泣き虫転生少女と銀の猫

文字の大きさ
上 下
13 / 37

じゅうさん

しおりを挟む
「いよいよだな。」
「はい、ルーカさん!頑張ってきます!」

ミーアはその日精霊教会に来ていた。

ルーカの住むアパルトメントがあるジリアーニ地区の中央にででんと建っている神秘的で繊細な建物が精霊教会だ。ジリアーニ中央広場まで馬車で行き広場の目の前に教会やフラワー公園があるので帰りに公園にある喫茶店でランチを食べる予定だ。


「うわぁ、すごい綺麗。」
見上げると精霊教会のシンボル無色透明な精霊水晶が正面の壁上空に飾られ…いや、浮かんでいた。
その水晶に少し似た丸い大きな球体が祭壇の奥にあり、それが『防御球』だと分かって緊張が増した。
この『防御球』にミーアは入るのだろう。司祭が張る防御魔法を具現化して作られたこの球体の中で精霊の愛し子の力を解放する為に。

前世はわちゃわちゃしてるうちに無理やり解放してしまった為、順を追って解放するのは初めてだ。

ルーカさんが根気よく付き合ってくれて、時々暴走しそうになるとさっと力でねじ伏せてくれた。
信じられない力だった。おかげでミーアは暴走を恐れず順調に耐性をつけることが出来たのだ。

司祭様とも数回会ううちに慣れてきてたくさんのお話しをしてもらった。庶民の世話など高貴な我等にはとても務まらぬ、などと言ってミーアの世話を押し付けられた司祭様はエミル様と言ってどこぞかの伯爵家の庶子らしかった。
エミル様はかなり無表情なんだけど世話をしてもらっている内に面倒みの良い子煩悩なお父さんみたいな人だと思ったのは内緒だ。
御年100歳らしいが外見は青い髪の糸目の美形さんだ。糸目、と言うか、目を開けたとこを見たことが無いので瞳の色すらよく分からないんだけど。
エミル様はただ今神話に夢中らしかった。様々な文献は彼には稀少なお宝らしい。
規格外の人は神の愛し子と言う聖獣(一角獣、金竜、朱雀、玄武、白虎、青龍など)の能力すら何の準備も無しに覚醒する場合があるらしいよ。だなんて冗談を聞きながらミーアは楽しく、破壊などもすること無くこの日を迎えた。

ルーカの規格外の能力に冗談で『規格外の人って言えばルーカさんだよね?じゃあルーカさんは聖獣白虎とかかな?』なんて言ったら盛大に硬直された。
でも、ルーカさんは猫の獣人だし、そんなことあるわけないしと笑った。
(だって、神の愛し子なんて神話の時代のお伽噺だもの)

そんなこんなで既に十分な耐性を作れたミーアにとって今日の解放は当然成功する予定だった。

「では、ルーカ様お時間まではこちらの控え室でお待ち下さい…直ぐにエメリア様がいらっしゃると思います。」
深々と頭を下げる司祭が告げた名前を聞いたルーカが眉間にしわを寄せそっとミーアの腰に腕を回した。
「うひゃ」
子供の身体というものはとにかく擽ったがりだとミーアはミーアになって知った。
公爵令嬢カトリーヌでは人との触れ合いなど侍女やお針子達がせいぜいである。なのでカトリーヌの時どうだったかは、分からないがどうやら自分はかなり、擽ったがりなのだとルーカと知り合ってから気付かされた。やたら擽ってきたり、頭を撫でてきたりとルーカとしては犬猫ハムスターなどのペット感覚でミーアを構って居るのだろうが…正直いつか笑い死ぬ気がしてならない。
「ちょ、ルーカ、さ…くすっ…ひゃ」
擽ったいです!とペチペチ腕を叩き訴えるがルーカはかなり良い笑顔でスルーしてきた。
ちょ?な、なんでここでお腹を擽るの~!?
はーなーしーてー!!

(やだ)

短いがルーカの口が動いた。
声は無かったけどあの口は確かにやだ、と動いていた。

ミーアはムッとむくれひどい!と伝える為口を開け、ぶひゃひゃひゃひゃひゃと擽ったさに笑ってしまった。

くそぅくそぅ!
ミーアは涙目でルーカを睨むがルーカは相変わらず知らんぷりだ。

ヒドイー!バカー!腹黒!「鬼畜ー!」
「…ミーア、おかしいな?今鬼畜って言ったかい?帰ったら膝を付き合わせてじっくり話をしようね?」
ひぇー!最後だけ声に出てた!?

ミーアは首がもげる勢いで拒否を示したのにルーカはにっこり笑っている。絶対この人人懐っこい笑顔の下は真っ黒なんだ!

さっきの一瞬見た不機嫌な顔はすっかり消え去り満足そうに笑っていた。

今は時々お邪魔するルーカの実家の落ち着いたシックな部屋もルーカさんらしい、と納得してしまっている。

いつも人懐っこく明るい笑顔の印象だけど…
眠った時のルーカのただただ美しい彼の顔は怖いくらいに綺麗で…

だからやっぱりあの部屋はルーカっぽい…

パタパタと忙しない足音とその後にガツガツと重い足音が続いて聞こえた。女性と武装した騎士や兵士だろうか?
なぜ武装を解いてないのかな?
この部屋に近づいて来るからさっき案内してくれた方が言っていた…なんとか様が来たのだろう。

「ルーカ様ぁぁー!本当にルーカ様だわ!ああ、嬉しい!エメリアに会う為に来てくださったのよね?」

いきなり入って来たのは黒髪に淡い空色の瞳をした神秘的なまでに美しい少女だった。

ノックが聞こえなかったけれど…きっとミーアには聞こえなかっただけなんだろう。
そんな訳もないのにミーアは遠い目でルーカを見た。
きっとルーカをお目当て何も考えずに飛び込んで来たのだろうな…とミーアは無表情でルーカを見た。
「エメリア嬢、久しぶりだね?今日はあなたもこちらに来ていたんだ…」
「ええ、お父様がこちらに用事があって…ルーカ様、この子はどなた?…なぜ、この子の腰に腕を回させられているの?」

言い回しが可笑しくないかな?
それだと、私がルーカに無理やり腕を回してって言って回して貰ってる感じにならない?

「あ、この子は俺の婚約者のミーア・ヴィルガだよ。ミーア、こちらはこの精霊教会のマルコ・モンタルチーニ大主教様の孫娘、エメリア嬢だよ。」

婚約者!?何嘘ついてんの!?

うん、私帰っても良いかな?

絶対に巻き込む気満々の張り付いた笑顔で笑うルーカの足先をグリッと踏んだ私はきっと悪く無いよね!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

恋人に浮気された私は、辺境伯に見初められる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1,083

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:11,076pt お気に入り:257

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,683pt お気に入り:3,093

極道恋事情

BL / 連載中 24h.ポイント:1,927pt お気に入り:778

悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,924pt お気に入り:3,025

巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

BL / 連載中 24h.ポイント:4,110pt お気に入り:8,539

【完結】出戻り令嬢の奮闘と一途な再婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:146

処理中です...