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第30話 異世界の宴の終わり

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「さあ! 日が出てきたよ。マモル、約束どおりやろうよ」

 ベレートはまだ半分入っている酒瓶を片手に嬉しそうに話しかけてきた。
 空がうっすらと青みがかってきて、鳥が遠くでさえずり始めた。
 あたりを見回すと起きているのは俺とベレートの二人だけだった。
 魔王軍もアルパカ騎士団も関係なく、あっちこっちで酔い潰れて死屍累々と眠っていた。
 驚いたのが、あのバララムが早い段階で眠ってしまったことだった。その理由というのが夜更かしは肌に悪いということ事だから、二重で驚いた。
 そしてもう一つ驚いたのは、まさか徹夜で飲んで、そのまま模擬戦をやろうと言い出すとは思わなかった。

「あほか! 誰が徹夜で飲んだ直後に、戦闘なんてできるか! レロレロレロ」

 俺は何回目かの嘔吐をしながら、文句を言う。
 俺の酒に対する耐性は普通くらいだ。つまり、朝まで飲んで普通ではいられない。何度か寝そうになりながらもベレートに起こされて、なんとか飲んでいる状態だった。
 そして、ベレート自体も精霊ながら酔っ払うらしい。
 立ち上がってもふらふらとしている。

「嘘つき! 夜が明けたら遊んでくれるって言ったじゃないか」
「そりゃ、言ったけど、朝まで飲むとは思って無かったわい! 楽しかったから良いけど……でも、こんな状態で戦ったら、俺は死ぬぞ。コンバットスーツの中がゲロまみれになって」
「ぷっ、ゲロまみれ~。今とあんまり変わらないじゃないか~わはははは」

 確かに何回も吐いては飲んで、を繰り返していたから、服は自分のゲロで汚れていた。
 そんな俺とは対照的にベレートはずっと飲んでいた。酔っ払ってはいるが、限界までは行っていない。

「そんなの知らないよ~約束は、約束~けらけらけら」

 酔っ払い特有の話が通じない状態だった。
 これは、とりあえず戦ったという実績があれば、ベレートも気が済むだろう。
 こんな状態でまともに戦えるとは思えない。俺も含めて。

「わかった、分かりました。でも、そんなに長くはしませんよ。酔っ払ってますし、眠いし」
「いいよ! じゃあ、準備はいいかい?」
「ちょっと待った。蒸着」

 俺はコンバットスーツを身につけて、腕をぐるぐる回しながらふらふらするベレートに俺はストップをかける。

「ナビちゃん、俺の体内のアルコールを分解できるか? できるなら、やってくれ」
『了解。アルコール分解モード発動』
「痛っ」

 コンバットスーツから俺の肝臓部分に管のような物が刺さる。

『完全分解まで約15秒』
「ありがとう」

 俺は時間稼ぎをすることにした。

「それで、今回のルールはどうしますか? プルーゾンさんのストップが入らないから、ルールを決めないと、あなたは俺を殺すまで止まらないでしょう」
「あははは、そこまでするわけないじゃないか……たぶん」
「たぶんじゃねえか。死ぬのは俺の方だぞ! とりあえず、ギブアップしたらやめてくださいね」

 俺は速攻ギブアップするつもりで提案した。
 ベレートはふらふらしながら俺の顔をのぞき込む。

「う~ん、まあいいや。まだまだできるのにすぐにギブアップしたら、無視してぶっ殺すけど良いかな?」

 やっぱり、ばれているか。酔っ払っていてもそこは騙せないか。

「当たり前じゃないですか。でも、模擬戦だって言うことを忘れないでくださいよ」
「了解、了解。ここだとみんなの邪魔になるから、森の向こうに行こうよ」

 しょうが無く、ベレートの後ろについて行く。

『マモルの中のアルコールは全て分解しました』
「ありがとう、ナビちゃん。頭はすっきりしてきた」
『覚醒用に高カフェインも注入しておきました』
「ありがとうって、それって覚醒剤じゃないよな」
『……』
「おい!」

 俺とナビちゃんがそんなやりとりをしていると、昨日、ノラリス軍と戦闘を繰り広げていた平地にやってきた。まだ、ノラリス軍の死体が数多く散乱していた。
 カラスやハゲタカなどが朝飯を食べていた。

「さあ、準備はいいかい?」
「ああ、いいよ」

 俺は以前のベレートとの戦闘を元に上乗せをしてナビちゃんの戦闘サポートをオンにする。そして、部分シールドとブラスターを手に構えた。
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