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さんじゅうさん
しおりを挟むズズン、ドーン!!
凄まじい爆音が辺りに轟く。
「きゃっ、な、なんの音なの?!」
真っ暗なはずの山が赤く青く金色にと輝く。何が起こっているのかなんてわからない。
「誰か、医師様は、誰かー!」
魔獣が通過してきた方向、左翼側から人の声がした。
「医師、そう言えば彼等はどこ?」
巫女姫候補さんが興奮気味ではあるが落ち着けと胸を撫でながらよろよろと立ち上がった。
勝手口付近にはミーアや他の庶民の救護班の者達が、建物の奥に行くにつれて身分の高い者へと部屋を割り当てていた。
「医師様達は魔獣が襲って来てすぐに駆け付けてくださって…でも…」
左翼側から助けを求めて走って来た女性が顔を歪めた。たぶん襲われてしまったんだろう。この方は連絡係で残されていた魔術師さんらしく騎士隊長達へと知らせる魔法を使う間に気づけば皆倒れていたらしい。
巫女姫候補さんとパオラ様のお付きの者たちなどがそれらの部屋を確認に向かっていく。
「いません!どうしましょう…」
侍女やお付きの者たちが口々にそう報告する。その報告に左翼側からやって来た女性が真っ青な顔を更に白くして跪くと手を合わせた。
「聖女様、巫女姫様、精霊の愛し子様!どうか、どうか、左翼側に、助けてください!どうか、助けてください…」
「何があったの?まさか、あちら側では怪我人が溢れてるの?!」
「…私以外にまともに動ける者はいません!みんな…っふ、うぅぅぅ」
茶色の髪の女性はそう言って巫女姫候補さんに縋るように泣き崩れた。
「…行きましょう…ちょっと、聞いてるの!あなた、さっきからぼーっとして!あなたが、あなたがわたくし達を助けてくれたんでしょう!しっかりしなさいよ!」
バシッ!っと背中を叩かれミーアはビクッと身体を跳ねさせた。
「ん?あら?反射が反応しなかったわね?」
「……巫女姫候補、さん?あの、今のはもしかして、私を元気ずけたかったから、その叱咤激励の意味だったからではないかな?なんて…あの。はい!行きましょう!急がなければなりませんよね!」
「あ、当たり前よ!それよりも本当に急がなけれならないわ」
なんだか気恥しい気持ちで、先程までの黒く澱んだ空気はいつの間にか消え去りミーアは首を傾げるも巫女姫候補さんと揃ってパオラ様の腕を無理やり引いて左翼側へと移動した。
「ひっ!」
「大変だわ…」
パオラ様は目を見開きその場に縫い付けられた様に立ち尽くした。
反対に巫女姫候補さんとお付きの人達は一斉に倒れている人や怪我を負って蹲る人達へと駆け寄っていった。
そしてミーアは。パオラ同様、恐ろしい光景に目を見開き立ち尽くしていた。
「……愛し子様!…っ、ミーア様!しっかりしなさいよ!あなたは精霊の愛し子なんでしょう?奇跡の力を持っているんでしょう?わたくしには一生手の届かない。人々を癒し回復し、治癒する。人々を救う尊き力を!」
懇願、怒り、嫉妬、羨望、願い。
様々な感情が爆発した様な叫びにミーアはぼんやりした思考からパンと一気に現実が戻って来た。
未だにバクバクと嫌な音色を奏でる心音は自分の弱さの象徴の様に乱れ血の気の引いた身体は思った通りに動かなくて。情けないとしか思えなかった。
でも、自己嫌悪も反省も後悔も後回しにしよう。
「…ご、め、なさい。巫女姫候補さん」
「ルナよ。わたくしの名前。ルナ・シモネ。…ルナでいいわ。」
ツンとした顔は苦虫を噛み潰したように歪んでいたが諦めたようにため息をつくと「行きましょう…ミーア様」とミーアをちらりと見た。
「はい、ルナ様い、行きましょう!」
ちょっと、いや、かなり嬉しかった。
見えてくる光景に竦みそうになるけれど「大丈夫、大丈夫なんとかなるさぁ」と言うリア婆ちゃんの口癖を頭の中で繰り返して一歩を進めた。
「たぶんこの方で最後だと思うけど。皆さん怪我をされた方が他にもいないか見て来て下さる?気絶したままの方は特に、注意して見てくださいね?」
さすがの貫禄である。ルナ様とパオラ様のお付きの方たは皆が皆テキパキと治療を続けるミーアのサポートをして患者の治癒を手伝いと動き回る。
ミーアはその様子をチラチラと見て学びつつ欠損した部位を上位治癒魔法と回復魔法とを細々と使い分けて治療する。
汗が滴るが魔法の使いすぎなんかではなく自分の貧弱な心が流している冷や汗だ。そんな情けない汗を巫女さん達が拭ってくれたり、助手を買って出てくれているおかげで何とか頑張れている。
「………わ、わたくしも。わたくしも、回復魔法なら使えますわ」
治療がひと段落した頃にぽつりとパオラ様が呟く。
パオラ様は置き物の様に壁にもたれて座り込んでいたが。下を向いたまま呟くと回復魔法を発動した。
真っ白な光がたちまちミーアを包んでフラフラになっていたはずの身体からすっかり気だるさと疲労が消えていた。
「……ありがとうございます。パオラ様」
なぜ私に?と言う疑問が顔に出ていたのだろうパオラ様は抱え込んでいた膝の上に載せていた頭を上げてこちらを見た。
「べつに、わたくしは………」
そう言ったきり黙り込んしまった。
その顔は反省した様な申し訳なさそうな表情に見えてなんだかくすぐったい気持ちになった。
外はいつの間にか静かになり、魔獣達のおぞましい鳴き声も止んでいた。
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