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「アリアンナ様、刃物を持っている可能性があるので応援を呼びます」
ビアンカに油断なく警戒の色を強めた視線を向ける侍女ミラがアリアンナが漸く聞き取れる小さな声で伝えてくる。
魔法だろうか、ミラの持つ腕輪から何らかの魔力の波動を感じた。なるほど、あの腕輪は何らかの通信手段なのだろう。
けれどなるべくなら応援が到着する前になんとかしたい。騒ぎになる前にビアンカが落ち着くのが一番いいのだけれど。
「アリアンナ、今日ジョバンニ様とお話ししていたけれど。アレだってお祖母様のおかげよ。無能なあんたに好き好んで話しかけるわけないし」
バン、とビアンカがテーブルにズタボロのバックを叩き付ける。
アリアンナは彼女が苛立ちを物にぶつけるのは何度も目にしていた為、この行動も、まぁよくある事だとさほど驚く事は無かった。
しかし、ミラの方はやはり驚いた様で、無言ではあったがビクリと肩が跳ねていた。
さぁ、どうしようかしら。
アリアンナは魔力なんてあってもしょぼい生活魔法しか使った事は無いし、剣なんて握ったことすら皆無だ。
自慢では無いが全く戦力にはならない。
でもビアンカのこの様子だと大騒ぎになるか、ミラと私が刺されてしまうかのどちらかの様な気がする。
「ジョバンニ様がアリアンナに話しかけたのはね?ついでなの、ついで!知ってたアリアンナ。あんたはみんなから嫌われてるのよ。ジョバンニ様だってあなたみたいな目ばっかり大きなガリガリのチビ気持ち悪くて嫌いだもの。わたくし、あなたが何か勘違いしてないか心配だったから─」
勢いを増していたビアンカの声が急に途切れた。怪訝に思ってビアンカを見ると彼女は驚愕した顔をアリアンナの後ろに向けている。
「私がどうかしたかな?」
アリアンナは後ろから聞こえてきた涼し気なその声に凍りついた。
「………うそっ、ジョバンニ様!?……なぜ」
ビアンカの驚いた顔を見ながらアリアンナもまた戸惑う。
なぜこの方がここに現れるのかと。先程まではクレパルディ公爵夫人とお話しされていたのに。
「第一王子殿下。なぜこちらに?」
アリアンナは硬い声でそう問う。
「おや?私が来ては迷惑だったかな?」
柔らかな印象を与える笑みがなんだか今は空々しく感じてアリアンナは身動ぎして瞳を揺らした。
「何やら私の気持ちとはかけ離れた言葉を。代弁者を騙る者が好き勝手に口にしているのを耳にしてね。」
ちらりとジョバンニがビアンカを見た。その眼差しはその暖かく柔らかな声とは裏腹に酷く冷たいものだった。
「あっ、わ、わたくしは」
「しかも私の名を勝手に呼んでいるなんて。どこの家の娘かは知らないが、不愉快だね。」
低い獣の唸り声の様に、先程までの彼からは想像もできない恐ろしい声が聞こえた。
低い怒りを孕んだその声と嫌悪を隠さないその表情に彼の本質が決して穏やかなものでは無い事を伝えてくる。
「ひっ……」
ビアンカがジョバンニのあまりの恐ろしさに後退りして転げる様に座り込んだ。
「アリアンナ嬢、覚えてるかな?この控え室には『監視』の魔法がかかっていると教えたよね?安心して。直ぐに君の持ち物を無惨な物にした犯人(死刑囚)を捕まえてあげるから。」
なぜだろう。今、副声音が聞こえた気がした。
そんなはずは無いのに。怖い。
令嬢の名前を呼ぶ事をしないジョバンニがアリアンナの名前をなぜ呼んでいるのかといった疑問もあったが今はそれを上回る衝撃の連続でアリアンナの頭は混乱していた。
……監視の魔法?
そうだ。この控え室に入る前にジョバンニがそんなことを言っていたでは無いか。
十中八九アリアンナのバックを無残なものにしたのはビアンカだろう。
しかも、公爵家の屋敷の中での犯行、しかも王族であるジョバンニの存在が拍車をかけて最悪だった。
とんでも無く不味い事態になったとビアンカもわかっているのだろう。顔が絶望を通り過ぎてもはや死んでいる。
これがいとこ(ビアンカ)の犯行だと分かれば祖母は悲しむだろうし、叔父夫婦も悲しむ。しかもアリアンナに会う度にこの事を思い出してみんなから悲しい顔をされてしまうだろう。
それにこんなことは令嬢達にしてみれば良くある事だし、自分にも身に覚えのある手口だ。同族に近いビアンカが捕まるのを想像するとなんだかゾッとした。
「いえ、あの。ジョバンニ王子殿下」
「ジョバンニ様でも構わないよアリアンナ嬢」
「あの、ジョバンニ、殿下…」
「うん、可愛らしいねアリアンナは」
呼び捨てはちょっと………
と、言いたい。なぜ意味深な事を言ってくるの?と困惑と苛立ちを感じた。
不信感も露なアリアンナの眼差しをジョバンニは笑顔で、敢えて無視をしている様に感じられてアリアンナの眉間に皺がよる。
「ジョバンニ殿下、わたくしと彼女ビアンカはいとこ同士なのです。よく彼女とは喧嘩をしたり致しますけれど。仲良しなんです!わたくし達。ですからちょっと今回は行き過ぎただけなのです。」
なぜ私がビアンカをかばっているのかしら?と頭の片隅で思ったアリアンナであった。
ビアンカに油断なく警戒の色を強めた視線を向ける侍女ミラがアリアンナが漸く聞き取れる小さな声で伝えてくる。
魔法だろうか、ミラの持つ腕輪から何らかの魔力の波動を感じた。なるほど、あの腕輪は何らかの通信手段なのだろう。
けれどなるべくなら応援が到着する前になんとかしたい。騒ぎになる前にビアンカが落ち着くのが一番いいのだけれど。
「アリアンナ、今日ジョバンニ様とお話ししていたけれど。アレだってお祖母様のおかげよ。無能なあんたに好き好んで話しかけるわけないし」
バン、とビアンカがテーブルにズタボロのバックを叩き付ける。
アリアンナは彼女が苛立ちを物にぶつけるのは何度も目にしていた為、この行動も、まぁよくある事だとさほど驚く事は無かった。
しかし、ミラの方はやはり驚いた様で、無言ではあったがビクリと肩が跳ねていた。
さぁ、どうしようかしら。
アリアンナは魔力なんてあってもしょぼい生活魔法しか使った事は無いし、剣なんて握ったことすら皆無だ。
自慢では無いが全く戦力にはならない。
でもビアンカのこの様子だと大騒ぎになるか、ミラと私が刺されてしまうかのどちらかの様な気がする。
「ジョバンニ様がアリアンナに話しかけたのはね?ついでなの、ついで!知ってたアリアンナ。あんたはみんなから嫌われてるのよ。ジョバンニ様だってあなたみたいな目ばっかり大きなガリガリのチビ気持ち悪くて嫌いだもの。わたくし、あなたが何か勘違いしてないか心配だったから─」
勢いを増していたビアンカの声が急に途切れた。怪訝に思ってビアンカを見ると彼女は驚愕した顔をアリアンナの後ろに向けている。
「私がどうかしたかな?」
アリアンナは後ろから聞こえてきた涼し気なその声に凍りついた。
「………うそっ、ジョバンニ様!?……なぜ」
ビアンカの驚いた顔を見ながらアリアンナもまた戸惑う。
なぜこの方がここに現れるのかと。先程まではクレパルディ公爵夫人とお話しされていたのに。
「第一王子殿下。なぜこちらに?」
アリアンナは硬い声でそう問う。
「おや?私が来ては迷惑だったかな?」
柔らかな印象を与える笑みがなんだか今は空々しく感じてアリアンナは身動ぎして瞳を揺らした。
「何やら私の気持ちとはかけ離れた言葉を。代弁者を騙る者が好き勝手に口にしているのを耳にしてね。」
ちらりとジョバンニがビアンカを見た。その眼差しはその暖かく柔らかな声とは裏腹に酷く冷たいものだった。
「あっ、わ、わたくしは」
「しかも私の名を勝手に呼んでいるなんて。どこの家の娘かは知らないが、不愉快だね。」
低い獣の唸り声の様に、先程までの彼からは想像もできない恐ろしい声が聞こえた。
低い怒りを孕んだその声と嫌悪を隠さないその表情に彼の本質が決して穏やかなものでは無い事を伝えてくる。
「ひっ……」
ビアンカがジョバンニのあまりの恐ろしさに後退りして転げる様に座り込んだ。
「アリアンナ嬢、覚えてるかな?この控え室には『監視』の魔法がかかっていると教えたよね?安心して。直ぐに君の持ち物を無惨な物にした犯人(死刑囚)を捕まえてあげるから。」
なぜだろう。今、副声音が聞こえた気がした。
そんなはずは無いのに。怖い。
令嬢の名前を呼ぶ事をしないジョバンニがアリアンナの名前をなぜ呼んでいるのかといった疑問もあったが今はそれを上回る衝撃の連続でアリアンナの頭は混乱していた。
……監視の魔法?
そうだ。この控え室に入る前にジョバンニがそんなことを言っていたでは無いか。
十中八九アリアンナのバックを無残なものにしたのはビアンカだろう。
しかも、公爵家の屋敷の中での犯行、しかも王族であるジョバンニの存在が拍車をかけて最悪だった。
とんでも無く不味い事態になったとビアンカもわかっているのだろう。顔が絶望を通り過ぎてもはや死んでいる。
これがいとこ(ビアンカ)の犯行だと分かれば祖母は悲しむだろうし、叔父夫婦も悲しむ。しかもアリアンナに会う度にこの事を思い出してみんなから悲しい顔をされてしまうだろう。
それにこんなことは令嬢達にしてみれば良くある事だし、自分にも身に覚えのある手口だ。同族に近いビアンカが捕まるのを想像するとなんだかゾッとした。
「いえ、あの。ジョバンニ王子殿下」
「ジョバンニ様でも構わないよアリアンナ嬢」
「あの、ジョバンニ、殿下…」
「うん、可愛らしいねアリアンナは」
呼び捨てはちょっと………
と、言いたい。なぜ意味深な事を言ってくるの?と困惑と苛立ちを感じた。
不信感も露なアリアンナの眼差しをジョバンニは笑顔で、敢えて無視をしている様に感じられてアリアンナの眉間に皺がよる。
「ジョバンニ殿下、わたくしと彼女ビアンカはいとこ同士なのです。よく彼女とは喧嘩をしたり致しますけれど。仲良しなんです!わたくし達。ですからちょっと今回は行き過ぎただけなのです。」
なぜ私がビアンカをかばっているのかしら?と頭の片隅で思ったアリアンナであった。
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