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第10話 異世界の王女はしおらしい

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 部屋に入ってきたのはノアールだった。
 ボロ布のような服から、動きやすそうな簡素服に着替えていた。

「お疲れの時に申し訳ありません。すぐに戻りますので」
「いや、大丈夫だけど……それでどうした?」

 マリーヌの件で若干精神に負担が来ているが、体はそれほどつかれていなかった。

「一言、お礼を申し上げたくて……お母様とわたくしを助けていただいて、本当にありがとうございました」
「いやいや、当然のことをしただけだから。なんの罪もない二人を殺害しようなんて天が許しても、俺が許さん」

 そう言って俺は大して無い、力こぶしを作って見せた。
 本当はメイへの下心だったんだが、ここは男らしく黙っていよう。

「ふふふ、マモルは面白い人ですね」
「それで、ノアールはこれからどうする? ここでメイさんと静かに暮らすって言う手もあるけど、やはり王国のことが気になるか?」
「気にならないというのは嘘になりますね。でも今のわたくしに何ができますかね?」

 ノアールは寂しそうにうつむいたまま答える。

「一応、俺のこれからのプランなのだが、聞いてくれるか?」
「はい」
「ここを拠点に俺は俺の国を作る。魔王軍とも王国とも対等な立場の国を。二つの国の間に立って、貿易を行う。いわば二国の間の緩衝国となる国を目指す。聞くところによると、魔王軍の侵攻は恨みでも何でも無く、経済活動の一環として侵略しているらしい。それであれば、まっとうな貿易ができれば、無為な侵略はしないはずだ。ただ、ここで問題なのは王国側だ。交渉のテーブルにも着こうとしない狂信者どもだからな」

 俺の説明を聞いてノアールにも思うところがあるようで、俺の目をまっすぐに見て話し始めた。

「そうですね。お父様は非常に頑な性格なので、こうと決めたら周りの話を聞こうとしないのです」

 それはよく分かっていますよ。俺はその性格のせいで殺されかかったのですから。

「四人の王女はどうだ?」
「長女のアクアお姉様はお父様そっくりです。他の三人のお姉様は政治に興味がありませんわ。戦いが好きだったり、恋愛のことで頭がいっぱいだったり、筋肉が大好きだったりと」

 ん? 筋肉が大好きってなんかパワーワードだな。まあいいか。つまりはこのままでは、王国は魔王軍と停戦も交渉もする意思がないと言うことか。

「それであれば、君が王になったらどうだ? そうすれば俺も友好条約を結びやすい」
「わ、わたくしがですか?」
「誰も正しき王になりそうにないのであれば、自分でなるしかないんじゃないか? 正統に王家の血を引く者だし、それなら俺も手伝える」
「わたくしは、そんなことができる器ではありません」
「でも、もうすぐあの王様は死ぬぜ。その後のことは考えておかないといけないんじゃないか?」
「え!? どういうことですか? お父様が死ぬって!?」

 ノアールは全く考えていなかったようだ。
 そのかわいらしい大きな目をさらに大きくして驚いていた。

「魔王軍が王国を占領したら殺されるか、最低でも王でなくなれば、これまでの統治次第で平民に殺されるだろうな。それでなくても、俺がぶち殺す」
「な、なんで、ですか?」
「なんでって、あのままでは俺は殺されていた。やられたらやり返す。『殺っていい者は殺られる覚悟のある者だけだ』」
「……」

 俺が某名言を口にしても、少女はきょとんとしていた。
 そうか、こっちの世界じゃわからないか。恥ずかしい。だだ滑りじゃないか。

「それにメイさんと君も殺されるところだった。これで、すでにスリーアウトだ。俺は絶対にあいつを許さない」
「分かりました。でも、できれば監禁くらいで済ませていただければありがたいです」

 おいおい、それって生かさず殺さず、生き地獄を見せてやれってことだろう。

「恐ろしい子」

 俺は心の中で白目になってつぶやいた。

「ああ、善処する。どちらにしろ、王位が空席になる。魔王軍がそのまま統治するのか、他の誰かが統治するのか。俺個人はノアールが統治した方が良いのだがな。俺の国を含めた三国でバランスを取りながら運営していくのが理想だと思う」
「……でも」
「まあ、それにはまず、俺たちが国としての体裁を整えないと、絵に描いた餅なんだけどな」
「分かりました。考えておきます。ありがとうございます」
「え!」

 ノアールはそう言うと、俺の頬にキスをすると足早に部屋を出て行ってしまった。
 女の子の唇って柔らかいんだな。
 いかんいかん、これからのことを考えよう。
 まずは俺が描く世界像に至るマイルストーンを設定するか。

 それにはもう少し情報を集めないとな。
 情報と言えばネーラだ。俺はネーラの部屋を訪れる。
 まずは近くの王国の村か、できれば街を占領して、そこから領土を広げるか。
 できれば今の王国の半分くらいまで占領しておきたいな。
 そのためには、多少田舎でも守りの強い土地が良いな。
 俺はその条件に合うところがないかネーラに尋ねた。

「それならば、ガルド村はどうだニャ? 山間部で一本道、主な産業は林業だニャ。人口三千人程度で王都からは税金だけ搾り取られて、恩恵無しの王都に恨みのある村だニャ。王都はいま、この村に気を使う余裕もないはずニャ」
「よし、そこにするか」
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