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4日目
手続き終了
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ショリナさんは、調理器具を一通り試し終えると、大きく息を吐き満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございました。これらは、とても素晴らしい発明だと思います。感動いたしました。刃の部分を変えるだけで、私でも、簡単にいろいろな切り方ができるなんて、本当に驚きました。それにほら、ポポトの皮も、とっても薄く剥けてますでしょ? しかも無傷なのですよ」
自分が剥いたポポトの皮を私たちに見せ、傷のない綺麗な手の平を自慢げにひらひらさせるショリナさん。
なんとも無邪気で可愛らしい一面を見せられ、一瞬ぽかんとしてしまう、男? 3人。
その後すぐ、笑いが込み上げてきて我慢するのに苦労した。
カジドワさんも肩を震わせているけれど、どうにか声にさないように我慢している。
なのに、バルトさんが思いっきり吹き出してしまい、無駄になってしまった。
笑われたことに気付いたショリナさんは、自慢げに見せていた手を引っ込め、恥ずかしそうに頬を染める。
「も、申し訳ありません。つい、嬉しくて……お恥ずかしいところをお見せしました」
「いえ、そんなに喜んでもらえたなら、僕たちも嬉しいよ。申請に来た甲斐があったってことだよね」
カジドワさんは、緩んだ顔を引き締め、ショリナさんにそう言うと、
「あ、そうだこれ、もしよかったら貰ってくれる? 試作品だから形は少し違うけど、使い方は同じだから。――申請の許可が下りて正式に売り出すまでには、まだ時間が掛かると思うからね。それまでの間だけでも、使ってみないかい?」
「え? よろしいのですか?」
「うん、僕が最初に作った試作品! ショリナさんに使って欲しい」
「あ、ありがとうございます。これがあれば、母をビックリさせられます。楽しみです」
フフフと嬉しそうに笑い、何やら思案しているショリナさん。
ワクワクしていることが、その表情から伝わってくる。
そんなショリナさんを優しく見つめるカジドワさん、なんだか、またいい雰囲気になっている?
カジドワさんは、落ち着いていてチャラチャラした感じがしないから軽薄そうではないのだけれど、ショリナさんに積極的に声を掛け、自然な感じで好感度を上げているように見え、ちょっと驚く。
「カジドワさんて、もしかして女性に好意を持たれやすかったりします?」
「ああ、最近は仕事のことで悩んでいたから、あまり発揮されてなかったようだが、本来はあんな感じだぞ。警戒されない見た目が一役買ってるんだろうな。男馴れしてない相手も、いつの間にか気を許すようになって、気付いたら仲良くなってることがよくあったわ」
「そうなんですね。ボサボサな髪と眠そうな目で、女性の警戒心をなくさせ、砕けた態度と言葉遣いで距離を縮める……と、それに加え『細マッチョ?』な体型も、好印象を与えているのかもしれないですね」
カジドワさんの意外な一面に感心して頷いていると、バルトさんにまた頭をガシガシと撫でられた。
「子供のくせに、なに一丁前に分析してんだ? ユーチにはまだ早いだろ?」
確かに今は子供だ。だからこのまま年を重ねれば、また大人に近付いていくのだろうけれど……その過程が想像できない。
自分には、今もこれからも恋愛的なことに、縁がないような気がしてくる。
これから自分がどんな経験をして大人になっていくのか想像するのは難しいのに、バルトさんはきっと、私が何歳になってもこうして私の頭をガシガシ撫でて、子供扱いをしてくるだろうと思えて苦笑が漏れる。
♢
「画期的な調理器具! 確かに確認いたしました。できるだけ早く許可が下りるよう尽力させていただきます」
テーブルの上の野菜や果物を片付け、仕事モードに切り替えたショリナさんが、書類をしっかりと手に持ち、気合を入れている。
きっと、最短で許可して貰えるだろう。
「よろしくお願いします」
カジドワさんも緩い雰囲気を消し、代表者としてキッチリ頭を下げて挨拶をしている。
私も続けて「お願いします」と、小さく頭を下げた。
これで、終わりかな?
ホッとして息を吐く。
すると、ショリナさんが私に視線を向け、「お疲れ様、私が、お父様の調理器具を、いろいろ試させていただいていたから、長い時間、退屈させてしまってごめんなさいね」と優しく微笑みカジドワさんを見る。
「え?」
「可愛らしくて、利発な息子さんですね」と、カジドワさんに向け一言。
「「「えっ!?」」」
父親(カジドワさん?)の申請手続きに、付いてきた子供と思われた?
「違うぞ!」
「……違いますよ」
「…………」
バルトさん、カジドワさん、無言の私。
ショリナさんは、目の前の男性2人から強く否定の言葉が返され、ビクッと小さく身体を震わせ目を見開く。
それまで黙っていて、関わってこなかった体の大きなバルトさんが、突然身を乗り出すようにして声を上げたのだから、驚くのも無理はない。
「……申し訳ありません。弟さん? でしたか?」
戸惑った様子で、慌てて訂正したショリナさんの言葉に「はぁ~!?」と、バルトさんが眉間に皺を寄せるから、怖い顔がますます怖くなった。
可哀そうに、ショリナさんはバルトさんに睨まれたと思い、オロオロと視線を彷徨わせ、狼狽えている。
「ユーチは俺の息子だ!」
素早い動きで、バルトさんの足の間に座らされ抱え込まれることになった私は、「そんなにムキにならなくても……」と、ショリナさんを申し訳なく思いながら呟き苦笑する。
そもそも、バルトさんが主張していることは事実ではないのだから、そんな強い勢いで否定することはないと思う。
それに引き換えカジドワさんは、いい感じに仲良くなったショリナさんに〝子持ちの既婚者〟だと思われていたのだからショックだったろう。
「僕は独身です。結婚したこともないので当然子供もいません。ついでに兄弟もいないし、今は両親もいないので気楽な一人暮らしです」
いつになく真剣な表情で、キッチリ訂正している。
ついでに自分の情報を告げ、独り身であることを強調しているカジドワさんが、なんだか微笑ましい。
――バルトさんは本気で私を息子(養子)にしたいと思ってくれているのではないかという気がしていて、ちょっと、いや、かなり嬉しかったりするのだけれど……
バルトさんの将来のことを考えたら、それに甘えるわけにはいかないと思う。
気持ちだけ、ありがたく受け取っておくつもりでいる。
ショリナさんに、私がカジドワさんと親子でも兄弟でもないことはすぐにわかってもらえので、バルトさんの機嫌も落ち着いた。
申請書の書類にあった『ユーチ』という名前が、その場にいた大人のバルトさんではなく、子供の私の名前だったと知り、私が調理器具の発案者で特許申請の当事者であることがわかると、とても驚かれてしまう。
実際は私が考えた調理器具ではないので、居心地の悪さを感じたのだけれど笑って誤魔化すよう努めた。
ショリナさんは、そんな私の気持ちを察してくれたのだろうか?
疑問を口にすることなく、無事手続きを終えることができた。
バルトさんが決めた親子設定は、そのまま継続するらしい。
ショリナさんはバルトさんが〝子持ち〟だと知っても、全く気にならないようだったのが気になる。
バルトさんの将来が不安になるユーチだった。
「ありがとうございました。これらは、とても素晴らしい発明だと思います。感動いたしました。刃の部分を変えるだけで、私でも、簡単にいろいろな切り方ができるなんて、本当に驚きました。それにほら、ポポトの皮も、とっても薄く剥けてますでしょ? しかも無傷なのですよ」
自分が剥いたポポトの皮を私たちに見せ、傷のない綺麗な手の平を自慢げにひらひらさせるショリナさん。
なんとも無邪気で可愛らしい一面を見せられ、一瞬ぽかんとしてしまう、男? 3人。
その後すぐ、笑いが込み上げてきて我慢するのに苦労した。
カジドワさんも肩を震わせているけれど、どうにか声にさないように我慢している。
なのに、バルトさんが思いっきり吹き出してしまい、無駄になってしまった。
笑われたことに気付いたショリナさんは、自慢げに見せていた手を引っ込め、恥ずかしそうに頬を染める。
「も、申し訳ありません。つい、嬉しくて……お恥ずかしいところをお見せしました」
「いえ、そんなに喜んでもらえたなら、僕たちも嬉しいよ。申請に来た甲斐があったってことだよね」
カジドワさんは、緩んだ顔を引き締め、ショリナさんにそう言うと、
「あ、そうだこれ、もしよかったら貰ってくれる? 試作品だから形は少し違うけど、使い方は同じだから。――申請の許可が下りて正式に売り出すまでには、まだ時間が掛かると思うからね。それまでの間だけでも、使ってみないかい?」
「え? よろしいのですか?」
「うん、僕が最初に作った試作品! ショリナさんに使って欲しい」
「あ、ありがとうございます。これがあれば、母をビックリさせられます。楽しみです」
フフフと嬉しそうに笑い、何やら思案しているショリナさん。
ワクワクしていることが、その表情から伝わってくる。
そんなショリナさんを優しく見つめるカジドワさん、なんだか、またいい雰囲気になっている?
カジドワさんは、落ち着いていてチャラチャラした感じがしないから軽薄そうではないのだけれど、ショリナさんに積極的に声を掛け、自然な感じで好感度を上げているように見え、ちょっと驚く。
「カジドワさんて、もしかして女性に好意を持たれやすかったりします?」
「ああ、最近は仕事のことで悩んでいたから、あまり発揮されてなかったようだが、本来はあんな感じだぞ。警戒されない見た目が一役買ってるんだろうな。男馴れしてない相手も、いつの間にか気を許すようになって、気付いたら仲良くなってることがよくあったわ」
「そうなんですね。ボサボサな髪と眠そうな目で、女性の警戒心をなくさせ、砕けた態度と言葉遣いで距離を縮める……と、それに加え『細マッチョ?』な体型も、好印象を与えているのかもしれないですね」
カジドワさんの意外な一面に感心して頷いていると、バルトさんにまた頭をガシガシと撫でられた。
「子供のくせに、なに一丁前に分析してんだ? ユーチにはまだ早いだろ?」
確かに今は子供だ。だからこのまま年を重ねれば、また大人に近付いていくのだろうけれど……その過程が想像できない。
自分には、今もこれからも恋愛的なことに、縁がないような気がしてくる。
これから自分がどんな経験をして大人になっていくのか想像するのは難しいのに、バルトさんはきっと、私が何歳になってもこうして私の頭をガシガシ撫でて、子供扱いをしてくるだろうと思えて苦笑が漏れる。
♢
「画期的な調理器具! 確かに確認いたしました。できるだけ早く許可が下りるよう尽力させていただきます」
テーブルの上の野菜や果物を片付け、仕事モードに切り替えたショリナさんが、書類をしっかりと手に持ち、気合を入れている。
きっと、最短で許可して貰えるだろう。
「よろしくお願いします」
カジドワさんも緩い雰囲気を消し、代表者としてキッチリ頭を下げて挨拶をしている。
私も続けて「お願いします」と、小さく頭を下げた。
これで、終わりかな?
ホッとして息を吐く。
すると、ショリナさんが私に視線を向け、「お疲れ様、私が、お父様の調理器具を、いろいろ試させていただいていたから、長い時間、退屈させてしまってごめんなさいね」と優しく微笑みカジドワさんを見る。
「え?」
「可愛らしくて、利発な息子さんですね」と、カジドワさんに向け一言。
「「「えっ!?」」」
父親(カジドワさん?)の申請手続きに、付いてきた子供と思われた?
「違うぞ!」
「……違いますよ」
「…………」
バルトさん、カジドワさん、無言の私。
ショリナさんは、目の前の男性2人から強く否定の言葉が返され、ビクッと小さく身体を震わせ目を見開く。
それまで黙っていて、関わってこなかった体の大きなバルトさんが、突然身を乗り出すようにして声を上げたのだから、驚くのも無理はない。
「……申し訳ありません。弟さん? でしたか?」
戸惑った様子で、慌てて訂正したショリナさんの言葉に「はぁ~!?」と、バルトさんが眉間に皺を寄せるから、怖い顔がますます怖くなった。
可哀そうに、ショリナさんはバルトさんに睨まれたと思い、オロオロと視線を彷徨わせ、狼狽えている。
「ユーチは俺の息子だ!」
素早い動きで、バルトさんの足の間に座らされ抱え込まれることになった私は、「そんなにムキにならなくても……」と、ショリナさんを申し訳なく思いながら呟き苦笑する。
そもそも、バルトさんが主張していることは事実ではないのだから、そんな強い勢いで否定することはないと思う。
それに引き換えカジドワさんは、いい感じに仲良くなったショリナさんに〝子持ちの既婚者〟だと思われていたのだからショックだったろう。
「僕は独身です。結婚したこともないので当然子供もいません。ついでに兄弟もいないし、今は両親もいないので気楽な一人暮らしです」
いつになく真剣な表情で、キッチリ訂正している。
ついでに自分の情報を告げ、独り身であることを強調しているカジドワさんが、なんだか微笑ましい。
――バルトさんは本気で私を息子(養子)にしたいと思ってくれているのではないかという気がしていて、ちょっと、いや、かなり嬉しかったりするのだけれど……
バルトさんの将来のことを考えたら、それに甘えるわけにはいかないと思う。
気持ちだけ、ありがたく受け取っておくつもりでいる。
ショリナさんに、私がカジドワさんと親子でも兄弟でもないことはすぐにわかってもらえので、バルトさんの機嫌も落ち着いた。
申請書の書類にあった『ユーチ』という名前が、その場にいた大人のバルトさんではなく、子供の私の名前だったと知り、私が調理器具の発案者で特許申請の当事者であることがわかると、とても驚かれてしまう。
実際は私が考えた調理器具ではないので、居心地の悪さを感じたのだけれど笑って誤魔化すよう努めた。
ショリナさんは、そんな私の気持ちを察してくれたのだろうか?
疑問を口にすることなく、無事手続きを終えることができた。
バルトさんが決めた親子設定は、そのまま継続するらしい。
ショリナさんはバルトさんが〝子持ち〟だと知っても、全く気にならないようだったのが気になる。
バルトさんの将来が不安になるユーチだった。
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