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1章-追放冒険者
7.一年
しおりを挟む『スイ!二時の方にオークが隠れてる!』
「了解!」
背後でフワリと浮かぶ少女、ハレイにそう言うと、スイはオークの隠れている場所まで走る。
オークは気づかれていると判断したのか隠れていた茂みから姿を現した。
「ピグゥ!!」
全長2メートルの深緑の2足歩行の魔物。
イノシシのような吊り上がった特徴的な鼻。
手にはスイほどの大きさの木の棍棒を肩に担ぐように持っていた。
オークは濁った黄色い瞳でスイの姿を捉えるなり、こちらへ向かってきてその大きな棍棒を片手で振り上げ、スイへと全速力で横に振り払う。
スイはその動きを見つめながら、脚に力を集中させて、後方へ飛び退く。
次の瞬間、先ほどスイのいた場所からブォンと空を切る音が鳴り響く。
「動きが遅いな」
瞳を向けて煽るように嘲笑する。
「ピッグググ…!!」
オークは棍棒を振り切った後、スイに攻撃が命中していない事を確認すると、怒りを表すかのように唸り声をあげて再び棍棒を振り上げる。
オークという魔物は巨大で力はあるのだが、服を着るという事を考えつかないくらい知能は低いし動きも大きい分鈍重である。
(隙だらけ過ぎるな…正面ががら空きだ。今仕留めても構わないが…)
と思考しているうちにオークの怒りの一撃がスイの脳天めがけて振り下ろされる。
スイはそのオークの全力攻撃を踏み止まらせないが為に、敢えて紙一重で右に飛ぶ。
するとオークの全力の一撃が地面に向かい、ぶつかる。
バキリ
オークの怒りの一撃と地面の硬さに耐えられなくなった棍棒は大きな音を立てて砕けたのだ。
棍棒が砕けたことによって、オークは重心が崩れて前のめりになり、慌てて片足を前に突き出そうとする。
その隙にスイは背後へと回り込み、跳びあがる。
前のめりとなって、さらけ出されたオークの後頭部にスイの手に持っていた通常サイズの棍棒を力を込めて叩き込む。
バキリ
叩きつけた棍棒は先ほどのように大きな音を立てて砕け散った。
ただしそれとともにオークの意識も砕け散った。
オークはそのまま前のめりにドシンと地面を揺らし倒れ果てた。
「…フゥ」
殺った。
『やったね!スイ!!』
オークが倒れたのを確認するとハレイはスイの顔の周りをふわふわと浮きながら輝かんばかりの笑顔を向けてくる。
(いや、もうすでに発光していたな)
「あぁ、一人でオークを倒せたよ。これもハレイのおかげだ。ありがとう」
『えへへぇ!』
スイが感謝の気持ちを伝えると、彼女は照れるように桃銀の髪を弄りながら顔を蕩けさせた。
すでにハレイと洞穴で出会ってから一年が過ぎていた。
彼女の顔を見るとその一年の事が思い出される。
スイは一年間ハレイに様々な知識と力の使い方を教わった。
精霊であるハレイはその小さい見た目とは反して、莫大な知識を持っていた。
彼女はその知識を一年の間にスイが概ね必要そうな事に絞って教えてくれた。
記憶を失っていてもスイには失う前に学んでいたであろう知識はあったのだが、その知識の足りないところや、俺の知らなかった常識などを教わった。
いろいろな事を教わっていると、彼女は、テーブルマナーだとかダンスの踊り方だとか、俺の使わないような知識も度々キラキラとした目で教えられたりもした。
それと同時に力の使い方も教わっていた。要するに修行だ。
スイはハレイとの修行を、ある事がきっかけで必死になって取り組んだ。
それはハレイに修行を開始してもらう1日前。
スイは眼が見えるようになった自信と強くならなければいけないという焦りから、ハレイの制止を振り切りオークを退治しに行った。
(自分で言うのはあれだが、一応六年冒険者をやってきた俺としては眼が見えるようになって、多少は動けるようになったと思っていたのだ)
森に潜むオークを見つけ、襲い掛かったその時。
オークはスイに気づき即座に棍棒を振り上げスイ向かい、振り下ろす。
当時のスイの身体は反応が出来ず、見えるようになった瞳で振り下ろされる棍棒をただただ見ているだけしか出来なかった。
オークの棍棒がぶつかるその寸前にハレイが慌ててスイの背中を引っ張らなければ今のスイは存在しない。
スイはその場で失禁し、尻尾を巻いて逃げた。
オークの前ではこの六年間の経験も見えるようになった眼も塵程も役にたたなかった。
そもそもその自信が間違い。
自分は役立たずで捨てられた挙句、人に騙され盗賊に殺されかけたのだ。
たかだか眼が見えるようになっただけで『ゴミ』は『ゴミ』のままでしかなかった。
すぐに力が手に入る事などあり得ない。
にも関わらず、眼が開いたことによる万能感にも近い自信。
更に、すぐにでも力を得ようとする焦り。
その矛盾にも近い驕りがこの結果へと導かれた。
そしてスイは悔いを改めるように直向きにハレイに与えられた修行をする事になった。
ハレイから最初に教わった修行は瞑想。
瞑想は心を鎮め、精神や力を研ぎ澄ます為に行われる行為なのだが、それは俺にとって厳しい修行であった。
肉体と精神が乖離を起こすように暴走したのだ。
これはスイの体のある部分が要因である。
その要因は“魔力器官”にあった。
魔力器官…様々な生き物の腹のあたりにあり、魔力という力を作り出す器官。
魔力器官から作り出される魔力の量や質は、同じ種類の生物であってもそれぞれ差がある。
しかし、スイはその魔力器官に問題があった。
スイの魔力器官は記憶をなくした六年ほど前に何故かパタリと成長が止まっていた。
その為、育つ肉体と成長を止めた魔力器官により瞑想にズレが生じていた。
通常は魔力器官の成長が急に止まる事などなく、歳を重ねるごとに徐々に増えていき、ある一定のところまで成長を遂げると徐々に性能が落ちてくるものだ。
それがどうにもスイの魔力器官は六年前からまるで成長していなかった。
成長も衰退もせず時が止まるように変化していなかった。
つまるところスイの魔力は12歳の子供程の魔力のままだったのだ。
見た目は大人、力は子供。
ギルファスがスイを捨てた理由も納得できる。
魔力というのは冒険者にとって生命線である。
魔力器官から作り出される魔力というものは身体を強化する面で自然と使われる。
それが子供程度しか作り出されないとなれば、ただの足手纏いにしかならないのだ。
ただ、その問題はすぐに解決した。
魔力器官の成長阻害に陥っていたスイの体はハレイの魔法であっさりと治されてしまった。
最初の一週間は成長阻害が治っているのかさっぱりわからなかったが時が経つにつれてそれはじわじわと実感できるようになった。
精霊という存在がとんでもないことを改めて実感した。
魔力器官が成長するようになっただけで急激に今の年齢に見合った力になっているわけではないのでそこまで大した変化では無かったが。
今までの六年間まるで進歩を遂げていなかったスイにとっては涙が出るほどの大きな進歩だった。
それからの修行もトントン拍子にとはいかなかったがゆっくりと一歩ずつ強くなっていった。
その修行の結果が目の前に倒れるオークである。
オークは知能が低く動きも遅いがオークの持つ力はその分絶大で凶悪。
一撃でも貰えば屈強な冒険者の身体でも内臓を撒き散らしながら破裂するほどである。
そのオークを誰の力も借りず自分自身の力で倒したのだ。
一年前のスイならば何人束になろうとも傷一つつけられないで死んでいただろう。
だがスイはこの一年で強くなったのだ。
魔力器官は六年の空白を埋めるように勢いを増して今も成長している。
勢いを増してと言っても、常人の2倍ほどなので、12歳が14歳になった程度だ。
ハレイ曰くスイの魔力は多い方らしいので普通の14歳よりは強いみたいだ。
それはスイ自身にも分かる。
そもそも普通の14歳ならオークは倒せない。
それに修行で成長したのは魔力だけではない。
一年間、森で生き抜いたスイの肉体はかつての姿など見る影もなく成長を遂げていた。
金がなくて思うように食べられなかった食事も森では自分で狩れば食べ放題なのだ。
枯れた枝のようだった腕も2周りほど大きくなり、体格も全体的に1周り大きくなった。
(それは俺自身がハレイの修行を頑張ったおかげだ)
これで目標は達成した。
スイはこの一年オークを独力で倒すことを目標にしていた。
それが達成されたスイは…
「これで街へ行けるよ」
オークの強さはあまり基準にならないが一般冒険者1.5人分ってところだ。
今の俺であれば一人づつではあるが盗賊を殺せるだけの力は備えられただろう。
ならば簡単だ。
(奴らを殺しに行こう。死に追い込もうとした奴らを、逆に死に追い込んでやろう)
その為にまずは街へ行って盗賊どもの情報を手に入れなければいけない。
この森の何処かにいるのかも知れないが探すにしても広い森だし手間がかかる。
ただし向かう街はミルドラではなく、その隣の街エルシールだ。
ミルドラではない理由は簡単な話でギルド職員であるルマリアとあの盗賊どもが繋がっているのならば、ミルドラのギルドから得られる盗賊の情報が嘘の可能性がある。
ルマリアを脅して盗賊の居場所を聞き出す方法も考えたが、情報を聞く前に手が滑って殺してしまうかも知れないのと他にも繋がっているギルド職員がいた場合なんらかの理由で盗賊の事を嗅ぎまわっているのがバレてしまえば、スイが危ないからだ。
盗賊を一人ずつ仕留める自信はあるが、集団で来られたら流石にスイがやられる。
よって、向かう街はエルシールに決めた。
(まあ、エルシールでも盗賊達が繋がっていれば終わりだが、確実に繋がっているミルドラよりマシだ)
スイは大きく息を吐き出し、空を見上げる。
スイの紺碧の瞳がギラリと輝く。
野望や希望を孕んだその少年は今、一歩踏み出した。
そして…
「ーーそれはそうとハレイ。エルシールにはどうやって行くんだ??」
『えっ!!!』
精霊の少女と紺碧の瞳をした精霊使いの物語が今、始まろうとしていた。
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