紺碧の精霊使い

たたたかし

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1章-追放冒険者

5.開眼

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 燃え盛る炎が上がっていた。

 ここがどこだかわからない。

 どこを見渡してもあたり一面炎に包まれていた。

 至る所から誰かが泣き叫ぶ声が聞こえる。

 その中で一人の少年が、力なく倒れる誰かを抱えて涙を流している。

 その少年の周りに一つの小さな光を放つ小さな少女がふわふわと漂っていた。



***


「……はぁ…はぁ…」

 何か夢を見ていた気がする。
 それは遠くてどこか懐かしいような…

「……。…ん?…ンッ!?!?」

 ぼんやりとしていた意識が一気に覚醒して行く。

 スイは急激に体を起こし、辺りを確認する。

 柔らかく、ひんやりとした砂の感覚が肌をくすぐる。

(何が…起きてるんだ!?体は…痛くない…!?)

 そして困惑する。

(ここはどこだ!?は誰…俺だ。
 何でこんなところに!?確か俺は……!?!?!?)

 さらに動揺する。

 動揺してはやる鼓動を落ち着かせながら、今いる場所の情報を掴むために、手を右往左往させる。次に自らの体をまさぐる。
 盗賊と闘った傷が無くなっていた。そして自分の閉じられた眼球に違和感を感じる。

 そしておもむろに眼を…

「ッ…!!?」

 開いてしまった。大きな傷によって塞がれたはずの目が開いてしまった。

 辺りを見回す。
 それは暗闇ではなく色のついた世界…

(待て待て待て待て待て!!)

「俺の身に何が…起きてるんだ!?」

 頭の中から逃げ出した平静を無理矢理引き戻す。

 そしてぐちゃぐちゃと乱れ、ぼんやりとした記憶を思い起こすように整理する。

(そうだ盗賊に捕まってから川に投げ込まれたんだ)

(なんで川に投げ込まれたんだ?)

 それまでの経緯がボヤけてあまり思い出せない。

(なんで助かってるんだ?なんで眼が見えるように??)

 どうも盗賊との闘いでの記憶が一定のところからぼんやりとしか思い出せない。

 そして頭が痛い。

 眼を使ってあたりを見ると頭がズキズキする。

 これ以上開いていると頭痛が酷くなりそうなので一度眼を閉じて耳を澄ませる。すると近くで川の流れる音が聞こえた。

 ここは洞穴?

(川辺ならともかくどうやってここまで来たんだ?)

 何処でどうしてどうなってと考えるがまるでわからない。

 スイは一度、盗賊との闘いの事について考える事を放棄する。

 今、考えてもよくわからなさそうだから。

 そこでスイはまず、今の自分でもわかりそうな現状を一つ一つ確認することにした。

 まずは、自分の体について。

 次に、自分はどこにいるのか。

 結果的に今ここに生きているのだ。なれば最も重要なのは現状確認である。

 スイはおもむろに立ち上がり、閉じていた眼を再びゆっくりと開く。

(やはり見える…)

 開けばズキリと頭が痛むが先ほどよりかは痛みが小さい。

 まずはその眼で自分の手や足を見る。

 見た事はない筈なのに興奮がない。
 記憶にないが知っている。そんな感じだ。
 手足は細く痩せていて明らかに健康ではない。

 スイの知識にある人間の腕はもっと太かった。

 服はボロボロで薄汚いし、薄汚れた鈍い金色の髪がボサボサと伸びてるせいか視界を遮り邪魔だ。
 ふとスイは思い出すように顔を触る。
 額から目にかけてのクロスしたような大きな傷は治っておらず残っていた。

(眼が見えるのと盗賊との戦いの傷がないこと以外はいつも通り…)

 体でわからないことはあるが異常という異常はない。

 淡々と体を確認したあと、ふとスイは自分自身に違和感を覚える。
 ただそれは言い表すことのできない違和感。

(なんだかいつもより頭が冴えてる気がする。こんな状況でおかしくなったのか??)

 気持ちは今までになくスッキリしている気がする。
 何か悪いものが抜け落ちたような、どこか開放的な気分。

 ただスイはその気分に変だと感じた。
 言葉でなんと表せばいいかわからない。
 違和感のない違和感といったような妙な感じがするのだ。

 スイはしばらく考えるが結局それもわからなかった。

 別に記憶を思い出したとか記憶を失ったとかそう言うわけではない。
 ギルファスに拾われる前の記憶はないし、しっかりとギルファスに捨てられたこともルマリアに騙されたことも覚えている。

 何かがおかしかった。

 きっとミルドラに住むスイのことを知っている第三者がみれば明らかに性格が変わっているであろう事に気づけるだろう。
 だがスイ自身は全く気づけない。
 ここにミルドラの住人はいないのだから。

 そこでスイはこの事に対しても考える事を放棄した。

 これ以上考えても埒があかない。

(体も気持ちも正常。それでいい)

 素早くそうあたりをつけると次の思考へ切り替えた。

(次に此処がどこかだな…明らかに森の何処かだと言うのは見てわかるな…洞穴があるわけだし)

 スイのいる洞穴には奥行きはそれほどなく、出口はすぐ目の前にある。
 洞穴は窪んだ場所にあるのか出口からスイのいる場所にかけて少し傾斜がある。

 出口の方へ歩くと、目の前に広がるのは天然に積み上げられた苔の生えた岩が砦のように洞穴を囲み、下は大きな水たまり、上には洞穴を隠すように木々が鬱蒼としていた。

 その様を眺めて感嘆する。

 綺麗な景色だ。

 それにしても…

(俺はどうやってここまで降りてきたんだ?)

 スイには川から上がった記憶も無ければ洞穴に向かった記憶もない。

 自分が最後に覚えている記憶は川に流される時に自分の目を見て恐怖に歪める男の顔だ。

(…ん?顔??なんで顔?……その時にはすでに眼が!?)

 フワリ

「…ん!?なんだ!?」

 何か大事なとこまでありつけそうになった時、突如大きな魔力の流れがこちらへ猛スピードで近づいてくるのを感じ取った。

 慌ててそちらに視界を向ける。

 しかし遅かった…

「フグッ……!!」

 スイが魔力を感じ取れるといっても精々半径10メートル程。魔力の接近スピードより先に反応することが出来なかった。

 魔力の塊はスイの顔に目掛けて飛んできた。

 攻撃されたわけではない。攻撃であるならばあの速度でぶつかられていたら吹っ飛んでる筈だ。それに何やら顔に突っ込んできた感触は柔らかい

 小さい何かがスイの目の前で速度を緩めて突っ込んだのだ。
 
『スイ…!!すいぃ…!!ごべんなざいぃ!!』

 小さい何かはスイの顔に張り付いて、喋り始めた。

 それが何かわからない以上早く対処しなければならない。

 スイは小さい何かを慌てて手で掴み顔から引き剥がす。

 そしてその姿を見て開いている眼を更に見開く。

「な、なんだ…これ」

 そこには白く淡い光を放つ掌一つと半分ほどの大きさの羽の生えた少女がスイの手に捕まれながら涙を流していた。

 その少女から大きな魔力の流れを感じる。

 そんな見たこともない生物に対して本日、2回目の困惑をした。

 見たこともないといってもなんせ眼で生物自体を見るのは初めてだが。

 情報量がありすぎて驚く事を放棄していたスイも流石にこの生物には驚かざるを得ない。

 もしかしたらゴブリンだとかの魔物の類なのかもしれないのだが、今スイの思考は停止している。目の前の情報を処理するので手一杯なのだ。

 何故か涙を流して自分の名を呼ぶ強大な魔力を持つ羽の生えた淡い光を放つ少女に警戒する必要もないとも感じる。

 スイは未だに涙を流しながら自分の名前を呼び、顔に張り付こうとする少女をじっくりと見やる。

 小さいが女性の人の形をしている。
 腰まであるだろう桃銀色ピンクシルバーの髪のツインテールがファッサファッサとスイの手をくすぐる。
 泣き腫らしているが零れ落ちる涙を流す小さな瞳は紫水晶アメジストのように綺麗だった。
 顔立ちも整っており、着ている服から晒されて見える脇腹は締まり、太ももは程よい肉付きだ。
 それはまるで人類の神秘が作り上げた黄金比のような姿をしていた。

 羽が生えてなくて、発光してなくて、体が5倍ほど大きければただの人のようにも見える。

 やはり頭の理解が追いつかない。

(だが相手に害意は無さそうだ)

 取り敢えず、この少女は言葉を理解しているのか確認しなければならない。
 スイは手の中でグスグスと涙を流しながらスイに抱きつこうとする少女に話をかけてみることにする。

「…えーっと…」

『うわぁぁぁあああん!』

「えっとー…」

『うわぁぁああん!!』

「君の名は。…」

『うぇぇええん!』

「だめだな…これは」

 小さな少女は話を掛けようとすると泣きながらスイの顔に向けて手をプラプラと彷徨わせるだけだった。

 意思疎通を諦め、意味もわからず泣いている少女から手を離して落ち着くまで待ってやることにした。

 すると少女はスイの手から離れた瞬間、最初の時と同様、顔にペタリと張り付く。
 その体制が一番落ち着くのか、少女の呼吸が段々と整っていく。
 ただスイは若干息がしづらい。

 ややあって、少女は泣き止み、落ち着きを取り戻す。

 すると、少女の方から顔に張り付いたままだが自己紹介をした。

「君は…」

『…ハレイは…うぅ…ハレイ…』

「ハレイ?俺はスイよろしく。言葉わかる?」

『…うん』

「よかった…君が俺をここまで運んでくれたの?」

『う、うん。流されると危険だから…』

 それからスイは自分の足りない記憶を思い出させるように、ハレイと名乗る少女に質問していった。

 
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