並み拝見だな。レオナルドどうする?」
イエルクが嫌味ったらしくレオナルドを見た。
「イエルク前国王、あなたのせいでもあります。わたしは何度も申し上げたはずです。こうなることは予測が付いていた…」
ジャミルはイエルクをたしなめる。
「俺が…いや、わたしが話し合いに行く。すぐに書簡を送ってくれ!明日の朝すぐにプリンツ王国に出発する」
「いいんですかレオナルド国王、いくら何でも国王が直々に行くのは…」
「何を言ってるんだジャミル。レオナルドが立派に国王としてやっていけるかこの話し合いでわかるというものだろう?」イエルクがまた嫌味を言う。
「あなたという人は、ご自分は何もなさらなかったくせに、よくも人の事をそんな風に言えますね?」ジャミルは呆れる。
「わたしだって自信があるはずがないでしょう?でも瑠衣がいてくれればきっと話し合いはうまくいく。プリンツ王国の国王はご病気なんでしょう?」
「ええ、病に伏しておられるとか…そうですね。聖女様が行かれて病気を治せば…そうですな。旨く行くかも知れません。わたしは早速食糧庫にどれくらいの備蓄があるか調べさせます。それと代わりにアディドラ国に必要なものも…プリンツ王国なら石炭や鉄鉱石他にも色々な資源が調達できますから…」
「ああ、ジャミル。早速明日の朝までにそれを調べてくれないか?」
「わかりました。すぐに手配しましょう。それからレオナルド国王と聖女様はこちらでお休みください。今日はお疲れになったでしょう。明日もまた朝方忙しいと思いますので、では…あっ、それからプリンツ王国の方が具合が悪いことはくれぐれも内密にお願いします。イエルク元国王も頼みます」
レオナルドとイエルクはうなずいた。
そしてジャミルや近衛兵、そしてイエルクが出て行った。
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