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【真幕・第2章】清純な加奈子さんっ
5.そんなとこに触れてもいいんですかっ!
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右腕を加奈子さんの背中に回して、抱えながら起きるのを補助する。
姉二人より線が細くて華奢な体つきだ。掴んだ肩の感触が姉のそれとまるで違う。
(ダメだ……できない!)
二人の唇の距離は数センチ。あの日以来この距離を詰めることができずにいる。
そもそも、体調不良の女の子にキスを迫るなど、姉にバレたら天誅を食らいそうだ。
「……弟君は……手が大きいですね」
「俺の手? 大きいのかな?」
男性器が大きいと姉たちから散々言われ続けたが、手が大きいと言われたことはない。一般的な男子高校生の標準体型だからだ。それでも、細身の加奈子さんから見ると頼れる大きな手なのだろうか。
「それに……手の平がすごく温かい」
「うーん。確かに温かい。たぶん、体温が高いからだよ。よく熱出すし」
そう答えると、加奈子さんは俺の左手の平をペタペタと触れ始めた。
どこか躊躇うような、遠慮がちなような、ぎこちない触り方である。
小動物にじゃれられている気分だ。心がくすぐったくて、気持ちがいい。
「あの……弟君。手を当ててもらえませんか?」
「え? 手を当てるの? どこに?」
聞くと同時に加奈子さんはヘソの下に自分の手を当てた。
胃にしては位置が下過ぎるし、腸ならもう少し違う位置が痛むはずだ。
「……夕飯を軽く食べて、痛み止めを飲みます……」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です。痛みは軽いほうです……」
加奈子さんの手に自分の左手を重ねて置く。
すると、加奈子さんが俺の手を自分の下腹へと誘導していく……
少しばかり振り返り、隣室で夕飯の支度をする姉の気配を探る。
「この体勢……姉ちゃんに見られたくないな」
「え……どうしてですか?」
ベッドの上に二人きりで、俺は加奈子さんのヘソの下に手を置いている。
傍目から見ると、妊婦さんのお腹を愛おしそうに触るパパの姿ではないだろうか。
ただ、花穂姉ちゃんが見れば間違いなく誤解するだろう。
「どうしてって、股の間を触ってるように見えるから……」
「……股? あの、ええっと……触っていてはいけないんですか?」
「え!?」
「え……」
お互い目を合わせてキョトンとする。
おそらくだが、加奈子さんの無意識エロが炸裂中なのだ。
自分でもまったく言葉の意味を理解できていない。
「加奈子さん、この手を数センチ下へずらしたら?」
「……はい……下へ?」
「そこ触ってるように見えるのはまずいよね?」
左手が触れている部位から数センチ下は前人未到の聖域である。
入浴したりする姉たちはともかく、男性はまだ誰も見たことも触れたこともない。
「あ……そこは……恥ずかしいです……」
やっと意味を理解したのか、湯気立ちそうな勢いで顔を紅潮させた。
いくら性知識に疎いとは言え、ある程度知っておくことも必要だ。
世の中には無知ゆえに性被害に遭う女の子もいるのだから。
★★★
午後七時過ぎ。姉が呼びに来てリビングで夕飯となった。
加奈子さんの前にはお粥と里芋の煮転がしと味噌汁が並ぶ。
テーブルの真ん中には大皿のレタスサラダ、ゆで卵がトッピングしてある。
ご飯の横に小皿の漬物、キュウリと人参の浅漬けだろう。
「すげぇな! 限られた食材でこれだけ作れるんだ」
「まあね。加奈ちゃんがいろいろ買い置きしてくれててよかったよ」
「花穂さん、ありがとうございます……」
俺の周囲にいる女性陣で花穂姉ちゃんに料理の腕で右に出る者はいないだろう。
四条先輩や来栖有紀の手料理も美味かった。ただ、彼女らは日常的に調理をしていない。
うちは親が海外赴任で不在のため、姉の料理の腕は日々進化している。
「あれ? ちょっと薄味だな」
「気付いた? 加奈ちゃんは薄味好みだからね。作ってあげる人に合わせないとね」
「煮物……すごく美味しいです……」
「加奈子さん、ご飯は食べれるみたいで安心したよ」
「加奈ちゃん、藍子おばさんは来るの?」
「はい。七時半頃に着くそうです……」
藍子さんは仕事の関係で市外へ出ているそうだ。
車で遠出をしているらしく、今は仕事を終えて帰宅中だ。
普段、加奈子さんは自炊する日が多い。
藍子さんは上の階で夫の陸人さんと食事を摂っている。
月に何度かこの部屋に来て、母娘いっしょに調理する日もあると聞いた。
「わたしは食器洗ったり、片付けしてくるよ」
「花穂さん……手伝います」
「加奈ちゃんは洗濯物干して。水着とタオル洗ったから」
「わかりました」
食器をキッチンに置いたあと、加奈子さんは脱衣場へ向かった。
俺はテーブルに残ったサラダや煮転がしを片付けてから加奈子さんのあとに続く。
「手伝……わなくても大丈夫かな」
「あ……弟君……はい、これだけなので」
洗い終えた水着とタオルを洗濯機から取り出す加奈子さん。
それを持ってリビングからバルコニーに出て干している。
外の生暖かい風に吹かれ、濃紺の水着が揺らめいた。
「藍子さん、そろそろ帰って来るんじゃない?」
「はい。お母さんはもうすぐ家に着くそうです……」
予定より遅れているが、藍子さんはこちらに来るようだ。
花穂姉ちゃんは手際よく後片付けを終え、帰り支度を開始した。
「おーい! 蒼太、先に帰るよ!? じゃあ、加奈ちゃんまた明日!」
「はい……花穂さん、今日はありがとうございました」
「姉ちゃん、自転車だろ? 先に帰ってくれよ! なんで急いでんだ?」
「八時からの番組、録画したいのっ! いっしょに乗るなら早く!」
「わかった! 今、行く」
挨拶もそこそこに、急ぎ足で姉は玄関へと向かった。
歩いて帰ると約一〇分、自転車だとその半分の時間も必要ない。
腹ごなしの運動にはちょうど良い距離だ。
「弟君……また、明日です」
「うん。体調良くなってよかった。安心したよ。また明日」
いろいろ話たいことはある。しかし、姉がいては話せない。
短い時間では伝えきれないし、なにより加奈子さん自身が理解できない恐れがある。
恋人になって欲しいと言うだけ。その一言をどう切り出そうか。
そもそも、二人きりになれる時間を尽く潰す邪魔者がいるのがネックだ。
まずは花穂姉ちゃんと来栖有紀、この二人をなんとかしないと……
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※次話から新章【真幕・第3章】あねせいくりっどっ 前編!です。
姉二人より線が細くて華奢な体つきだ。掴んだ肩の感触が姉のそれとまるで違う。
(ダメだ……できない!)
二人の唇の距離は数センチ。あの日以来この距離を詰めることができずにいる。
そもそも、体調不良の女の子にキスを迫るなど、姉にバレたら天誅を食らいそうだ。
「……弟君は……手が大きいですね」
「俺の手? 大きいのかな?」
男性器が大きいと姉たちから散々言われ続けたが、手が大きいと言われたことはない。一般的な男子高校生の標準体型だからだ。それでも、細身の加奈子さんから見ると頼れる大きな手なのだろうか。
「それに……手の平がすごく温かい」
「うーん。確かに温かい。たぶん、体温が高いからだよ。よく熱出すし」
そう答えると、加奈子さんは俺の左手の平をペタペタと触れ始めた。
どこか躊躇うような、遠慮がちなような、ぎこちない触り方である。
小動物にじゃれられている気分だ。心がくすぐったくて、気持ちがいい。
「あの……弟君。手を当ててもらえませんか?」
「え? 手を当てるの? どこに?」
聞くと同時に加奈子さんはヘソの下に自分の手を当てた。
胃にしては位置が下過ぎるし、腸ならもう少し違う位置が痛むはずだ。
「……夕飯を軽く食べて、痛み止めを飲みます……」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です。痛みは軽いほうです……」
加奈子さんの手に自分の左手を重ねて置く。
すると、加奈子さんが俺の手を自分の下腹へと誘導していく……
少しばかり振り返り、隣室で夕飯の支度をする姉の気配を探る。
「この体勢……姉ちゃんに見られたくないな」
「え……どうしてですか?」
ベッドの上に二人きりで、俺は加奈子さんのヘソの下に手を置いている。
傍目から見ると、妊婦さんのお腹を愛おしそうに触るパパの姿ではないだろうか。
ただ、花穂姉ちゃんが見れば間違いなく誤解するだろう。
「どうしてって、股の間を触ってるように見えるから……」
「……股? あの、ええっと……触っていてはいけないんですか?」
「え!?」
「え……」
お互い目を合わせてキョトンとする。
おそらくだが、加奈子さんの無意識エロが炸裂中なのだ。
自分でもまったく言葉の意味を理解できていない。
「加奈子さん、この手を数センチ下へずらしたら?」
「……はい……下へ?」
「そこ触ってるように見えるのはまずいよね?」
左手が触れている部位から数センチ下は前人未到の聖域である。
入浴したりする姉たちはともかく、男性はまだ誰も見たことも触れたこともない。
「あ……そこは……恥ずかしいです……」
やっと意味を理解したのか、湯気立ちそうな勢いで顔を紅潮させた。
いくら性知識に疎いとは言え、ある程度知っておくことも必要だ。
世の中には無知ゆえに性被害に遭う女の子もいるのだから。
★★★
午後七時過ぎ。姉が呼びに来てリビングで夕飯となった。
加奈子さんの前にはお粥と里芋の煮転がしと味噌汁が並ぶ。
テーブルの真ん中には大皿のレタスサラダ、ゆで卵がトッピングしてある。
ご飯の横に小皿の漬物、キュウリと人参の浅漬けだろう。
「すげぇな! 限られた食材でこれだけ作れるんだ」
「まあね。加奈ちゃんがいろいろ買い置きしてくれててよかったよ」
「花穂さん、ありがとうございます……」
俺の周囲にいる女性陣で花穂姉ちゃんに料理の腕で右に出る者はいないだろう。
四条先輩や来栖有紀の手料理も美味かった。ただ、彼女らは日常的に調理をしていない。
うちは親が海外赴任で不在のため、姉の料理の腕は日々進化している。
「あれ? ちょっと薄味だな」
「気付いた? 加奈ちゃんは薄味好みだからね。作ってあげる人に合わせないとね」
「煮物……すごく美味しいです……」
「加奈子さん、ご飯は食べれるみたいで安心したよ」
「加奈ちゃん、藍子おばさんは来るの?」
「はい。七時半頃に着くそうです……」
藍子さんは仕事の関係で市外へ出ているそうだ。
車で遠出をしているらしく、今は仕事を終えて帰宅中だ。
普段、加奈子さんは自炊する日が多い。
藍子さんは上の階で夫の陸人さんと食事を摂っている。
月に何度かこの部屋に来て、母娘いっしょに調理する日もあると聞いた。
「わたしは食器洗ったり、片付けしてくるよ」
「花穂さん……手伝います」
「加奈ちゃんは洗濯物干して。水着とタオル洗ったから」
「わかりました」
食器をキッチンに置いたあと、加奈子さんは脱衣場へ向かった。
俺はテーブルに残ったサラダや煮転がしを片付けてから加奈子さんのあとに続く。
「手伝……わなくても大丈夫かな」
「あ……弟君……はい、これだけなので」
洗い終えた水着とタオルを洗濯機から取り出す加奈子さん。
それを持ってリビングからバルコニーに出て干している。
外の生暖かい風に吹かれ、濃紺の水着が揺らめいた。
「藍子さん、そろそろ帰って来るんじゃない?」
「はい。お母さんはもうすぐ家に着くそうです……」
予定より遅れているが、藍子さんはこちらに来るようだ。
花穂姉ちゃんは手際よく後片付けを終え、帰り支度を開始した。
「おーい! 蒼太、先に帰るよ!? じゃあ、加奈ちゃんまた明日!」
「はい……花穂さん、今日はありがとうございました」
「姉ちゃん、自転車だろ? 先に帰ってくれよ! なんで急いでんだ?」
「八時からの番組、録画したいのっ! いっしょに乗るなら早く!」
「わかった! 今、行く」
挨拶もそこそこに、急ぎ足で姉は玄関へと向かった。
歩いて帰ると約一〇分、自転車だとその半分の時間も必要ない。
腹ごなしの運動にはちょうど良い距離だ。
「弟君……また、明日です」
「うん。体調良くなってよかった。安心したよ。また明日」
いろいろ話たいことはある。しかし、姉がいては話せない。
短い時間では伝えきれないし、なにより加奈子さん自身が理解できない恐れがある。
恋人になって欲しいと言うだけ。その一言をどう切り出そうか。
そもそも、二人きりになれる時間を尽く潰す邪魔者がいるのがネックだ。
まずは花穂姉ちゃんと来栖有紀、この二人をなんとかしないと……
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