70 / 267
第一部 第五章
12 最後の語らい。
しおりを挟む
「はー……」
「落ち着いたか?」
熱く甘いシャイを飲み、息を吐き出した佐知子に、ヨウはふっと笑う。
「う、うん」
恥ずかしそうに少しうつむいて、赤い目と目元で、鼻を軽くすすりながら佐知子は答えた。
「菓子も食うか?」
ヨウは佐知子のとなりに座り、一口サイズのパイのような物がのったお皿を差し出した。
「うん……ありがとう」
口の中に入れたれは、甘く、泣き疲れてぼうっとした頭に染みわたった。
「ねぇ、ヨウ……」
「ん?」
テーブルに、横に並んで座りながら、二人は話す。
「戦争……戦って……頻繁にあるって聞いたんだけど、本当?」
戦の話を聞きたかった。ヨウ本人から。
「あー……そうだな。前の戦は一年くらい前だ。その前は半年前。その前はいつだったかな……でも、頻繁にあるな。この村ができて少ししてから」
ヨウはシャイを飲みながら、平然と答える。
「……ここでは……戦は当たり前のことなんだね……」
佐知子は、熱いシャイのグラスを指でまわしながら言った。
「……そうだな」
ヨウはシャイのグラスをソーサーに置く。
「ここでは……アズラク帝国中央政府の指示を受けた近くの町が、今回みたいに攻めてくることもあるが……山賊や、近くの集落や村が攻めてくることもある。油断は常にできないんだ……」
「……そうなんだ」
平和そうに見えたのに……と、佐知子は思いながらヨウを見る。
「……犠牲者とか……やっぱり……出る……よね……」
佐知子はうつむきながらヨウに問う。
「ああ……それはもちろん」
ヨウのはっきりとした即答に、うつむいた佐知子の眉間に皺が寄る。
「……話し合いとか……外交? で、なんとかならないの?」
自分でも、バカなことをいっているとは思っているが、一応、聞いてみた。
「それは俺にはわからん。ハーシムさんの分野だからな。だけど……戦になってるってことは、話し合いではどうにもならなかったんだろう……」
「そっか……そう……だよね……」
佐知子はバカなことを聞いたな……と、少し落ち込む。
「でも……」
ヨウが口を開く。
「……お前なら……なんとかできるのかもな……」
「え?」
佐知子はヨウを見る。
ヨウも佐知子を見ていた。真剣な、面持ちで。
「神に使わされた……お前なら……」
「…………」
その言葉に、ぐっと息を飲む。
しかし、佐知子はあわてて顔を背け、うつむいた。
「そ、そんなこと……ヨウは私を買いかぶり過ぎだよ……私はただの女子高生で……ハーシムさんにできないのにそんなこと……」
できることなら……したいけど……という言葉は心の中にとどめて、佐知子はうつむいたまま、ぎゅっとグラスを握った。手のひらが熱い。
「……まぁ、とりあえず……明後日には戦地へ出発するから……村も戦時体制にはいるから、何かあったらアイシャさんを頼れ……な?」
念を押すように、ヨウは佐知子の顔を覗き込むように少し顔をさげる。
「うん、わかった…………もう……会えない?」
顔をあげた佐知子は、悲しそうに眉をひそめてヨウを見る。
「っ……」
ヨウはぐっと息をとめ、込み上げてくる感情を、頬や首筋あたりに力を入れ、ぐっとこらえた。
「い……や、会える……出発の時、家族とかとの別れの時間があるから……その時に……」
「そっか……でも……じゃあ、落ち着いて話せるのは、今が最後だね……」
佐知子は上げた顔を少しうつむかせ、少し悲しそうにほほえんで言う。
伝えたいことはたくさんあるような気がする。でも、何をいえばいいのかわからない。
もう先程、涙とともに伝えてしまった気もするし……もう一度、何度でも伝えたい気もする……伝えたいのは、同じこと。
何度でも……
「無事に、帰ってきてね」
佐知子は顔を上げて、無理に作った少し悲しいほほえみで言う。
「……ああ、ちゃんと無事に帰ってくるから……安心しろ……」
ヨウもほほえんだ。
穏やかな、ほほえみで。
「落ち着いたか?」
熱く甘いシャイを飲み、息を吐き出した佐知子に、ヨウはふっと笑う。
「う、うん」
恥ずかしそうに少しうつむいて、赤い目と目元で、鼻を軽くすすりながら佐知子は答えた。
「菓子も食うか?」
ヨウは佐知子のとなりに座り、一口サイズのパイのような物がのったお皿を差し出した。
「うん……ありがとう」
口の中に入れたれは、甘く、泣き疲れてぼうっとした頭に染みわたった。
「ねぇ、ヨウ……」
「ん?」
テーブルに、横に並んで座りながら、二人は話す。
「戦争……戦って……頻繁にあるって聞いたんだけど、本当?」
戦の話を聞きたかった。ヨウ本人から。
「あー……そうだな。前の戦は一年くらい前だ。その前は半年前。その前はいつだったかな……でも、頻繁にあるな。この村ができて少ししてから」
ヨウはシャイを飲みながら、平然と答える。
「……ここでは……戦は当たり前のことなんだね……」
佐知子は、熱いシャイのグラスを指でまわしながら言った。
「……そうだな」
ヨウはシャイのグラスをソーサーに置く。
「ここでは……アズラク帝国中央政府の指示を受けた近くの町が、今回みたいに攻めてくることもあるが……山賊や、近くの集落や村が攻めてくることもある。油断は常にできないんだ……」
「……そうなんだ」
平和そうに見えたのに……と、佐知子は思いながらヨウを見る。
「……犠牲者とか……やっぱり……出る……よね……」
佐知子はうつむきながらヨウに問う。
「ああ……それはもちろん」
ヨウのはっきりとした即答に、うつむいた佐知子の眉間に皺が寄る。
「……話し合いとか……外交? で、なんとかならないの?」
自分でも、バカなことをいっているとは思っているが、一応、聞いてみた。
「それは俺にはわからん。ハーシムさんの分野だからな。だけど……戦になってるってことは、話し合いではどうにもならなかったんだろう……」
「そっか……そう……だよね……」
佐知子はバカなことを聞いたな……と、少し落ち込む。
「でも……」
ヨウが口を開く。
「……お前なら……なんとかできるのかもな……」
「え?」
佐知子はヨウを見る。
ヨウも佐知子を見ていた。真剣な、面持ちで。
「神に使わされた……お前なら……」
「…………」
その言葉に、ぐっと息を飲む。
しかし、佐知子はあわてて顔を背け、うつむいた。
「そ、そんなこと……ヨウは私を買いかぶり過ぎだよ……私はただの女子高生で……ハーシムさんにできないのにそんなこと……」
できることなら……したいけど……という言葉は心の中にとどめて、佐知子はうつむいたまま、ぎゅっとグラスを握った。手のひらが熱い。
「……まぁ、とりあえず……明後日には戦地へ出発するから……村も戦時体制にはいるから、何かあったらアイシャさんを頼れ……な?」
念を押すように、ヨウは佐知子の顔を覗き込むように少し顔をさげる。
「うん、わかった…………もう……会えない?」
顔をあげた佐知子は、悲しそうに眉をひそめてヨウを見る。
「っ……」
ヨウはぐっと息をとめ、込み上げてくる感情を、頬や首筋あたりに力を入れ、ぐっとこらえた。
「い……や、会える……出発の時、家族とかとの別れの時間があるから……その時に……」
「そっか……でも……じゃあ、落ち着いて話せるのは、今が最後だね……」
佐知子は上げた顔を少しうつむかせ、少し悲しそうにほほえんで言う。
伝えたいことはたくさんあるような気がする。でも、何をいえばいいのかわからない。
もう先程、涙とともに伝えてしまった気もするし……もう一度、何度でも伝えたい気もする……伝えたいのは、同じこと。
何度でも……
「無事に、帰ってきてね」
佐知子は顔を上げて、無理に作った少し悲しいほほえみで言う。
「……ああ、ちゃんと無事に帰ってくるから……安心しろ……」
ヨウもほほえんだ。
穏やかな、ほほえみで。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。
具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。
※表紙はAI画像です
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる