【R18•完結】「子どもさえできれば自由にしていいから」と言った夫が執着溺愛して離婚してくれません

紀ノこっぱ

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2.つかめない宰相補佐

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 シリル・リーツ・パスコヴィラダ。

 その名が結婚相手として伝えられて、私は耳を疑った。

「それって……!」
「そうだ。先日爵位を継いだばかりの、パスコヴィラダ公爵だ」

 信じられない。
 最近、有能だって噂を耳にしたわ。
 星の精霊系列の……叡星えいせい、だったかしら? その加護を受けている家系の、特別な才能の持ち主。
 なんでも、その加護を国政に活かして、宰相補佐の座にあるって。

 能力だけなら国内の結婚相手の有望株も有望株よ……それが、恋愛市場で余っている私と?

 しかも、自分から申し込みに来たわけでもなく、婚約期間を置くわけでもなく、いきなり結婚!?

「お断りします」

 私の拒絶に、居間の空気が一気に冷え込んだ。
 お母様はわなわなと震え、ヒステリックに喚きだす。

「ダリア……! こんなまたとないお話を、あなたは!!」
「だって、突然結婚!? 貴族の振る舞いではないわ!!」

 婚約期間もない結婚は、私を軽んじているとしか思えない。
 会ったこともない公爵が私と結婚するなんて……。

 これは、血筋目当てよ!!

 建国の祖王と水精霊の末裔の血。
 パスコヴィラダ公爵ほど家柄のいい家なら、それを取り込むことで血の正当性をかさ上げできる。
 ゆくゆくは、王家にとって代われるほど。

 私の気持ちなんて、誰も考えていない。
 こんな、血筋目当ての形でしか結婚できないって、恋愛に対する憧れを砕かれたこと、誰も気づいていない。親でさえ。

 鼻息を荒くした私に、お父様はゆっくり首を横にした。

「この結婚は、王家の推奨も受けている」

 ……なんですって?

 王家まで出張ってくる……私の結婚に?

「王家が……?」
「我が家の血は、由緒正しく貴族の中でも一線を画するものだ。本来、王家が取り込むべきもの……しかし未だ為されていないもの。そこで、パスコヴィラダ公爵家がお前を受け入れることになったのだ」
「……なんだ、いよいよ目当てがはっきりしてきたわね」

 血を利用する気を捨てていないのね。
 王家は、祖王の血統が欲しい、けど、『反逆のレミントンの娘』をそのまま王妃にできない。

 だから、私をパスコヴィラダ公爵に押し付けて、『レミントンではない祖王の血を持つ子』をつくらせるつもりなんだ。

「私を欲しい条件の人間をつくるための、駒にする気なのね」
「ダリア!」

 お父様の一喝に、お母様がさめざめと続く。

「……我が家は困窮しているのよ。もう、借金の期限も近いの。今回の結婚話を受けるなら、王家から支援を受けられるし、パスコヴィラダ家から莫大な資金をいただけるのよ」
「娘をお金で売るの!」
「一家全員路頭に迷うのどちらがいいのよ!」

 正直、私は路頭に迷っても結婚でも、どっちも最悪よ。
 でも、お母様もお父様も、お兄様まで、私の結婚で借金から解放されたいみたい。
 私の意思なんて無視して、公爵と顔を合わせる日が伝えられた。


 ˚˙༓࿇༓˙˚


 王家に推されたからって、個としては魅力のない娘を結婚相手に迎える男。
 どんな野心満々の冷徹男かしら。
 温かみのない瞳をした策略家? 
 それとも権力欲に果てのない打算的な冷血漢。

 そんな想像をしていたのだけど。

 公爵邸に訪れて対面したパスコヴィラダ公爵は、柔和な物腰の持ち主だった。

 それどころか。
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